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イベントクラブが次に何を計画しているのかまでは、ウチのクラブに情報が来ていない。
下手にその情報が耳に入ると、学園側から意見だけでも・・・・と無理矢理巻き込まれる可能性があるので、ウチのクラブとしては一切あっちの情報は知りたくない。
決闘大会で怪我人が出た事を受けて、生徒たちの間ではイベントクラブの催し物より、あややクラブの方が安心と言った気風が高まり、それはそれであまり喜ばしい事ではないと思う。
何故ならイベントクラブがこちらを頼って来る可能性が出てくるからだ。
兎に角、ウチはイベントクラブとは関わりたく無いのだ。
今、あややクラブの面々はそれぞれ何らかの作業を進めている。
私たちザ平民ズは錬金術クラブもあり、夏の即売会に向けてせっせとドールハウスの部品を作ったりしているし、闇王様は来年の魔法障害物競争の案を深めるために色々と考えているみたい。
セシリオ様と作戦会議室に籠ってああでもない、こうでもないと意見交換している場を良く見かける。
アドリエンヌ様は最近ドライフラワーとかポプリに凝り始めた様で、バラだけではなく香の良い花はどれかを調べたり、育てたりしている。
作ったドライフラワーやポプリが段々と部室を飾り初めて、より居心地の良い空間になってきた。
それに勇者様と私には寮のお部屋にどうぞと可愛いお揃いのポプリをプレゼントしてくれたりもしている。ラブリ~♪
もっと花の種類を増やしたい、特に香の良い花をと色々調べていらっしゃる様で、狙った花の種蒔きの時期がもう過ぎている物は来年植えるつもりだと嬉しそうに話されるのが微笑ましい。
しかし、魔法障害物競争も、香りの良い花も、皆結構気長に取り組んでるよね。
そういう私も大公様の宿題を着々と進めている・・・・。もちろん、進めているはず。うん、きっとそう!多分・・・・。
自分がやっている事のどれが正解か分からないので常に最小限の事しか実施していないつもりだ。
そんな中、必要不可欠と思えるスタッフの雇い入れと研修を大公様サイドで始めてもらっているので、私も着々と進めていると言って良いと思う。
ダンテスさんのフィルターを通った人だけを使ってもらっているけど、最終的に私が面接をして本当に雇うかどうかを決めると皆に事前に説明してもらっている。
現在も数人が貴族家等でメイドや執事修行の形で研修してもらっている。
つまり、低いながらもお給金を払って経験を積むというシステムを採用したのだ。
万が一、私が最終面接で「この人は~」と弾いたとしても、よっぽどの瑕疵がない場合は、大公家で別の就業先を探してくれるという約束があるらしい。
レセプションやコンセルジュとか、絶対どこの高級ホテルでも必要だものね。
後、支配人とコックと給仕。
コックに関してはウチの店で受入て修行してもらう心算だけど、一度に大勢は受け入れられない。
頭を悩ませていた所、週末にスティーブ伯父さんから「ギジェルモ、アウレリア、話があるから、今夜の営業が終ったら時間をくれ」と言われた。
店が終る時間は結構遅い。
だが、町中に街灯が無いし、ウチの店には宿泊施設が無いので、綺麗なおねいさんたちが働いているお店なんかに比べれば可成り早い時間に閉まるので、私は眠い目を擦って何とか起きて待っている事が出来た。
お店を手伝う時はもっと早い時間に上がらせてもらっているからね。
こんな時間まで起きている事の方が珍しいのだよ。
「兄さん、どこで話す?」
「お前たちの家の居間はダメか?」
「いいよ。じゃあ、家の居間へ行こう」
3階に上がり、母さんとエイファーはもう寝ていたので、起こさない様に気を付けながら私たち3人は居間にあるソファーに座った。
「夜も遅いし、お互いに疲れているので、単刀直入に要点について話すぞ」
「「はい」」
「アウレリアが大公様から宿題として出されている高級ホテル、実はその一つを俺たち家族に任せて欲しいんだ」
「えっ?」
「俺たち家族が移動すれば、そのホテルの料理は俺の元で作られるのでここと比べて遜色のない料理を提供できるし、フェイは給仕長としてホールを纏める事ができるし、何よりパンクの今後を考えると、アイツが将来立派な職に就いてくれることを俺たち夫婦は望んでいるんだ。例えば、そこの支配人とかな」
「スティーブ伯父さん・・・・」
「兄さん、それは義姉さんやパンクも納得の上なのかい?」
「うん。ウチの奴はあまり都会が好きじゃないのと、パンクも自室に籠って自分の好きな事ができれば都会でも田舎でも気にならないみたいなんだ。だから、俺たちには都会で暮らすメリットが無いんだ。俺はどこでもいいんだが、家族3人が揃って暮らせて、何よりパンクの将来がより良くなる様にしてやる事が一番大事だと思ってる」
父さんも私と同じで驚いているみたいだけど、私からしたらこれはそんなに悪い話ではない。
スティーブ伯父さんたちが田舎の高級ホテルで働いたとしても、まだトム伯父さん一家がウチで働いてくれるし、ナスカみたいに育ってきている調理人もいる。
いずれ、全ての高級ホテルで働くコックや給仕を教育しなければいけなかったので、初期の教育係をスティーブ伯父さん夫婦にしてもらう事も可能になる。
スティーブ伯父さんたちが移動するのは数年後になるのだから、その間にフローリストガーデンで働く調理人を育てれば良いだけの話だ。
「伯父さん、私はそのお話、ありがたいと思っています。移動も今直ぐじゃないので、フローリストガーデンに新たに調理人を入れ、伯父さんたちに育ててもらう時間が取れます。どこも困らないと言うか、ウチの調理法に慣れたコックが最初から高級ホテルで働いてくれるというのはとても助かります。ただ・・・・パンクはまだ支配人になるには年齢が低いので、支配人の助手等をしながら仕事を学んでもらい、いずれは支配人という形が良いんじゃないかなって思います。それもパンクの頑張り次第で、かならず支配人に成れるとは約束できません」
「私はアウレリアが良いと言えば、それに従うつもりだよ、兄さん」
「わかった。確かにアウレリアが言う様に、パンクの年で最初から支配人は難しいと言うのは分かる。ただ、将来パンクには少しでも社会的地位の高い職業に就いて欲しいんだ」
「わかりました。問題は無いと思いますが、大公様やダンテスさんに一度お話してみます。伯父さん、フローリストガーデンの後輩だけでなく、新しく高級ホテルに就職する調理人の教育にも協力して頂けますか?」
「仕事の量にもよるが、できるだけ協力する気でいる」
「ありがとうございます」




