52
ランディが無事ポンタ村に着いたとギルド経由で報告が入り、親戚一同安心した。
エイファーは病気もせずに順調に、しかし私や父さんが抱っこすると泣くという状況は変わらないまま、周りもエイファーも徐々に今の生活に慣れ始めた様だ。
夜泣きでしっかり寝れていない母さんを手伝うために、父さんや私も色々しているけど、ナスカが「アルバイトしに来ました~♪」と冗談交じりに3階まで上がって来て、母さんが昼寝している間エイファーの子守りをしてくれる日もある。
流石、孤児院でも赤ちゃんとかの面倒を見ていただけあって、ナスカがエイファーを抱っこしても泣かれずにいるのだ。
むむむ。これではどっちがおねいちゃんか分からんジャマイカ!
冬休みの残りは大公様の宿題を進めたり、お店の手伝いをしたり、梅畑の様子見に行ったりと結構忙しくしている間に休みが明け、学園が始まった。
再びの寮生活だ。
う~~~ん、エイファーと離れるのは嫌だぁぁぁ。
今だって私には慣れてくれていない気がするのに、これで数か月の間、顔を見るのが週末だけになったら余計に懐いてくれなくなる・・・・。
「リア、冬休みはどうだった?従兄君が遊びに来てくれたんだよね?」
休み明け最初の寮での朝食、あっちこっちで生徒たちが挨拶とか休みの間の話に花を咲かせている。
私とメグもフェリーペたちが合流するのを待ちつつ、朝食のトレイを前にお互いの近況報告に忙しい。
「うん。ボブやフェリーペとも一緒に遊べて喜んでたよ。次回はメグにもゆっくり紹介できるといいね。前の時は本当に紹介しただけだったものね」
「うんうん。従兄君ってゴンスンデにも行った事がないんだよね?だったら今度またゴンスンデへ来る時、一緒に遊びに来てくれるといいな。家に泊まってって誘えないのが心苦しいけどね」
今のところ、ゴンスンデへ行く予定はないけれど、もしかしたら大公様の宿題の関係で行くかもしれないしね。
あ、いや、確実に一度は行く事になるだろうなぁ~。
もちろん大家族で小さな家に住んでいるメグの家に泊めて貰おうなんて最初っから思ってないよ。
でも、知り合いがその町に居るってだけで心強いんだよ。
「マリベル!」
同じクラスのナナが寮の食堂へ入室するなりマリベルの方へ走って行った。
「おはよう、ナナ。お休みの間はどうだった?」
同じクラスの女子だけどあまり付き合いのない二人が話すが、私たちと3つしか離れていない席から聞こえて来た。
「お休みの事より、スゴイ事があるのよ!」
「スゴイこと?」
「うん!家の父さま経由で入って来た情報なんだけど、今学期から帝国の皇子が留学してくるんですって」
「えええ?どの皇子?」
「第三皇子」
私たちだけじゃなく周りのテーブルの人たちもマリベルたちの会話に耳を欹て始めたので、この辺りのテーブルはみんな異様に静かになってしまった。
そんな所に「おはよう!元気だったか?」とフェリーペたちが私たちの目の前の席に座った。
でも、私たちが返事をしないので、怪訝な顔になったが、周りも異様に静かな事に気付いた様だ。
「な・に?」と声にもなってない小声で聞いてきた。
「なんか帝国の第三皇子が留学してきたんだって」と静かにして欲しくて二人に小声で簡単に説明した。
「「えっ!?」」
フェリーペもボブもびっくりした様だが、先に我に返ったフェリーペが「この中途半端な時期に?」と聞いてきても、私たちではそれに答える事が出来ない。
「なんか知らないけどナナが色々知ってそうよ」と勇者様が横から説明してくれ、4人で聞き耳を立てつつ静かに朝食を食べ終わった。
朝食後、教室へ移動した後も、ナナとマリベルの会話を盗み聞きしていたクラスメイトたちは帝国第三皇子の話で盛り上がっていた。
でもこんな平民クラスに皇子が顔を出す可能性はゼロなので、全く関係はないんだけどね。
「どんな方なんでしょう。私たちの代は学園に通う年齢の王族がいなかったので諦めていたんだけど、これで大チャンスを得る事がぁぁぁ」とマリベルが恥ずかしげもなく可成り大きな声でナナに言っているのが聞こえて来た。
「ブフォ!お前たちがどんなに頑張っても王族や皇族の第一夫人にはなれないぞ」と、タルボットが馬鹿にした様に指摘すると、タルボットのコバンザメたちも一緒になってマリベルたちを笑った。
「馬鹿はあんたじゃない!第一夫人でなくても第三でも第五でも全然問題ないのよ。要は王族や皇族になれればいいのよ。皇族になったらあんたん家の商品を買うか買わないかについて口を挟める様になるんだから、努々私達を馬鹿にしないでよねっ!」と胸を張ってマリベルが言っているけど、これってこっちの世界の平民女子の一般的な考え方なのかなぁ?
メグとか私はちょっと変わっている方かもしれない・・・・。
「女はそういう手が使えるからズリィよな」とタルボットは悔しそうにしているけど、いやいや、万が一皇子が平民出の側室を作るにしても、それがマリベルである可能性は限りなく低いと思うよぉ。
「しかし、まぁ、俺たちには関係がないな。寮に入るにしてもクリサンテーモだろう?」とフェリーペが言うので、それもそうだと4人でこの話は終わりとばかり、今度はドールハウスに私達の話題は移って行った。
 




