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火曜はあややクラブの日。
先週末、学園内のあっちこっちに張り出した『ドッジボール大会実行委員募集』のポスターに反応があった。
今回もファティマ様以外はクラスで先着2名様までが対象。
申請は、本日15時から17時までの間に、教室棟の学食に待機している担当者まで口頭で行う事になっている。
こういう仕事は私達平民メンバーがやる事になっている。
というのも、貴族が受付をすると、平民クラスの人たちが申請しづらくなるからだ。
そして、今年はフェリーペが担当なので、学食に来た人達のクラスと名前を控えるのが彼の仕事だ。
各クラスの最初の2名が申請に来た場合は、その場で委員となった事を知らせるのも彼だし、最初の会合の日時や場所が記された紙を手渡すところまでが彼の仕事だ。
そして私達3人は、学食に入って来ている人たちを一列に並んでもらう様に先導する係だ。
フェリーペのアイデアで申請の日時を区切ったのもあり、比較的スムーズに手続きが出来た様だ。
後は、闇王様に委員のリストを渡したり、委員の証であるスカーフを初の会合までに用意したりする事が当面の作業だ。
去年とは違う色のスカーフにして通し番号を付けて控えるのだが、スカーフ自体はアドリエンヌ様が用意してくれるらしいので、フェリーペの作業量はそこまで多くない。
ということで、私たちは特に手伝う事はしておらず、ボブは2階でドールハウス関連の作業を例の錬金術スペースで行い、メグたんはドールハウスの小物のデッサン。
私は勿論、大公様の宿題のロードマップ作りだ。そしておやつ作りもだね。
ガスペール先生からのおやつに関するリクエストが結構ウザイ・・・・。はぁ・・・・。
あの先生は相も変わらず2階の自立式ハンモックに揺られて本を読んでいたり、昼寝をしていたり、時にお風呂も自由に使っている様だ。
最初の時は普通に女性陣のバスルームを使っていて、こっちが慌てちゃったよ。
闇王様が直ぐに注意してくれ、もし今後間違ってでも女性用のバスルームに入ったら出入り禁止にすると言い渡したのもあって、あれからは間違えてないみたい。
まぁ、最初の1回は、誰もガスペール先生に部室の使い方を説明してなかったから純粋に間違えたんだとは思うけどね・・・・。
そしておやつが出来ると呼んでもいないのに絶妙なタイミングで下におりてきて、今や先生の席となった椅子に座って待つのだ。
ガスペール先生の面の皮は相当厚いとみた。
「この点心、美味しいけど、一つ足りないものがある」
「え」
「酒だ」と言われた時は部員全員がドン引きしちゃったよ。
闇王様は学園側とのすり合わせで忙しいそうで、セシリオ様はその補助を、アドリエンヌ様はフェリーペが作業しているドッジボール実行委員会のスカーフを用意してくれていたりした。
なんとアドリエンヌ様、お裁縫が苦手ではないらしい。
得意でもないらしいんだけど、縫物くらいはやりますと言って、花に囲まれたテラスでせっせと縫ってくれたらしい。
一つ不思議なのは、如何にお花が好きだと言っても、あれだけテラスに入り浸りなのは何か他に理由があるのではないかと思っている。
クラブに馴染めないとか?
他人と話をするのが苦手とか?
う~ん、分からないけど、一度ゆっくりアドリエンヌ様が居心地の良い様にクラブ内を整える為に何かをした方がいいのかもしれない。
ああああ!私ってば。
やらなくちゃいけない事がてんこ盛りのこの時に、どうして更に仕事を増やそうとしてしまうのだろう?
でもね、私、アドリエンヌ様、結構好きになっちゃったんだよね。
おやつを作ってると妙に懐いてくれてる部分があって、そこが可愛いと言うか・・・・。
何より何時もおやつを幸せそうな顔で食べてくれるので、料理を作る者にとっては創作意欲を刺激してくれる良い人なのだ。
前に聞いた時は、土いじりが大好きなんだけれど、ご実家では貴族の娘らしくない事はするなと言われていて土いじり出来ないから、テラスで好きなだけ花をいじれるのは幸せって言ってた。
折角だからクラブに居る時は思いっきり土をいじりたいという事だった。
で、アドリエンヌ様がテラスを思いっきり満喫できる様に、吊り下げ式の籐椅子やコーヒーテーブル、ボブんところの実家で見た鉄製のおしゃれな仕切りや、大きくておしゃれなパラソルを備え付け、できるだけアドリエンヌ様の居心地を良くする様にしてきたんだよね。
でもそれって彼女を孤立させてるって事にならないかな?
だってクラブにいる間、おやつの時間以外は大抵テラスだものね。
雨の日は流石に屋内だけれど、そんな時も二階のソファの所からテラスを見ながら本を読んだり、お茶を飲んだりしているんだよね。
あ、でもそれを言うと、セシリオ様もよくお一人で図書コーナーに籠っているな。
とすると、こういう一人の時間がお貴族様には必要なんだろうか?
う~ん、こういうの、誰に相談すればいいんだろう?
「ん?貴族が一人で居る事が多い事が不思議なの?」
タチアナ先輩は不思議そうな顔をしている。
クラブ活動の日ではないのだけど、恐らく錬金術クラブに来ているだろうとあたりを付けて来てみれば、やっぱり居て何かの作業をしていたところを捕まえた形だ。
「え?それって当たり前なんですか?」
「人によると言えばそうなんだけど、貴族って弱みを見せるとそこを攻撃されちゃうので極力付き合いは表面的な感じにとどめておくのが定石ね。とっても仲が良い人に対してはある程度胸襟を開くけど、それでも根っこのところは見せないのが普通ね。そういう風に幼い頃から躾けられるからねぇ~。どうしたの?あややクラブでもみんなバラバラなの?」
「いえ、そんな事はないですよ。クラブ一丸となってイベントを進めてたりしているので仲は頗る良いと思います」
「なら、良かったわね。まぁ、あややクラブはアドルフォ様が中心で入部出来る人を選別しているみたいだから敵対勢力も入ってないし、そういう意味では居心地の良さそうなクラブよね」
そういう物かぁと思いつつ、アドリエンヌ様の事は考え過ぎなのかもしれないと思い始めた。
でも、女子は3名しかいないんだから、もう少し彼女の事を気に掛ける様にしてみようかな~。
 




