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夜は地下で親戚やスタッフ一同と一緒に賄いを食べた。
従兄たちとの自己紹介がサラっと終わり、いつもの様に無関心なパンクやサブリナたちは横に置いといて、次に使用人の皆も自己紹介をしてもらいつつ、何種類もある賄いを堪能した。
「美味しい。それにしてもこんなに大勢の人がこの店では働いているんだな」
「そうなのよ。ランディもびっくりしたでしょう?伯母さんたちもギジェルモに呼ばれてここに来たけど、こんな大きなお店とは来るまで知らなかったから、来てみてびっくりしたのさ。私達んところと、スティーブ義兄さんの家はここの2階にだから、遊びにおいでね」
「はい、マルタ叔母さん」
「私たちは孤児院を出る時、ここで雇ってもらったんですよ。ハムとドムもそうだし、他にも3人同じ孤児院を出た者を雇ってもらってるんです。普通、孤児は仕事を見つけられなくて大変なんですが、ウチの孤児院は可成りの卒園者がここでお世話になっているので、みんな幸せです。お嬢様たちも定期的に孤児院に奉仕活動にも来てくださったり、食糧を分けてくださったり、お仕事の技術も惜しみなく教えて下さるので本当に感謝してるんです」と、ナスカが力説するものだから、次回の奉仕活動にはランディも一緒に行く事になった。
そんなこんなでウチの家や店を見てもらい、ランディからしてみると今まで会った事のなかった親戚一同や働いている者たちとの顔見せが終ると、次は温室だ。
もうちょっとしたら夜のお客様たちが来店されるので、その前に客用の温室を見てもらう事にした。
「これ、なんだ?水が噴き出てるぞ」
「それは、噴水って言ってね、目で見て楽しんだり、水の音を聞いたりして楽しむのよ」
「なんかすげぇな」
「ふふふ。ありがとう」
「従兄のパンクとかサブリナ達もみんなここで働いてて、貴族様と問題が起きたりしないの?」
「うん。お店の方は母さんとかフェイ伯母さんが見ててくれてるからね。今の所大きな問題とかはなかったよ」
「そうかぁ。レティシア叔母さんは元々お貴族様の館でお茶出しをしてたんだものな。貴族のあしらいには慣れてるんだろうなぁ。ウチは母さんが貴族の対応に四苦八苦してるぞ」
「へぇ~。貴族のお客様、増えたの?」
「ああ、前に友達たちと寄ってくれた時に見たと思うけど、泊まりはなくても食事だけっていうんで結構な頻度でお貴族様ご一行はお見えになるよ。清潔なトイレも理由の一つだけど、やっぱリアが残してくれたレシピが評判なのと、パイを買いに来てくれる貴族様も多いんだ。今じゃ、天火をもう一台増やしてじゃんじゃんパイを焼いてるんだぞ」
「へぇぇ。何かそれを聞くと嬉しいけど、ラーラんところのオジサンが作り方教えろってまたシツコク聞いて来そうだね」と思わずクスクス笑ってしまった。
「いやぁ、マジでガストさん、しつこいんだよなぁ~。家のオヤジなんて、意地でも教えないって言ってるよ」
「ところでフェリシアんところの皆は元気なの?」
温室を見終わった私たちは庭園のベンチに座って冬の日差しを楽しんだ。
「うん。元気元気。フェリシアも今回ここへとっても来たがったんだよ」
「そうかぁ・・・・。私も呼びたかったんだけどあそこは小さな弟と婆さんがいるから、フェリシアをこっちへ呼んじゃうと、あっちの家が困っちゃうんじゃないかと思ったんだ」
「あ、それはあるねぇ。でも普段はフェリシアはウチへお手伝いに来てくれてるから結構自由にしてるんだよ」
「じゃあ、呼べば良かったねぇ。悪い事しちゃった」
「あ、いや、フェリシアがウチを手伝ってくれてるから俺がここへ遊びに来れたってのもあるから、これでいいと思うぞ。次回誰かを呼ぶならフェリシアにしてやってくれ。あ、だけど、ラーラはダメだぞ。ところでラーラも俺の部屋で寝泊まりしてたの?」
「ううん。ラーラは住込みで働くって感じだったから、地下の使用人用の部屋だよ」
「えええ!地下でみんな使用人が寝泊まりしてたんだ。賄い食べるためだけじゃないんだな」
「あっ、うん。賄いを食べる居間の奥にね、小さな部屋がたくさんあって、部屋一つ一つにつき大人なら1人で、子供なら2人で使ってもらってる人もいるの」
雇人が増えて新しく雇った子供たちの中には申し訳ないけど2人部屋にしてもらっている子もいるのだ。
「しかし、お前んところ、すんごい数の人が働いているんだな」
「そうだねぇ。パンクなんて、貴族様の上着を預かって管理するだけの仕事なんだよ。もちろん、お店が開いていない時は下働きもするんだけどね。つまり、私が言いたいのは、お貴族様の上着を管理するだけで人一人雇わないといけないって事。その他の事も人手を掛けてお貴族様に満足してもらう様にしてるって事が言いたいのね」
「へぇぇぇ。それはそれで大変だなぁ」
「うん。でも、そこら辺は父さんたちみんなが色々考えてやってくれてるし、大公様の御威光や睨みも利いているから、ちょっとやそっとの事では問題は起きないんだよ」
以前、大公様に対抗意識を燃やしてるお貴族様がウチの馬車を襲って卵が手に入らない様にされた話を面白おかしく話してみたり、学園の話をしたりしてお庭をそぞろ歩きしたけど、そろそろ夜の営業時間になりそうだったので、3階へと戻った。
生まれたばかりのエイファーにベッタリと貼り付いて、母さんと一緒に夕食を食べながら、明日は、王都の街中を見て回る事に決めた。
夜は父さんも営業で忙しいから子供二人だけで王都内をウロチョロはできないからね、自然と王都観光は昼間に限定されてしまう。
私も、王都はウチの店の周り、モンテベルデ家の周り、大聖堂前の広場や学園くらいしか知らないので、明日父さんが連れて行ってくれるという王都観光を楽しみにしてるんだよねぇ。




