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数日後、闇王様が再び学園から呼び出しをくらった。
今回は、私まで呼ばれてしまった。
場所は園長室。
地球の私立高校の校長室となんら変わらない感じだ。
応接用のソファーがあって、奥には園長の執務机があったり、壁際には書棚がある。
今、この園長室のソファーに腰かけているのは、園長、ドナルド先生、ガスペール先生、校医、闇王様、セシリオ様そして私だ。
背の低い園長が人の良さそうな笑顔を浮かべたまま「今日はわざわざ園長室への呼び出しに応じてくれてありがとう。この前、アドルフォ君と話した内容と、そちらの部室でガスペール先生と話した内容を踏まえて、話し合いの場を設けたくて呼び出したんだ」と言うなり、コーヒーテーブルに載せてある茶菓子とお茶を勧められた。
「学園側の認識が甘く、君たちにも迷惑を掛けて申し訳ないと思っている。言い方が難しいのだが、今から言う事は事実の説明であり、君たちに責任があると言う主旨でない事をまず理解して欲しい。今まであややクラブが実施したイベントで幸いな事に問題が起こった事はなかった。だから学園側は事故が起こらないのが当たり前と思っていた」
闇王様が腰を浮かし掛けたのを見て、園長が右手を前に出し、座る様にと手を優しく振った。
「学園側の認識が低かった事をあややクラブのせいにしているのではなく、事実として学園側が注意を怠った背景を説明しているだけだから、落ち着いて聞いて欲しい。イベントクラブの活動に関しては、学園側の認識とチェックが甘く複数の怪我人を出すに至ってしまった。これは、学園側に生徒の安全を確保するという意識が低かった事を我々に気付かせてくれた出来事になったとも言える。で、今回、昨年度あややクラブが行ったイベントの報告書を複数の先生で読み返してみたんだが、どちらのイベントについてもしっかり安全対策が記述されている事が分かり、学園側よりもよっぽど君たちの方が安全についての意識が高いという意見が先生の間でも広がっているんだ」
園長はにこやかな表情を崩さず説明を続けた。
「学園としても君たち全員が高い安全意識を持っているのか、それとも君たちの中で特出した人物がいるのかを調べてみたんだ」
闇王様もセシリオ様も私もハッと顔を上げ、園長の方を見た。
「そこで錬金術クラブの方の聞き込みをしてみた所、ドールハウスを作る時、小さな子がお皿等を飲み込まない様にするためにはとか、馬車の尖った部品で指を怪我する人が出るのではないかという話題がアウレリア君から出ていたという事が分かり、大公様の方へも問い合わせたところ、君がとても安全と言うことに気を配っているという事が分かったんだ。お恥ずかしい事に、学園だけでなく、世間一般に君程安全性に重きを置く人物というのは少ないんだよ。君はどうしてそんなに安全性を気にする様になったんだい?」
「・・・・。安全性だけに気を配っているわけではないですが、楽しいはずのイベントで怪我人が出ると、それだけで楽しくなくなりますよね。だから、イベントを考える時は安全性も気に留めますが、それは私だけじゃなく、あややクラブの部員はみんなそうですよ」
「そうだな。オレたちのイベントは部員皆で話し合って決めているから、誰か一人がってわけじゃないです」
闇王様の援護射撃、ありがたい。
「うん。部員皆で話し合いながらっていうのは分かったよ。ただ、イベントクラブの部員も学園側も君たち程安全性という観念が無いので、新しいイベントを企画されても、ちゃんと安全性をチェックできるかというと、いささか不安なんだよ」
「それは、先生方で色々模索して頂くしか無いと思います。生徒に他人の健康や命の重みを負わせて良いとは思えませんね。安全性に確信が持てないのであれば、そもそもイベントは許可しない方が良いです」
セシリオ様が黒い笑顔できっぱりと言ってくれた。
園長とドナルド先生は、バツが悪そうな顔をして肩を竦めている。
「園長、発言を許して下さいますか?」
校医が片手を挙げた。
園長から無言で頷かれ許可が出ると、先生方と私たちの両方に顔を向けた。
「人の生き死にというのは、何時何処で起こるか分かりません。学園の寮で普通に生活していても、何かの病気になったり怪我をして、最悪死に至る事だってあり得ます。全ての事故に責任を負う事は現実問題として不可能だとは思います。でも、イベントは開催されなければ起こさなくても良い事故を発生させる可能性があります。だからこそあややクラブの面々は今まで事前に対応できる所はちゃんと押さえて来てくれたんだと思うんです。他のクラブのイベントまで彼らに責任を負わせるのは間違っていますが、実際に彼らの方が安全性の確保に関する知識を我々より持っているのは事実です。今、この場で、一般的に何に気を付ければ良いか簡単に教えてもらって、後は大人が自分たちで対策を練るしかないと思いますが如何ですか」
「・・・・」
園長は直ぐには返事をせず、考え込んだ。
校医の先生がおっしゃったことは至極当たり前の事なので、今この場で一般的な注意事項を伝える事は吝かではない。
この場で終わる事ならばこちらの負担も少なくて済むし、安全に出来る方法を知っているのに知らぬふりをして怪我人が出てしまい、その後自責の念に苦しむ事がない様にしてもらえるのならそれに越したことは無い。
「分かりました。今ここで簡単で良いので、安全性の確保に関する注意事項を教えて下さい」
園長に促され、私が中心になってと言うか、ぶっちゃけ私が安全性確保のための確認項目について説明した。
「イベント毎に危険の度合いやケースは違うので、複数人でどこに危険が潜んでいるかを検討します。1人だと視点が固定されるので、それを避ける意味で複数人が必要です。できれば一度自分たちでイベントを体験してみると、本当の意味でどこに危険が潜んでいるか分かると思います。で、危険がどこに潜んでいるかを洗い出したら、どうやってその危険の芽を摘むかを話し合います。危険そのものを避ける手段があれば当然その手段を取ります。避ける事が出来ないならば、どの様に軽減するかを探ります。危ない事は避ける様にルールをつくり、イベント実施前にみんなに周知させます。〇〇はやってはいけない、△△だけはやっても良いなど、誰が聞いても分かる様な具体的なルールにして下さい。これもたくさんの人で考えた方が色んな案が出てくるのでより安全性が高くなる可能性があります。怪我人が出ない様に色んな予防的措置を取られると思いますが、校医の先生がおっしゃった様に、何をしても怪我人が出る時は出ます。それに備えて校医の先生にはイベント開催中は常に近くで待機してもらう事が必要です。他にも例えば・・・・」
私が考え考えその場で思い付いた事を挙げていくと、先生方皆必死でメモを取っていた。
 




