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「ねぇねぇ、今日は何をして遊ぶの?」
赤毛の小さなパメラがスープを飲み終わって兄のパウロに聞いた。
パウロは村長の孫なので、このグループのリーダー的な存在なのだろう。
「何をする?」と同い年のランディや『いもり亭』の後継ぎ息子のアンディの意見を参考にしたいみたいだった。
「アウレリア」
私と似た色合いのブロンドの女の子が、みんなの後ろから私に声を掛けた。
誰なのか分からないので、彼女の方を見るだけで、特に何のアクションも取らないでいたら、ランディが彼女を見て「フェリシア」と言ったので、このちょっと年上に見える女の子はフェリシアという名前なのだろう。
「あんたがアウレリア?家のばっちゃがあんたに会いたがっているの」
フェリシアは、ランディを無視して直接私に話しかけて来た。
彼女が何故私に彼女の婆さんの話をしてくるのか理解できず、きょとんとしてしまい、場の空気が一瞬固まってしまった。
ランディが、「レティシア叔母さんの所の長男の子だよ」と教えてくれた。
なんと!母方の従姉なのか。
さっきランディが言っていた名前を思い出し、「フェリシア、私アウレリアって言うの。婆さんが私に会いたがってるの?」と聞くと、「だからさっきからそう言ってるじゃない」なんてちょっとおかんむりだ。
気が短い子なのかもしれない。
「そう」とフェリシアに応え、すかさずランディの方を向いた。
「ねぇ、ランディ。母方の親戚に会いに行くにはどうすればいいの?マノロ伯父さんに許可を貰えばいいのかな?」
「そうだな。黙って行くと心配するかもしれないから、父さんには言っといた方がいいな。フェリシア、今から家へ帰るから、一緒に行って何時行くか相談しようぜ」
フェリシアとの会話を横で聞いていたパメラが、「えええーーー」と声を上げたけど、折角ポンタ村に来たのに、母方の親戚との顔合わせを後にするというのは何か居心地が悪い。
折角新しいメンバーが入ったのに、初日から一緒に遊ばず抜けちゃうというのが幼いパメラには承服し兼ねたのだろう。
ランディはみんなと残って遊んでもらっていいけど、私は一旦『熊のまどろみ亭』に戻る必要があるみたいだ。
「パメラ、ごめんよ。リアにとってはフェリシアん家は親戚だから、挨拶したいのは当たり前の事なんだ。で、行くとなると、迷子にならない様に俺がついて行った方がいいから、今日は俺たち二人はこのまま帰るよ。来週は一緒に遊ぼうな」
私にとってはまだ知り合ったばかりで気を遣ってしまう相手なので、ランディが代わりに説明してくれたのはとっても助かる。
ランディとは今まであまり話す機会はなかったけど、心配りの出来る子なのかもしれない。
「来週、一緒に遊べるの楽しみにしてるので、今日はごめんなさい」と私も言葉を添えた。
パメラだけじゃなくってグループのみんなはがっかりした顔だったけど、村に来たばっかりなので親戚への訪問が重要なのは皆分かってくれた様だ。
来週は何が何でもみんなで遊ぼうという約束をして、フェリシアと三人で教会の門を出た。
『熊のまどろみ亭』までの短い距離を3人で歩きながらいろいろとフェリシアに質問してみた。
「フェリシアも学校にいたの?」
「うん」
どうやら彼女はランディ達のグループとは別の子たちのグループの様だ。
だから全然話をする事もなかったのね。
生徒の数は少ないんだけど、初日だし、全員を覚えてないからね。
「ごめんね、知らなかったから。知ってたらこっちから挨拶したんだけど・・・・」
「いいよ。出口で待つつもりだったから。ばっちゃが会いたがってるんだけど、チビがいるから家から出れないの。それに足も悪いから・・・・」
「え?婆さん、足が悪いの?」
「うん。年だからね。どうしてもあっちこっち痛いみたい」
フェリシアって明るい子で物怖じしないので、こっちが黙っていても話しかけてくれる。
話題が途切れて気まずくなる事はない。
何で私がこの村に来たのかとか、『熊のまどろみ亭』のお手伝いはしているのかとか、いつまでいるのかとか遠慮なく聞いてくるので、差支えのない事について答えていたら、もう目の前に宿が見えて来た。
「そうだな。日曜くらいしか休ませてやれんから。行くなら今日か来週の日曜だな。今から行くなら手土産の用意をしてやるぞ」
マノロ伯父さんは、恐らく今夜宿で出すであろうスープを小鍋に入れ、蔦で編んだ蓋つきバスケットに入れて、ランディに渡した。
ランディの方が多少荷物が重たくても大丈夫というのと、私が帰りに迷子にならない様にとのことで、
ランディが私について来てくれる事になった。ランディの予想が当たったね。
爺さんは調理場の奥から、エールを瓶に詰めて持って来て、ランディに渡した。
「フリアンたちへの土産だ。持って行きなさい」
私の記憶間違いでなければ、フリアンとは母の兄の事だ。
王都から何かお土産を持って来ていれば良かったのだけど、バタバタと王都を発ったため、土産になる物を持っていなかったので、マノロ伯父さんと爺さんのこの心遣いはとってもありがたい。
「伯父さん、爺さん、ありがとうございます」とお礼を言うと、ニコニコ笑って頭を撫でてくれた。
「セレスティーナによろしくな」と爺ちゃんの伝言を携え、『熊のまどろみ亭』を出発した。
セレスティーナは私の婆さんの名前だ。




