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伯父さんが作るメダリオンステーキ、めっちゃ火加減が良い。
「ねぇ、スティーブ伯父さん、このステーキ本当にオーブンの温度計を見ずに焼いたんですか?」
「そうだよ。お前の注文が温度計を見るなだったから、試作品を作る時には温度計のメモリの上に濡れた布を被せて見えない様にして焼いてるよ」
「おおお!それなら伯父さん、このステーキは合格です。とっても良い火加減で焼いてありますね。すごいです」
「そうだな。私も何度か試食させてもらったけど、ここの所、兄さんが焼いたこのステーキ、いつ食べてもとっても美味しいよ」
父さんからもOKが出た。
「薔薇の花の皿は前からちゃんと出来てたし、ポタージュもマルタ伯母さんに任せておけば絶対成功だし、カプレーゼはモッツァレラチーズを作るのに人手がいるのと父さんにちゃんと美味しいトマトやバジルを納入してもらえるかの方が大事かもしれないです」
「大丈夫。ちゃんと計画的に育ててるから、もし問題が起きたとしても、余分に作ってる分で対応できるはず」
「ありがとう、父さん。ということはチーズケーキだけど、チーズは余分に仕入れて保管しておいた方が良いかもしれないかも。お城で用意してもらえるとのことだけど、こっちが望んでいる質のチーズがちゃんと入荷できるかどうかは別問題だから、万が一の時はウチから搬入っていうのも考えておかないとね」
「アウレリア、チーズケーキだけど、ナスカを中心に調理する様にしてもいいかい?ここの所、お菓子に関しては凄く実力が上がってきているし、やる気を持って何度も練習してくれているんだよ。私も手伝うけど、そろそろナスカにも責任を持って担当できる料理を決めてやりたいんだよ」
「マルタ伯母さん、じゃあ、そうしましょう。もちろん、マルタ伯母さんが最終的な確認をしてくれるっていうのが前提ですけどね。お店としても、ナスカに続いて下働きの子たちのやる気を出させるって言う意味でも、頑張っている人にはちゃんと地位とか報酬で評価する事が大事ですものね」
「さすが私の姪だ。ちゃんとあたしの言いたい事を理解してくれたみたいだね」
マルタ伯母さんと二人、顔を合わせてニィっと笑った。
「ナスカ!」
「はいっ」
「あたしが当日までお前にちゃんとレアチーズケーキの作り方の特訓をしてあげるからね、頑張るんだよ」
「はいっ」
マルタ伯母さんの叱咤激励にナスカは目に涙を浮かべながら元気よく頷いた。
「じゃあ、父さん、城への納品について話し合いたいんだけど、家の方で打ち合わせで良い?」
「ああ、じゃあ、今から上に行くか。フェイ義姉さん、お店の方お願いして良いですか?」
「もちろんよ。晩餐会はウチの店が更に飛躍できるかどうかが掛かっているんだから、あんたたちはしっかり準備して頂戴。その間、店の方はわたしに任せてね」と、フェイ伯母さんは薄い胸をドーンと叩いた。
3階まで上がると母さんがサンルームでくつろいでいた。
後1か月か1か月半くらいで生まれるであろう弟か妹が育っている大きなお腹をしている母さんは、秋から冬へと段々と変わっている日差しをガラス越しに受けながらパッチワークで何かを作っていた。
恐らく赤ちゃん用の上掛けとかだよね。
実はこの世界、パッチワークという文化はなかったんだよね。
あ、ボロ布を継ぎ合わせるっていうのはあるよ。
でも、色味を考えて綺麗な模様にするとか、裏地を付けて間に綿を詰め、暖かいベッドカバーにするっていうのは無かったのだ。
私は針仕事が苦手なんだけど、母さんは別に苦手じゃないって言ってたので、お腹が大きくなってきてお店に出なくなり、三階まで登ったり下りたりを避けるため家から出る事が少なくなって退屈していた母さんに絵を描いて教えたんだよね。
そうしたら結構燃えちゃったみたいで、今作っている作品も含め結構な数作ってるみたい。
ある週末、家に帰ると私の部屋のベッドカバーが綿入りキルトになっていたのは驚いた。
そのベッドカバーの2/3は空ということで水色一色なんだけど、布と同じ水色の糸で複雑な模様が繰り返されておりその部分だけでもすごいのに、下1/3は小さな村っぽい風景が縫い込められていてとても綺麗な絵画の様だ。
今、母さんが作っているパッチワークも私のベッドカバーと良く似ている絵画の様な作品だ。
「あまり根を詰めない様にな。体に相談してくれよ」と言いながら父さんが母さんの向かいの席に座った。
「お茶淹れるね~」と台所でお茶を淹れながらフルーツをカットしたり瓶の中に保管していたクッキーを小皿に載せてサンルームに戻ると、母さんが「アウレリア、ここにお座り」と椅子を叩いた。
テーカップとかをテーブルの上に並べていると、「学園の事を聞かせて頂戴」と母さんからリクエストがあった。
「レティシア、実は城の晩餐会の件で話し合うために上がって来たから、先にそっちを話していいか?学園の事は私も聞きたいけど、店を兄さんたちだけに任せておくのも気が急くので、早めに下におりたいんだ」と父さんから説明があり、早速晩餐会の話しになった。




