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週が明けて錬金術クラブ。
新年度になってから今までは、顔を出さないといけないので出していた感が強いのだが、今日は5人ともドールハウスに掛かりつけで、もう楽しくてしょうがない感が半端ない。
フェリーペとランビットは馬車に掛かり切りで、この休みの間にボブと合わせてそれぞれが1枚、馬車のデザイン画を作成してきたらしい。
今は、外装や内装を嵌め込むための基礎となる部分の設計に、二人でああでもない、こうでもないと楽しそうだ。
ボブと勇者様、そして私たち3人はドールハウスの外核、つまり屋根や壁などの設計に入った。
屋根は1種類。色は赤、青、茶の3色。
外壁は3階建て1種類と2階建て2種類の計3つのデザイン。
外壁の色は黄色、サーモン色、白、パステルグリーンの4種。
これは先週の金曜にランビットにデザイン画を渡していたので、3階建てハウスと屋根の設計図を週末中に仕上げてもらっていた。
そこまで根を詰める必要は無かったのだけれど、ランビット自ら「週末に作業できる物があったら、先にくれ」と言ってくれたので、ありがたく作業を進めてもらったのだ。
屋根をボブが、メグと私がハウスの部分の色違いをそれぞれ錬金術の機械を使いながら量産している。
恐らく、今日の作業は3階建てのハウス部分作成を終えて、ボブを手伝って色違いの屋根を作って終了になるだろう。
私も含めて5人共、本当に楽し気に作業をしているので、一年生のタムタムが何を作っているのか興味深々で近づいて来た。
こういう風に後輩が先輩の作業を見学するのは私たちの時と同じだ。
ウチのクラブには暗黙の了解があって、月曜と木曜のクラブの日に後輩が作業を見ていたら、簡単に何をしているかの説明をする事になっている。
反対にクラブ活動の日でない日は、先輩の作業を観察することはできても、説明を受ける事はないのだ。
これは先輩方が計画より遅れている作業をやっているという建前なので、説明する義務がないのだ。
クラブ活動の日は、今まで自分たちが新人だった時に先輩たちからしてもらった様に、後輩たちの錬金術の知識の底上げに貢献するのが先輩の役目だという考え方に根差しているので、近寄って来られたら説明をしなくてはいけないのだ。
タムタムは、私たちの作業を邪魔してはいけないと思っているらしく、近寄って来ても無言で作業を見つめている。
「タムタム、僕たちは今、冬の即売会で売るための商品を作ってるんだ。ドールハウスっていう商品だ。興味があるか?」
ここのところ、ずっと1年生に対応していたボブがすぐに声を掛けた。
「はい。ドールハウスっていうの、初めて聞きました」
「ああ、それは僕たちが命名したから聞いた事がなくて当たり前なんだ。5人で考えて、アイデアを出し合って、人形用の家と馬車を作ってるんだ」
「え?人形用の家ですか?」
「そうだ。家具もちゃんと置けるし、食器とか鍋まで作るつもりだ。窓も全部開け閉めできる様にするつもりだし、馬車の方は外観も内観も素材や色なんかを着せ替えできる様に作る予定だ」
「おもちゃですか?」
「うん。広い意味でおもちゃだけど、貴族や大商人の子供がどうやって家を管理するかとか勉強するのにも使えるし、インテリアとして客間や子供部屋に飾っても良いくらいの物を作ろうとしているんだ」
「面白そうですね」
「ああ。今は、お前とかパリィはネームプレートを作ってると思うが、それと同じ様な点に気を付けながら細かい部品を作らないといけないんだ。だから、お前たちが今やってる作業も、とても大切なんだぞ」
おおおお!ボブがちゃんと先輩やってる。
なんか見直しちゃった。
「今はまだ、ドールハウスも作り始めたばっかりだから、最終的にどんな風に仕上がるか予想もつかないだろうけど、後1か月もしたら凡その形や雰囲気は分かると思うぞ」
「はいっ。楽しみにしています」
「うん」
タムタムは一通り私たち5人の作業を覗いた後、ようやく自分が作り掛けているネームプレートの方へ帰って行った。
もう一人の新人、パリィは何か悩んでいる様で、自分の座って居るデスクから動く様子は見られない。
恐らくまだどんなネームプレートを作るのか、案が定まっていないのだろう。
そうこうする内にクラブの時間が終り、最初に予想していた通り、馬車組は骨格の設計図を3種仕上げた所で終わり、私達は3階建ての外壁、そして全てのドールハウスの屋根を作って終わった。
「なぁ、お前たちはあややクラブがあるから、明日や明後日はこっちには来ないだろう?」
「「「うん」」」
「その間、俺だけでドールハウスの作業を進めてもいいか?」
ランビットはやる気満々だ。
ボブもこっちへ来たそうだったけど、ドッジボール大会の準備もあるもんね。
直ぐに何をするって事がなくても、やっぱりあややクラブに顔出しは必要だ。
私たち3人がランビットに「「うんうん」」と二つ返事なのに、ボブだけは「・・・・うん」と不本意そうだ。
でも、作らなくてはいけない小物がてんこ盛りなので、ランビットにクラブ活動がない日まで作業してもらえるなら万々歳だ。
私も週末に少し描いておいた鍋や皿の絵をランビットに渡し、設計図を描いてもらう事にした。
ハウスの外壁が決まったので、カーテンの大きさも大体分かるので、布をカーテンの様に縫ってもらうのもしてくれるそうだ。
「ふぉ、お裁縫まで。ありがとう!」勇者様の心からの感謝がランビットに。
だってメグも私もお裁縫はあんまり得意じゃないものね。
もちろん2階建てのハウスの設計図も引いてくれるそうだ。
「ランビットばっかり作業量が多くて申し訳ないね」と勇者様。
「うん、とっても助かるけど、まだ日にちはあるし、5人だから人手もあるし、ゆっくりでいいよ」とは言ってみたものの、「俺は魔力がないから、魔力がいらない作業は率先してやりたいんだ。後、皿も少しデザインしてもいいか?」なんて作業量を気にしてない発言がランビットから発せられる。
「もちろん。小道具はいっぱい種類があればあるほど良いから、どんどんデザインしちゃって。ランビットがやりたい事はやっちゃって良いよ~」
勇者様は自分の苦手な裁縫までランビットがしてくれるとあって、もうランビット様様になっている。
今ならランビットが言う事は無条件で全部賛成しそうだ。
「俺も楽しみながらやっているから、色んな作業前倒しで進めちゃぁイケない物があったら先に言っといてくれよ」と話しながら寮へ戻る。
最近はランビットも私たちと同じ席で夕食を食べる様になった。
食堂でもドールハウスの話しで楽しく意見交換してるのでお互いの意思の疎通がスムーズだ。
 




