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「レティシアは元気かい?」で始まる王都での生活についての質問にゆっくりと答えていたら、フェリシアがオスカルという弟を連れて来た。
「ほらオスカル、ちゃんと挨拶をして」という姉の無茶ぶりに、人見知りっぽいオスカルは姉の後ろに隠れるという行動で答えた。
「もぉ、ちゃんと挨拶くらい出来る様にならないとダメだよ」と姉の容赦ない指摘が入った。
フェリシアって思った事はすぐ口に出すタイプなのかもしれない。
自分の感情に素直な子なのかも・・・・。
「オスカル。私はアウレリア。こっちはランディ。オスカルは何歳?」とこちらから話題を振ってみた。
オスカルは姉の背後から手を突き出して指を3本立てているつもりなのだろう。
まだ上手に親指と小指をクロスさせる事ができないみたいだ。
「5歳?」と、態と違う年を言ってみると。「・・・・みっちゅ」と答えが返って来た。
「オスカルはね、まだ小さいから、父ちゃん達が畑に行っている間、ばっちゃが面倒を見ているんだよ」というフェリシアの言葉が終るか否や、オスカルはばっちゃの方へ走り寄ってしがみついている。
何か可愛い。
私がオスカルの事を可愛いと言うと、気分が良くなったのかフェリシアが「家はばっちゃも入れて5人家族なんだよ」と胸を張った。
私たちのやり取りをおっとり笑って見守っていた婆さんが、オスカルの背中をさすりながら、「ほら、お前の従姉だよ。ちゃんと挨拶をおし」と促すが、恥ずかしがってまた姉の後ろに隠れている金髪の男の子のなんと可愛い事か。
そうこうしている内に、畑の仕事を終えた伯父と伯母が戻って来た。
「あんたが、アウレリアか。レティシアの小さい頃に瓜二つだな」
伯父がそう言って頷いたのは婆ちゃんだけだ。
伯母さんは他所の村から嫁いで来たので、母さんの小さな頃を知らないそうだ。
どの辺りの村から嫁いで来たのか、別の村の百姓に嫁ぐまでの話とか興味津々なんだけど、初対面から根掘り葉掘り聞くのも憚られる。
これはもうちょっと仲良くなってから聞いてみよう!
伯父さんは私たちの傍に無造作に並んでいた蓋つき箱にそれぞれ座って、隅に置いてあった藁を少し持って来て手作業を始めた。
「ばっちゃがお前に会いたいって、それはそれは会うのを楽しみにしてたんだよ。これからもお店のお手伝いがない時は遊びに来てやってくれ。歓迎する」と話しながらも手作業は続けていた。伯父さん、意外と器用だなぁ。
いつでも来て良いと言うお誘いに対してお礼を言いつつ、気になっていた事を聞いてみた。
「伯父さん、それは冬の手仕事ですか?」
「おう、そうだよ。草履だよ。安いんだがな。時間がある時は何か作っとかないと、収入がないからな」
日本の草履とは違って足を覆う様なアサグツに近い物。
普通に草履を編むよりも手間がかかってそうだ。
ってか、こっちの世界には日本で言う草履はあるんだろうか?
徒歩の旅行者も家の食堂を使うから、今度お客の足元を気を付けて観察してみよう。
全員の飲み物を持って来てくれた伯母さんもそのまま伯父さんの横で同じ様に草履を編み始めた。
皆手を動かしながらも会話は止まらない。
手元を見なくても編めるくらい、毎年農閑期にはこの草履を何足も作って慣れているのだろうなぁ。
「王都で今、何が流行ってるの?」
「レティシアたちはどんなお屋敷で働いてるのか?」
「二人は元気?」
「今回、こっちへ子供だけ送って来た訳は?」など、大人3人からかなりの質問があった。
都度、明かして良いところまでしっかり答えてたら、そろそろ夕方になって来た。
「フリアンさん、そろそろ時間なので俺たち帰ります」とランディが席を立った。
伯父さんと婆さんの名前は知っていたが、伯母さんの名前だけ知らない。
今更彼女にだけ名前を聞くのは失礼だし、どうしよう・・・・。
伯母さんの名前の事で内心焦りまくってた私を余所に、フリアン伯父さんとランディの暇乞いの挨拶が始まっていた。
「おう。もうそんな時間か。気づかずに悪かったな」
「野菜を少し包んで持たせておやり」と婆さんが伯母さんに言って、籠いっぱいに冬野菜が入った物を渡してくれた。
「あんたん家は食堂だから、いろんな種類の野菜を詰めるより、2種類くらいで量を増やした方が使いやすいだろうから、蕪とニンジンを入れておいたよ」
「「ありがとうございます」」
ランディと私はほぼ同時にお礼を言っていた。
私なら30分も抱えて歩く事は難しい程の量が籠に入っていた。
でも、ガタイの良いランディなら平気そうだ。
「婆さん、伯父さん、伯母さん、ありがとうございます。また、お休みの日には遊びに来させて下さいね」と言うと、婆さんが目に涙を浮かべながら頷いていた。
伯父さんたちも大きく頷いてくれ、戸口まで一緒に来てくれた。
「フェリシア、学校でまた会いましょうね。オスカルまたね!」と小さく手を振ると、姉の陰から顔を出したオスカルも良く見なければ分からない程小さく手を振ってくれた。
ランディと一緒に畑の真ん中の一本道を手を繋いで『熊のまどろみ亭』まで歩いて帰った。