29
「夕食だよ。食べられるかい?」
伯母さんが優しく起こしてくれた。
「店の方で食べるかい?それともここへ持って来ようか?」
恐らく今は夜のピークがはじまるちょっと前くらいだろう。
今日一日好きな事をさせてもらったのに、これから忙しく立ち働く伯母さんに食事まで運ばせるのはダメダメだ。
「調理場で食べます。心配掛けてごめんなさい。明日はちゃんとお手伝いできます」
「無理する必要はないからね」と伯母さんはどこまでも優しい。
言葉遣いは結構乱暴なんだけど、人間味があるというか、子供がいるから他の子にも優しくなっちゃうのかもしれない。
調理場では、伯父さんと爺さんが忙しく立ち働いていた。
伯母さんと一緒に私が入って来た事に気づくと「もう、体調は大丈夫か?」と伯父さん手を止めずに聞いてきた。
「はい。迷惑を掛けてごめんなさい」
「迷惑じゃないから、体調が悪い時は早めに言うんだぞ」
「はい」
「アウレリアがいないと野菜の仕込みに時間が掛かってかなわんよ。早く良くなっておくれ」と爺さんが濡れた手を前掛けで拭ってから私の頭を撫でてくれた。
明日からは仕事に復帰できると報告してから、調理場の隅で夕食を食べていたランディの隣に座って私も食べ始めた。
もっとスキルの検証をしたいが料理魔法は食材が必要になるのかどうか、それにMPの消費がどれくらいになるのか分からないので、日を変えて徐々にチャレンジすることにしよう。
スキルとMPの関係については伯父さんたちに聞きたかったが、そろそろ夜の馬車が到着する時間帯だ。
1日何のお手伝いもしていない自分が、伯父さんたちの仕事の邪魔をするのも気が引けるので、聞くのはもっとみんながゆったりしてる時がいいよねと思いながら夕食を終えた。
使った食器を洗い桶に突っ込んで家の方に戻った。
ベッドの足元にはイタリアンパセリの苗が転がっていたので、まずはそれを植えてくるかぁ。
ちゃっちゃと植えて、「早く大きくなれ」と思いながら水を掛けておいた。
寝支度をしてベッドに入ったのだが、今日は何度も寝てるので若干目が冴えている。
無理に寝ようと思ったら寝る事は出来るけど、スキルの事や、ポンタ村での事など、ちゃんと考えを纏める必要があると思っていたので、今がいい機会だと思った。
例えば、スキルの事は伯父さん達に聞く方が良いか、先生に聞く方が良いかとか。
食堂を手伝うとして、どこら辺までスキルを使うかとか。
その他にも、折角複数のスキルを得たのだ、何とか活かして父さんの実家も母さんの方も盛り立てて行く方法はないだろうかとか、結構考える事はある。
例えば『熊のまどろみ亭』で使う食材を母さんの実家から定期的に購入すれば、食堂の方は予定した食材を定期的に入手できるだろし、フェリシアの家の方は安定して現金収入が得られるだろう。
農産物だけじゃなくって家畜もいろいろ飼っていたみたいだから、その数を増やして肉やラード、何より卵を定期的に入荷できたらいろんな料理が作れる様になるんじゃないかな。
そういう相互協力の体制を構築してから、私のスキルを使うとよりスキルを活かせるんじゃないかな?
『食材鑑定』『食材育成』なんかは毎日使っても大丈夫じゃないだろうか?
毎回、『食材鑑定』を使って、より良い料理になる様に工夫するとかね。
『食材育成』はここよりフェリシアの家の方が有益に使えるかもしれない。
明日の朝、『熊のまどろみ亭』の裏庭の畑を忘れずに見て今日とどんな違いがあるか確認してみよう。
『調理ストレージ』とかは、人前では使えないと思う。
使うとしたら自分の為だけにこっそりとだ。
でないと複数のスキル持ちだとバレてしまう。
いや、全て『調理スキル』で誤魔化せるだろうか?
う~ん。隠すのはやっぱり難しいだろうなぁ。
だって、『ストレージ』っていうスキルも一般的に知られてるみたいだから、『調理スキル』持ちが『ストレージ』持ってるだけで、サブスキル持ちだと思われてしまうかも・・・・。
『調理具製作』も、作った物がこの世界にない物なら人目につく場所で使うのは危ないかも。
そんな事を想いながら眠りについた。




