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母さんの実家からのお土産に、『熊のまどろみ亭』の皆は喜んだ。
クリスティーナ伯母さんが野菜を保管棚に並べながらニコニコしている。
「こんなにたくさん頂いちゃって、今度何かお返しをしないとね」
「そうだな。なんか料理でも作って持って行くか」
「そうねぇ」なんて伯父夫婦でお返しを何にするか話し合っている。
「アウレリアの仕事を少し減らして、あっちにも時々遊びに行ける様にしてやる方が、セレスティーナも喜ぶと思うんじゃがな」と、爺さんがポツリと言った。
セレスティーナとは、母方の婆さんだ。
「それもそうね。じゃあ、アウレリアでも運べそうな軽い料理を作って2~3日中に持って行かせましょう。そうすればアウレリアもゆっくりあっちの皆とも交流できるでしょうし。もう、場所も分かったから1人でも大丈夫でしょうしね」
「そうだな」と伯父からも許可が出た。
私の為に母方の親戚の事も考えてくれたので、ここは素直に感謝しておこう。
「ありがとうございます」
まだ5歳だからお手伝いはしても、雇い人みたいにがっつり毎日働く訳ではないし、働いても体力がないのでお昼寝付きだ。
でも、野菜の下拵えは可成りの量を毎日処理しているし、そういう意味ではちゃんと戦力になってはいると思うんだよね。
だって、伯父さんも爺さんも肉の下処理だけで済む分、ちょっと凝った料理を作るための時間も出来るしね。
今日も『熊のまどろみ亭』は宿屋も食堂も営業しているので、大人はみんな仕事に戻った。
ランディと私は家に戻って遊んでもいいし、学校で習った事の復習でもいいと言われ、居間でくつろぐ事にした。
私は自分のスキルについていろいろと実験をしてみたいのだが、ランディが私と話したくて落ち着きがない。
よし!どうせ従兄と話さないといけないのなら、少しでも役に立つ情報を引き出してみよう!
「ランディが持ってるスキルは経営スキルなんだよね?」
今日一日でランディとは大分お近づきになったので、子供同士ということもあり口調が普通になってしまったけど、ランディは気にしないみたいなので、今度からこの話し方にしてみよう。
「うん」
「今までにそのスキルを使った事ある?」
「う~~ん。無いかな・・・・」
「え?全然ないの?」
「自分でも良く分からないんだけど、狙って使った事はないなぁ。けど、たまに父さんたちが店の事で何かする時、別のやり方もあるのになぁって思う事はある」
「へぇ~」
「多分、そういうのがスキルだと思うんだ。だけど、俺はまだ学校の勉強も終わってないし、経営って言うのがどんな事か分かってないんだ。このスキルは知識や経験があればかなり役に立つらしいけど、俺はその土台となる知識がないからなぁ・・・・。父さんも同じスキルだから前に色々聞いてみたいけど、父さんもよく分からないって言ってたぞ」
「スキルを使うには経験や知識が無いと使えないの?」
「良くは知らないけど、普段からみんながそう言ってるから、そうじゃないかなぁ」
「おおおお!勉強になった。どうもありがとう。あっ、それからフェリシアの家まで一緒に行ってくれてありがとうね」
照れたのか、顔を赤くしたランディが「なんてことないよ。また今度一緒に行こう」と言ってくれた。
その後、伯母さんが夕食に呼びに来て、ランディと一緒に調理場の隅っこで食べ、私は自分の部屋へ戻った。
今日は新しい事や人ばかりで結構緊張していたみたいで、もう眠たいのだが、食堂の手伝いの時よりは体力が残っている。
今夜こそは何が何でもスキルの検証をしなくては!ということで、すぐにベッドには入らず、部屋にある小さなテーブルに着いた。
ハードルの高そうな魔法は後回しにして、調理ストレージを試してみよう。
王都の納屋で父さんたちと少し検証してみたんだけど、あれからちゃんとした検証はしてなかったしね。
『調理具ストレージ』であれば、いろんな物をストレージできるのはもう分かっているので、とりあえず部屋にある物をストレージする事にした。
どう考えても調理具になりそうにない物ということで、枕を触って声に出さずに『ストレージ』と願ってみた。
枕がパッと姿を消し、『調理具ストレージ一覧』のトップに『枕』と表示が出た。
んんん?調理具でなくても入れられるの?
何て使いやすいストレージなんだろう。
しかも今回は手で持ち上げたわけではなく、触ってただけだ。
という事は、触る事ができれば大きな物や重たい物もストックできるかもしれない。
取り出す事を考えながらボードの『枕』という文字をタップすると、枕が現れた。
おおおお!今度は触らなくてもストックできるか試さないと!
チェストから服を取り出しベッドの上に広げた。
少し離れてから『ストレージ』と声に出さずに願うが、服はベッドの上にそのまんま残っている。
ちなみに服に触って同じ事をするとちゃんとできた。
ストレージの大きさは分からないが、とにかくストックするには対象物に触らなければいけない事だけは分かった。




