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料理魔法なんて魔法あったんだぁ  作者: 花明かり
天色の章 <前半>
247/553

晩餐会場にて(オルダル国宰相のひとりごと)

 今夜は初めて城外の料理人が調理する晩餐会でございます。

 帝国はこのマンモ大陸の中でも群を抜いて大きな国で、マンモ大陸にある全ての国にとって煙たい国でもございます。

 ウチの国だって小さい方ではございませんが、ウチの何十倍もの国土を持ち、とても強い軍を持っている国なのでございます。

 そんな帝国の宰相の訪問ということで、既に到着から2日目になります。

 昨晩は城のいつもの代り映えの無い来客用のメニューを提供させて頂きました。


 酒だけはたんまり、肉はステーキのみ、フレンチドレッシングが塗してあるフレッシュサラダ、色とりどりの具材を細かく切った物が入っているスープ、バタークリームがべっとりのパンケーキがメニューでございました。

 不味くはございません。

 不味くはないのですが、代り映えのない料理でございました。

 その証拠に、帝国ご一行の反応は可もなく不可もなくと言った所でございましょうか・・・・。


 大公様が最近可愛がっている幼い精鋭の一人、その子が大公様を後ろ盾に開いた食堂はウチの国の貴族や富豪たちがこぞって通う程、素晴らしい料理を出しているのでございます。

 かく言う私も下見に何度か通いました。

 料理だけでなく、お酒も、そしてデザートも今まで見た事のない物ばっかり提供されており、最近では可愛い動物を模した菓子まで売っている洒落た所でございます。


 国力でも大分差を付けられている帝国の№2、宰相一行を受け入れるのにこの店を使わずして何を使うって感じではございませんか?

 食前酒からして3色のカクテルから選ぶ様になっております。


 私も仕事柄、他の国を訪問する事はございますが、その際の食前酒とはワインか、ワインにフルーツを混ぜた物があるくらいでございます。


 それなのに、フローリストガーデンに仕事を申し付けただけで、この様に3色の見映えの良いカクテルなるモノが出て来ました。


 オレンジ色のオレンジ・ブロッサム

 綺麗にカットされたオレンジの実が綺麗な蘭の花と一緒に印象的に飾り付けられていて見るからに華やかでございます。


 ブルー・ハワイ

 どうやってあんな鮮やかな青色を出しているのか分かりませんが、とても綺麗でこちらも目を引くカクテルでございます。


 スイカのソルティードッグ

 綺麗な赤色の一品でございます。

 赤とピンクの塩の様な物がグラスの縁を飾っており、見た事もないスイカという赤いフルーツが細長くカットされ、グラスに刺してあります。

 ちょっと大人な感じの佇まいのカクテルでございます。

 

 宰相様は「行儀が悪いが、初めて見る酒なので、全種類試してみたい」とおっしゃられ、目の前にズラっと3つのグラスが並べられ、ご満悦のご様子。

 一番上の方がそんな事をされますと、下々の者も同じ様にしたいのは当然でございます。


 訪問団のメンバーを優先して、試したいカクテルは数を限定せず提供させて頂きました。


 そこで、はじめて今日のメニューカードが配られました。


「ん?何で豚肉があるんだ?」

 何も考えず口に出してしまいました。

 2週間も前にウチの調理長を通じ、フローリストガーデンには豚肉は使わない様にと通達したハズなのに・・・・。


「私は豚肉は食べられないと事前にお伝えしておりますが、どれかに豚肉が入っているのですか?」

 食前酒で目元をちょっぴり赤くした宰相が目を三角にして詰め寄って来られました。

 陛下も少し顔を曇らせて、責任者である私の方を睨んでいらっしゃいます。


「い、いえ。変更前のメニューカードが届いたみたいでございます。申し訳ございません。おいっ!メニューカードが間違っているぞ。調理場へ行って確認して来い!」

 私の秘書はとある男爵家の次男なのですが、ちょっと足りない所がございまして、すぐに機転を利かせるという事ができないのでございます。


 どうしてそんなヤツを秘書に?

 そう思われますよね?

 私もそう思います。

 しかし、妻方の実家繋がりで押し付けられる様に雇わされたこの男爵家の次男は、縁故がある故に首を切りたくても切れないのでございます。

 会場の端っこに引っ張って行き、「調理場のフローリストガーデンの責任者に、豚肉は宰相が食べられないので使うなと至急伝えて来い!」と送り出しました。


 恐らく、調理場責任者が、外部の事業者を引き入れての正式晩餐会に抗議する心算で仕掛けた罠なのでしょう。

 自分たちが何時でも取って代われる様に、牛肉とか羊肉を用意してニタついている事でしょう。

 城勤めが長くなると、城の人達の考え方なんて開かれた本を読むが如き、皆同じ様な発想なのですぐ分かってしまう・・・・。


 ただの調理人の自尊心を国の大事より優先している段階で、この調理長は首にいたします。

 城の正式な晩餐会を他の業者に取り仕切られるのが嫌ならば、普段から腕を磨けば良いのでございます。

 フローリストガーデンはお店なので、お客として行けば幾らでも新しいメニューを味わい、勉強する事ができたハズでございます。勉強する気さえあればですがね。

 それすらせずに、国の行事を失敗に導く様な料理人はこの城には必要ございません。


 はっ!もしや代替えの肉すら用意していないなんてことはありませんよね?

 ああ、胃が痛くなってきました。

 折角美味しい料理を楽しめ、帝国より文化水準の高い料理を提供して鼻高々になれる予定だったのに・・・・。

 

「おおお!何と美しい!」

 三色の薔薇が綺麗な緑の葉っぱに見立てられたえんどう豆で飾られ、黒いソースが芸術的な図柄を描く皿に帝国の一行は感嘆の声を挙げている。


「ん!これは魚!でも生に見えて生じゃない。しかも美味しい!見よ!この美しい色を」

「おおお!こちらは冷えた牛肉!冷えているのに美味しい」

「これは卵かぁ?こんなに薄く焼けるものか?それとも実は卵ではなく別の物なのか?」

「この黒いのにつけて食べると更に美味しいぞっ!」


 私の目論見通り帝国の一行は最初の一皿から驚いており、満足そうでございます。

 ウチの貴族たちの中にも驚いた顔をして食べている者もありますが、何故普段から食べているという風にできないのか・・・・。ここは他国に対し有利に振舞える機会なのですぞ!

 その様な腹芸も出来ない役立たずの貴族など、この大事な晩餐会に出席させるのではなかったと今更ながら反省をしております。

 まぁ、豚肉問題に比べれば可愛いものではございますがね。


 ああ、豚肉問題がどうなるのか、晩餐会が終るまで私の胃は持つのでしょうか・・・・?

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― 新着の感想 ―
うーん、まあ料理変更の用意は主人公側もしてるんだろうけど、メイン豚肉はリスキーじゃない? それとも内輪揉めを考慮してわざと嫌いな人が多い食材を最初からメニューに混ぜることで逆に対策立てやすくしたとかか…
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