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部室に入るなり緊張感の真っただ中に放り出された形だが、全員闇王様を応援していた。
皇子が友達を作りたいのなら、今のやり方ではダメダメだし、ウチのクラブを頼るのもお門違いなんだよ。
そういうの、自覚しないと人の上に立つ者として資質を疑われるぞぉ~。
「なんか入って来るなり緊迫した状況で、悪かったな」なんて、珍しく闇王様が謝ってくるモノだから、みんな恐縮しちゃって「いえいえ、とんでもない」だの、「俺たちの言いたい事を言ってくれてスッとしました」とか、「アドルフォ様がおっしゃってたのは当然の事です」と言った風に、賞賛の嵐が言葉の形で皆の口から飛び出した。
珍しく闇王様が照れているみたいで、ちょっと耳の辺りが赤い。
さっさと作戦会議室の定位置に戻ろうとする闇王様の背中に、「今日は、面白いおやつを考えているので楽しみにしてくださいね」と呼び掛けたら、闇王様だけではなく皆の目がランランと輝いてこっちを見た。
はいはい。美味しいの作りますよ~。
今日は、前世でヨーロッパ旅行の時に食べた料理を再現したいんだ。
それは小麦のもみ殻で作られたシートを油で揚げた上に、ポテサラが載っけられたモノだ。
じゃがいもを形がないまでに潰したポテサラも美味しいし、態と角切りにし少し固めに湯がいたジャガイモがメインとなっているポテサラでも美味しかった。
中華のえびせんべいとも海老チップスとも呼ばれているモノに近い形で、薄いシートが高温の油で揚げられて多少波打つのだけれど、その真ん中にポテサラを載せちゃうのだ。
ゆで卵も輪切りにしてドーンと載せたり、赤いパプリカの細切りを載せたりして視覚的に目を楽しませるお店もあったりして、店ごとの工夫が楽しめる料理だった。
個人的にはハムではなくシーチキンでポテサラを作った方が全体の味のバランスが良かったと記憶している。
早速キッチンへ入ってポテサラから作り始める。
ふっふっふっふー。
今日は2種類のポテサラを作るつもり。
潰したジャガイモと角切りのジャガイモの奴ね。
後、いくつかにはカレー粉や辛くないパプリカを少し振りかけても美味しいよね。
じゃんじゃん作ろう!
サックサクの土台の上に、しっとりとしたポテサラ。
もしこの料理が江戸時代の日本にあったら、脚気が無くなっていたでしょうね。
麦のもみ殻にはビタミンBや食物繊維が豊富に含まれているんですもの。
ああ、この料理を思い出すと中華のエビ煎餅も食べたくなっちゃうなぁ。
味は違うけど、形状と油で揚げるという調理の仕方が今日の土台と似ているので、作るとしても数日経ってからの方が無難ね。
「ねぇ、ここのおやつってアウレリアがいつも一人で作ってるけど、手伝わなくて大丈夫?」
ランビットが申し訳なさそうな顔でキッチンに入って来た。
「ありがとう、ランビット。実はね、私の家ってフローリストガーデンだって知ってる?あそこの料理って特別な技術を使っているんだけど、ここでも私が時々ウチの店の技術で料理するので、皆キッチンへ入って来るのを遠慮してくれているの。折角、気にして声を掛けてくれたのに、ごめんね」
「ああ、そう言えばアウレリアの家はフローリストガーデンだったね。俺、実はまだフローリストガーデンって行った事がないから、どんな料理が出されているのか知らないんだよ」
ああ、これは誘ってって事なのかな?
二人でそんな話をしていると、横から闇王様が、「実はオレもボブん所の錬金術工房が気になってるんだけど、まだ一度も訪ねた事がないんだよな」と言い出した。
「ランビットのお家って何をしているの?」
屈託のない勇者様がズンズンとランビットの個人情報について踏み込んで来る。
「家?家は石材問屋なんだ。王都の殆どの石材は家の店で扱っているんだよ」
「私、フェリーペの所の商店も見て見たいなぁ」と、試しに言ってみたら、「じゃあさぁ、メンバーの実家訪問を計画しないか?」と闇王様が宣われた。
「ボブん所の錬金術工房を見て、すぐ近くにあるフェリーペん所の店を、見学し終る頃には昼ご飯の時間だからフローリストガーデンで食事、その後ランビットの所の石材問屋を、最後に家の騎士団の練習場でも見るか?」
「アドルフォ様の所の騎士団ですか?すごい!」
フェリーペたち男子が目をランランと輝かせている。
「うん。ただ、騎士団の練習を見るのなら午前中の方が都合が良いので、さっき言った午前と午後の予定を逆さまにするか」
「いいですねぇ」
何かアレヨアレヨと言う間に、今週末、部員ん家ツアーが組まれてしまった。
ちょっと待って!ウチの店、席が取れないと思うんだけど・・・・。
「すみません。お席が取れるかどうか分からないので、まずウチの店に問い合わせても良いですか?それと参加者はウチのクラブ全員で間違いないですか?」
「うむ。アドリエンヌが来たら彼女にも確かめるけど、恐らく大丈夫だと思うので全員だな」
「あっ、リア。ガスペール先生は勘定に入れなくいいからな」とフェリーペが口にすると、「俺が何だって?」と噂をすればなんとやら。ガスペール先生が玄関扉前に立っていた。
「え、いや、何でもありません」
フェリーペがしどろもどろに応えると、「アウレリア、取り敢えずは今日のおやつを大至急作ってくれ」と闇王様。
分かります。ガスペール先生には餌を与えて、とっとと食べてもらって私たちだけで週末の予定を立てたい。そうですね?




