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「ウチでもイベントをしようと思っています」
放課後になりあややクラブの部室に顔を出すと、見覚えのある光景が広がっていた。
私達ザ平民ズが玄関に入ったばかりの所に固まり、その少し奥に皇子とディアナ様を前に仁王立ちしている闇王様とその少し後ろに立っているセシリオ様の図。
「そうですか。頑張って下さい」と闇王様の返事はそっけない。
「でも、ウチのイベントとそちらのイベントがかち合わない様に色々と調整しなくてはならないのではないですか?」と皇子はにっこり笑った。
「あややクラブではイベントは年2回開催します。ドッジボール大会と鳥人コンテストです。ドッジボール大会は毎年冬休み明けに行います。今年は既に終わっていますので、細かな日程調整は来年ですね。後、鳥人コンテストは本当の夏休み直前になります。来年以降、もしイベントの数を増やす事があれば都度、学園側も含め、ご相談させて下さい。と言う事で、今年については日程が被らなければお好きにイベントを企画して下さい」とけんもほろろだ。
「そうですか・・・・。ところでウチのクラブがどんなイベントをするか気になりませんか?」
「いえ、特には・・・・」
「そうですか。でも、まぁ一応お伝えしますね。決闘大会です」
「ほぉ。それはどんな武器を使うのですか?」
「魔法ですよ」
「そうですか」と闇王様は相変わらずそっけない。
「何かアドバイスとかは無いですか?」
「いえ、特には無いですね。ウチではやった事のないイベントなので突然言われても何も思い付きませんが、成功される事を祈っております」
「ありがとうございます」というやり取りの間中、皇子の横に貼り付いていたディアナ様の瞳が殺人光線を何度も闇王様に飛ばしていて、周りの皆はハラハラし通しでした。
漸く帰って行った皇子の背中が見えなくなってホッとしたよ。
もう来んな!
皆で作戦会議室に集まり「お前らどう思う?」という主語も目的語もない闇王様の一言に全員が意味を汲取り、「安全性の確保が難しいのでは?」とか、「同時に何試合進める気なのでしょうね?」なんて意見がすぐ出た。
「そうなんだよな。魔法での決闘は下手をすると死人が出そうだな」
「でも、男子生徒は諸手を挙げて参加するだろうなぁ」
「事前にこれこれの魔法とあれは使ってはいけないなんて決めていても、実際に衆人環視の中魔法を行使して勝敗を決めるとなると違反する者も出そうですよね」
「まぁ、ウチに関係ないのでお手伝いを学園から命令されない限りは様子見一択ですよね」とフェリーペが言うけど、そういうのフラグって言うんだよって舌の先まで出かかりつつも、結局は何も言わず皆の意見を聞いただけになった。
引き続き私はみんなのおやつ作りと錬金術の夏の即売会用の小物作りとか、大公様の宿題を粛々と進めていた。
ガスペール先生は相変わらずおやつを食べに部室に顔を出すけど、二階の人口密度が上がったので、最近ではおやつの時だけ見かける様になった。
しかし、皇子の訪問がある時は顔すら出さない。
どうやって前もって皇子の訪問とかを予知しているのか教えて欲しいよ。
私だって皇子とかは避けたいもんね。
今週末にはダンテスさんとまた打合せだし、夏休みのホテル候補地への視察旅行の手配についてももう少し詰めないとだし、鳥人コンテストの方もそろそろ準備を始めないとだしね。
夏の視察旅行には父さんが全日程同行してくれる事になっているので、父さんも見習いたちへの教育に忙しいみたいだし、私達もドールハウス作りで忙しい。
肉屋、パン屋、八百屋、学校、鍛冶屋、厩舎、教会などを作る事にしたので、小物の種類や数が跳ね上がった。
パン屋のパン模型なんて日本の食品サンプルに負けない程の出来で、即売会後にまた皆が欲しがるだろうと簡単に推察できる。
追加でドールハウスや馬車も作らないとなので、私たち5人は錬金術クラブでもあややクラブでも結構忙しい。
アドリエンヌ様は今まで通り庭いじりが出来るので楽しそうだ。
セシリオ様は図書コーナーで読書かお昼寝だし一見平和なんだけどね、闇王様が手持無沙汰になったらしく良く錬金術コーナーに顔を出す用になった。
一緒にドールハウスの小物を考えたり、製図のひき方をランビットから教わったりと結構楽しく過ごしている。
ランビットはあややクラブへ入れたのがとても嬉しいみたいで、錬金術クラブの無い日は私達と一緒にあややクラブの部室に来ている。
再びマリベルたちから呼び出しをくらって、どうやったらあややクラブに入れるかをシツコク聞かれているらしいけど、まぁ、そこは耐えるしかないよね。
そうこうする内に学園のあっちこっちにイベントクラブの決闘大会のポスターが貼りだされた。
ポスターを見る限り、各講堂で行うらしく、火魔法講堂では火魔法だけ使用可で、水魔法講堂では水魔法のみと対戦相手が自分と同じ系統の魔法を使う人のみというのが特徴的だ。
これは最後に4属性の頂点に立った者同士で試合をするのだろうか?
それとも属性別頂点の決定までなのかよくわからなかったが、各属性の先生が審判をするそうだ。
「ウチからも参加したい者がいれば遠慮なく出場してくれ。で、向こうの運営方法について報告してもらえたら嬉しい」なんて闇王様が言い、「アディは参加するの?」というセシリオ様の問に、「いや、オレは面倒くさいので参加はやめておく」との一言に皆、無言で頷いている。
「おいおい、誰か参加してくれよぉ。ウチから一人も出ないっていうのも可成り不味いと思うぞ」と言われてもねぇ、ご自分で出て下さいよぉって気持ちにしかならなかったよ。
ガンバ!闇王様。




