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料理魔法なんて魔法あったんだぁ  作者: 花明かり
天色の章 <前半>
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「えっ!?豚肉使用禁止?何故、前もって言って下さらなかったのですかっ?」

 父さんが宰相様の秘書の人に噛み付いている。


 厨房の中は皆がしていた作業を止めて、シーンとしています。

 もちろん私もです。


 まず最初に動いたのはマルタ伯母さんだった。

「アウレリア、代わりの皿を出さないといけないよ。食材は何が残っているの?」


 伯母さんの一言で私の頭もリロードされました!


「父さん、今は誰がその大事な情報を隠蔽したのかを追求するよりも、メインのお皿がちゃんと時間通りに提供できるかどうかが問題だよ。食材リスト持って来て。肉と魚で人数分揃う量があるのはどれ?」

「いやぁ、豚肉とベーコンだけだよ」

「調理長さん。こちらから保管をお願いした食材以外に肉は何を持ってますか?」


 子供の私が言ってもメルモット調理長さんは取り合ってくれない。

 顎鬚調理長めぇ・・・・。


 しょうがないので調理長の横に突っ立っていた見習いオルドスに強い口調で、「肉は何があるの?」と聞いたら、オズオズと牛肉と子羊の肉だと答えた。

 両方持って来てもらうと、牛肉は既にステーキの形にカットされていた。


 数が数だけに、既にカットされたステーキ肉を加工するよりは、塊肉のままの子羊肉の方が調理し易いと咄嗟に判断。

「父さん、子羊肉は大丈夫か、宰相さんに確認して!」

 それを聞いて、宰相さんの秘書は晩餐会会場へ走って行った。


 私はメルモット調理長の前に進み出て、「この子羊肉は元々こちらの調理場で保管されていた物なので使用しても差し支えありませんよね?」と凄んでみせた。

 子供が凄んだ所でそんなに怖くはないだろうけどね。

 答えない調理長に向かって再度「問題ありませんよね?」と強い口調で言えば、「差支えは無いが、人手も足りないだろう。ステーキならウチの者で用意できるからウチがやる!」と宣って来た。

「ふざけないで下さい。今夜はウチが調理する晩餐会です。お宅の手はいりません。後で、どこで豚肉情報が遮断されたのかの責任を追及させてもらいますが、今はここにある食材は使って良いという確認だけお願いします」

 そう言うと、渋々頷いた。

 

 最初から自分たちでステーキを焼いて出す心算だったのは見え見えだよ。

 だって、唯一の牛肉が既にステーキの形に切り分けられているんだもの。

 普通、肉を切るのは焼く直前だよ。

 だって、早めに切ってドリップとして肉の旨味が外に出るのは料理人としては避けたいものね。

 なのに、先に切ってあるというのは、ギリギリ時間に間に合わせるために先に切っておかないとと判断してたって証拠だものね。


「で、子羊肉で何をつくるんだい?」とマルタ伯母さん。

 今、オーブンにはメダリオンステーキが入っており、途中でそれを出して子羊肉の塊を、そう例えば香草焼きとかパン粉焼きとかにする時間は無い。

 となれば薄く切って枚数を提供するやり方の方が時間の調整が付く。

 焼くよりは・・・・。はっ!「父さん、生クリームはまだある?」

「あるぞ」

「どのくらい?」

「大きな鍋4つ分くらいだ」

 よし!


「マッシュルームとインゲン豆はまだ残っている?」

 キノコのポタージュに入れるため、余分を大量に保管してもらっていたので多分あるはず!

「山ほどあるぞ」

「分かった!マルタ伯母さん、子羊のクリーム煮にします」

「それはどんな料理なんだい?」

「骨を外した子羊肉をこれくらいの厚みに切った物を焼いて、生クリームとマッシュルームで煮た料理です」

「んじゃあ、おまいさん、子羊肉の骨を全部取って!スティーブ兄さん、マッシュルームの下拵えを!アウレリア、マッシュルームは丸のままかい?」

「ううん、スライスにして。これくらいの厚さ!あっ、インゲン豆の筋は取ってあるかな?」

「ありますっ。これぐらいあればいいですか?」とナスカが取ってあるものと、まだ取ってないものを分けながら答えてくれた。


 肉やマッシュルームの厚みを指で表現しながら、私は来客用の皿が置いてある棚へ走り寄った。

 メダリオンステーキと違ってクリームソースたっぷりの皿になるので、平べったい皿よりも少し深みのある皿の方が良いのだ。


「マルクス!この皿を熱湯に漬けておいて」

 下働きのマルクスに声を掛けて、皿を温めるために沸かしていた大量のお湯の中に漬けてもらう事にした。

 既にそのお湯に漬けてあったメダリオンステーキ用の皿は引き揚げ、手の空いている者で布巾などで乾かしてもらい、元あったところに片付けてもらった。


 生クリームや子羊肉を鑑定すると品質はOKだった。

「伯父さん!マッシュルームはカットしたら一回茹でてね。別の鍋でインゲン豆も塩茹でして!塩を入れないと色が悪くなるから、色に気を付けて茹でてね」

「おう!」


 マルタ伯母さんはポタージュを皿に注ぎながらこっちの作業を心配そうに見ているが、「伯母さん、今はポタージュに専念してっ」「あいよ!」と言ったやり取りをしながらも、何とか問題なくポタージュが提供された。


 平べったい鍋を6つ並べて全てを火に掛ける。

 トム伯父さんと私とで薄く切った子羊の肉に塩コショウをし、鍋で少し炒める。

 鍋の数が多いので、ナスカとスティーブ伯父さんにも中身をかき回してもらう。

 ある程度火が通ったら生クリームを入れ、そこにマッシュルームも入れ、少し煮るのだ。

 そうすると生クリームの色が茶色に変わってくる。

 実はこれ、子羊の肉からにじみ出て来た血とかエキスで茶色になるのだが、優しい味の如何にもフレンチな皿になるので、日本でも牛肉とかで時々作っていたのだ。


 途中一緒に煮込んでいたマッシュルームを出来るだけ取り出し、一つの皿に集めた。

 飾り付けの時に肉の上に並べるためだ。

 全ての鍋のクリームソースを別の大鍋に出来るだけ集めた。

 これも皿の見栄えのためだ。


「ここからは時間との勝負になります。スティーブ伯父さん、トム伯父さん、私で、一皿、肉3枚。出来るだけ皿の真ん中にちょっとズラして重ねて。こんな感じにね。次の人、そうねマルクス、クリームをこのお玉1杯分上から掛けて、最後の人が見栄え良くマッシュルームと塩ゆでインゲン豆を肉の上に並べて!配膳の人は皿の周りにクリームが飛び散ってないか確認をお願いします。全て温めている皿が冷えない様にスピーディにお願いしますっ」と指示し、早速作業に。


 最初の一枚は毒見役が食べる。

 問題ないと言われて初めてワゴンへ。

 ワゴンの上には熱湯が入っている平べったい鍋が載せてある。

 その上に鉄のお盆を載せて、更にその上にじゃんじゃんメインの皿を並べ、晩餐会会場へ運んでもらった。

 何とか間に合った!


 調理場の端を見ると、嫌そうな顔のメルモット調理長が仁王立ちしていた。

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