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夕食の後、寮の女子棟にメグと戻って来た時、私の部屋へご招待してみた。
二人の間ではお互いの部屋への行き来は日常茶飯事なのだ。
「おじゃましま~す」と土足厳禁が徹底されている私の部屋へ入る時は、もう口に出さなくても自然と靴を脱いで備え付けのスリッパを履くメグたん。
ラブリ~♪
「いらっしゃ~い。飲み物をどうぞ」と、食堂から持って上がったお茶をテーブルの上に並べた。
夜なのでチーズとほんの少しのぶどうを並べる。
フランスの諺だったっけ?「朝のフルーツは黄金、昼のフルーツは銀、夜のフルーツは鉛」だっけ?
夜にフルーツは食べちゃダメって言う意味なんだけどね、チーズはブドウと一緒に食べると美味しいんだよね。
少量は良しということでぇ~。
「このチーズ美味しいね」と勇者様の手は止まらない。
いつもあややクラブへ行く時持って行っている手提げ袋から出しているんだけど、その手提げ袋はストレージから物を出しているのを隠すための目くらましなんだよね。
毎日手提げ袋から物を取り出しているのを見ているせいか、チーズやぶどうが出て来てもメグは驚いたりしない。
一通りお茶やおつまみの話をした後、私はアドリエンヌ様の事やセシリオ様の事を話してみた。
「う~~ん。私ね、前にね、アドリエンヌ様に一緒におやつでも作りませんか?って話し掛けた事があるのね」
「おおお!」メグたんの話の続きが聞きたくて、思わずズイッと身を乗り出した。
「あははは。それがね、料理は興味があるんだけど、今はテラスを自分の聖域にしたいんだって言ってたんだよね。お家で土いじりを許してもらえないからって」
「やっぱりそうかぁ・・・・。私も前に聞いた時、そういう風に言われたなぁ」
「セシリオ様も好きで独りでいる時があるから、アドリエンヌ様もそうなんだと思うよ」
「そうか・・・・」
「後ね、あれだけ丹精込めて整えているテラスなんだから、いつもダイニングでお茶にするんじゃなくって、みんなでテラスでお茶にしたり、ダイニングにアドリエンヌ様のお花を飾ってもらうとかお願いしてみたらどうかな?」
「おおおおおお!その案、めっちゃ良い!流石メグだ」
「いやいや、ウチの弟、上の方の弟だけどね、引っ込み思案なのよ。流石に兄弟から話し掛けられたらちゃんと答えたり、ときには言い合いになったりするんだけど、パーソナルスペース?そういうのが他の人よりも広いみたいで、ほっといてあげないと弟の方がストレスを感じるみたいなんだよね。アドリエンヌ様もセシリオ様もウチの弟とちょっと似た感じがするんだよね」
「なるほど。じゃあ、断ってもらってもいいけれどって前置きをして、月一くらいでテラスでお花を愛でながらお茶をさせてもらえるかどうか、ダイニングにお花を飾ってもらうのも合わせてアドリエンヌ様にお願いしてみない?」
「いいねいいね」
明日にでも私達二人で別々にアドリエンヌ様に頼んでみようということになった。
何故、別々か?
単純に2対1になって、不要な圧を産みださないためだ。
後、私たち二人が全く同じ事を言えば、話すタイミングが違っても、後ろで繋がっているイコール2対1の図式が出来上がってしまうので、メグはお花を飾る事、私は月一で良いからみんなでお花を愛でながらのお茶会を提案しようといことに納まった。
翌日、まずメグがアドリエンヌ様にお花を飾る事を提案してくれ、二つ返事でOKが出た。
流石、勇者様。
人の心を掴むのが上手い!
さて、今度は私の番だね。
今日もアドリエンヌ様は庭仕事を終え、パラソルの下の吊り籐椅子でくつろいでいらっしゃいました。
「アドリエンヌ様」
「なぁに?」
「この前はお煎餅を干すのを手伝って頂いて、ありがとうございました」
「ああ!お煎餅、おいしかったでしゅわね。また頂きたいでしゅわ」
「はい。また今度作りますね。今日はチョコレートと肉まんですよ」
「あら、どっちもしゅきですわ」
「よかったです。後、もう少しで蒸し上がりますので、そうしたら声を掛けますね」
「ええ」
「ところで今日はお願いがあって来たんですけど、このテラス、アドリエンヌ様がしっかり管理して下さっているので、冬でも綺麗なお花がちらほら咲いていますよね」
「ええ」と、無い胸をじゃっかん張るアドリエンヌ様。
「みんな思い思いの時に、ここのお花を愛でさせてもらっていますが、月一くらいで良いので、お茶の時間をこのテラスで持つ事ってできないでしょうか?もちろん、テラスの管理上、たくさんの人が入ってしまうと難しいということでしたら諦めますが、どうでしょうか?」
アドリエンヌ様はしばらく黙って考えていたが、これはそろそろ諦めますってこちらから言った方が良いかなと思った時に漸く返事が返って来た。
「私は別に良いのでしゅが、アドルフォしゃまが花粉でくしゃみが止まらなくなるんでしゅの。ありがたい事に、くしゃみが出たとしても今の所軽くしゅんでるみたいなんでしゅけどね・・・・」
「え?花粉アレルギーですか?」
「そういう風に言うのでしゅか?名前は分からないんでしゅけど、あしょこの紫のお花、しょれ以外にもどちらかというと草ではなく木に花が咲いている時が酷い様でしゅね。だから、アドルフォしゃまのくしゃみが出ないお花をダイニングにかじゃる事はできても、こちらのテラシュでお茶会は無理なんでしゅ」
「そうだったんですね」
「私はここで作業している時に着ているシュモッグは、建物に入る前には何度も振るってから入っているのでしゅよ。花粉の時期には髪の毛をお風呂場で洗ってから下に降りる事もありましゅ」
「そんなに気を遣って頂いていたんですね」
「今日、メグしゃんからダイニングにお花を飾って欲しいと頼まれましたので、くしゃみが出ないお花をげんしぇんして飾るので、それでみんなにお花を楽しんでもらいまちょう」
「はい。ありがとうございます。後、いつも通り、美味しいお茶をお願いしますね」と言うと、ニッコリ子供らしい笑みで返してくる花の妖精がそこに座って居た。




