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錬金術クラブとあややクラブの2階でみんなのドールハウス作りをしていたある日、あややクラブの部室の横で工事が始まった。
「ん?あれってとうとう皇子が部室を作り始めたって事?」と、フェリーペがソファの部屋の窓から覗きながら聞いて来た。
恐らくそうだと思うけど、私たち4人の中にそれが分かる者はいない。
実は私たち4人だけじゃなく、期間限定で入室を許されているランビットも横に立っている。
もちろんランビットに分かるはずもない。
「隣国の皇子とか面倒臭いだけだよね」なんてフェリーペがボソっと言ってるけど、それを言っちゃぁお仕舞よぉとは思いつつも無意識に頷いてしまった。
「それにしてもクラブ立ち上げのための人数が揃ったのかな?」
「ウチの時にも闇王様やセシリオ様とお近づきになりたい女子学生が押しかけて来てたから、あっちも女子学生が大量に押し掛けたんじゃないのかな?」
フェリーペの疑問に、勇者様が珍しく意地悪な感じで答えた。
「メグさんの言う通り、女子学生14名と皇子とディアナ様で新しいクラブを作るそうだよ」と、いつの間にか私たちの後ろに立っていたセシリオ様が教えてくれた。
「何やらイベントの企画・立ち上げをするためのクラブでその名も『イベントクラブ』だそうですよ」とニヤっと笑った顔からは黒い何かが沸き上がって見えた。
「ウチと共同でイベントをするとかっていうのは無いですよね?」と思わず私はセシリオ様に詰め寄ったけど、「それはアディが許しませんよ」とシレっとした顔で言うセシリオ様を見たら安心できた。
「まぁ、鳥人コンテストの時はオブザーバーで参加はされますけど、あくまで発言権の無いオブザーバーですからね。ただ、ウチの実行委員会の主だったメンバーがあちらのクラブに所属されるみたいなので、その辺をどう対応するかが今後の課題でしょうかね」と他人事の様に飄々と話すセシリオ様。
ウチのクラブとしてもこれ以上イベントを増やすのは人手も足りないし、他のクラブとの掛け持ちをしている者が4名もいるのでイベント数は今のままで良いと思う。
生徒たちが欲している「もっとイベントを!」という気持ちには、イベントクラブさんで対応してもらえたら、願ったり叶ったりだよね。
「向こうも2階建てにするのかな?」というボブの小声をセシリオ様はちゃんとキャッチしており、「はい。二階建てだそうです。ウチの横に建てられるので、こちら側の窓にはしっかりカーテンを付けないといけないですね。後、座って話す場所をもっと部屋の中央よりに移動させて、誰にも盗み聞きされない様にしないといけないかもですね」とサラっと言われたけど、今でも外をうろちょろする女子学生たちに聞き耳を立てられない様、塀で囲っているから問題はないと思うんだけどね・・・・。
セシリオ様はこっちをハタっと見て「ウチの部室の内装を誰がしたかは最後まで内緒にする事になっています。皆さんもポロっとしゃべらない様にお願いしますね」と注意してくれた。
これで私に類が及ばないので安心だ。
闇王様、セシリオ様、ありがとう!
「テラスがイベントクラブの建物の反対側なのでアウレリア様もこのまま庭いじりできて良かったです」とはウチの勇者様。
相変わらず優しい。大好き!
イベントクラブの工事は1ヶ月近く掛かった。
その間に私たち全員のドールハウスと馬車が出来上がり、最後にこのクラブを模したドールハウスを作って錬金術コーナーとソファーコーナーの間のシェルフ棚に飾った所、大好評だった。
もちろん中の家具もウチの部室そのまんまだし、何ならお皿やコップ、カトラリーまで本物そっくりに作っちゃいましたよ。
全ての作成が終った時、ランビットが「ここのおやつを食べれなくなるのは本当に残念」と零したのを機に、「じゃあ、お前もウチのクラブに入るか?」との闇王様の一言で部員が一人増えました。
これで錬金術クラブの無い日にもボブとランビットが並んで作業できるので、商店や学校などのドールハウス作りもめちゃくちゃ捗りそうだ。
二人の要望に従って、シェルフ棚を少しソファーコーナーへ寄せて、手前に製図デスクを置いた。
前世の記憶から作った斜めにできるライト付きのデスクだ。
少し大きめに作り、二人並んで座って設計図を見ながら話せる様にしたのも後から2人にめっちゃ褒められたよ。
製図板の右端には物差しやペンを入れておく穴を付け、手前にはペンやインク、紙が落ちない様に引き出し付きのストッパーを設け、板の角度は好きな様に調節できる様にしているし、ライトも頭上からピンスポットになる様に取り付けてある。
椅子はもちろんゲーミングチェア擬きだ。
それを見た闇王様が作戦会議室にも1台欲しいとか言い出して、追加でもう一つ作って納品してもらった。
みんな自由に部室で楽しむのがあややクラブの良い所。
居心地が良いせいか、最近では「ここに住みたいなぁ」なんて闇王様が言ったりしているので、クリサンテーモはどうするの?なんて思っちゃいましたよ。
闇王様でなくても、部室に自室があればおやつだけじゃなくって食事も自分の好きなモノが食べられるし、アドリエンヌ様が手塩に掛けて育ててる花に囲まれて穏やかに生活できるから良いかも。
あ、でもみんなのおやつとお店で出すスノーボールクッキーを作っているので、プラス三度の食事の用意となると結構キツイかも?
そんな感じであややクラブでの時間を楽しんでいたら、いつの間にかイベントクラブの部室の工事も終わった様だ。
どんなお隣さんになるんだろう・・・・。
溜息しか出ないよ。




