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母さんのお腹がちょっとずつ大きくなっている。
この世界では赤ちゃんが男の子なのか、女の子なのか事前に知る方法がない。
色に性別は無いが、母さんは黄色いお包みとかをせっせと編んでいる。
こっちの世界でも赤系統は女の子、青系統は男の子って感じらしい。
で、性別が分からないならどっちの色でもない黄色なんだと。
色に性別は無い。
前世でそういうのを問題視していた知人に言われた言葉だ。
「赤が女性の色って誰が決めたの?」と詰め寄られた時、別に差別とかそんな大層な事は思っても居なかったし、実際に持ってもいないけど、小さな時から植え付けられた女子トイレの案内プレートは赤、男子トイレは黒か青っていう様な記号化してしまった物は直ぐには打ち消せないなぁと思った事を思い出した。
令和ではポリコレと言われ、「ん?」と思う事も多かったが、こちらの世界でもいずれはそんな風潮になるのだろうか・・・・。
なんかお包みの色を聞いて、色に性別は無いという言葉を思い出した事に変な寂寥感を感じる。
母さんの場合、今年の2月頃に妊娠が分かったので、この世界でも十月十日で生まれるらしいから、出産予定日は11月頃?12月頃?
2月に妊娠したのではなく、2月に妊娠の兆候が表れたということで、恐らく妊娠したのは1月か2月の初めらしいと言われた。
学園に通い始めて家族とは週末にしか会えなかったのと、イベントとかで忙しかった事、母さんのお腹があまり目立ってなかったので、ついつい日頃の雑事にばかり気がいっていたけど、いよいよ母さんのお腹も大きくなって、赤ちゃんがその存在を主張しはじめたので、気分は既におねいさん。
階段の上り下りがあまりよろしくないんじゃないかと父さんが心配するので、母さんは大分前からお店には出ていなかった。
でも、運動しないのはそれはそれで良く無いらしい。
私は母さんが出産する時、ちゃんと家に帰って来れるのかな?
外泊届を出せば、週末でなくても家に帰らせてもらえるのかな?
出産が12月なら冬休みに引っかかるから、家にいられるんだけど、11月ならちょっと怪しい。
冬休みは1か月半もあるから、丁度良いタイミングなら、赤ちゃんが生まれてからもしばらくは一緒にいられるなぁ。
「ねぇ、父さん。男の子がいい?それとも女の子?」
「どちらでも嬉しいよ」
「ふふふふ」
「あははは」と、親子でお馬鹿な話をしているとベランダから戻って来た母さんが、「その会話、何回やれば気が済むの?」って呆れている。
私も妹でも弟でもどっちでも嬉しいよ。
実は前世も前々世も兄弟姉妹はいなかったんだよ。
お姉ちゃんとして何をしてあげればいいんだろう?
私に出来るのは料理とか、錬金術で簡単に作れる物を用意するくらい?
赤ちゃんのベッドってこの世界ではあるのかな?
ベビーカーは?
あ、タイヤがないからベビーカーはなさそう。
ベビーベッドの上でくるくるする奴、何て言ったっけ?
ベビーモービル?いや、ベビーメリーだっけ?
ああいうのも作ってみたいな。
大公様の宿題とかいろいろあるけれど、ちょっとずつ用意していけば何とかなる?
あ、でも、今ウチの店は宮廷晩餐会の事でみんなの目が三角になってるんだった。
勿論、一番目が三角になってるのは私だけどね。
はぁぁぁ。何かめっちゃ忙しい・・・・。
でも、おねいちゃんは頑張るぞ!
未来の妹か弟に喜んでもらうために、色々用意しちゃおう。
そうだ!自分で作らなくても、ボブとかに作ってもらうっていう手もあるよね。
ベビーメリーくらいは自分で夜なべして作れるかもだけど、音の出るのにしたいなぁ。
なら、鈴をボブに作ってもらおうかな。
鈴くらいなら錬金術クラブの時に、自分で作れるかぁ。
なら、ベビーベッドっていうのがこちらの世界にあるかどうか確かめて、なければベビーベッドの作成依頼かな。
ベッドは是非揺れるのを作ってもらいたい。
ランチ営業の前の賄いを食べている時、父さんが「ところで、王城の料理長からメニューのOK貰えているんだけど、食材リストをそろそろ提出しないといけないと思うんだ。アウレリア、作ってもらえるかい?」と聞いて来た。
あっ!授業中にせっせと書いていたのに、父さんに渡すのを忘れていた。
「ごめん!父さん。大分前にリスト作ってたのに、渡すの忘れてた」
「まだ、大丈夫。城からはせっつかれてないから、今日父さんに渡してもらえるかな?」
「うん、もちろん!」
ああああ、あれだけ気を張っていたのに、大きなポカをやらかしちゃったぁぁ。
学園の寮に戻ったら書いたものがあるはずだけど、今日の午後に作り直そう。
抜けてる物があっても困るしね。
同じ物を3通作って、城と父さんと私がそれぞれ保管しておく様にしよう。
後から思い付いた材料が出て来る可能性もあるしね。
「伯父さん、伯母さん、ナスカ、今夜にでも私が作った材料リストを見てもらえますか?この前私が作った作業手順書で自分の担当する料理の材料がちゃんと分量を間違えずに書かれているかどうか確認して欲しいんです」
「「分かったよ」」
「面倒くせぇ」
最後のはスティーブ伯父さんだ。
おい!料理長のくせにぃぃ。
「何言ってんだい。本来なら料理長の義兄さんがやらないといけない仕事なのに、姪っ子がやってくれてるんだから確認ぐらいはおやりよ」
マルタ伯母さぁぁぁん。マジ、嬉しい。
もっと言ったって!
「そうだな。確認くらいはしてもらわないと困るよ、兄さん」
はい、父さんからも業務命令発令されましたぁぁ。
「しょ、しょうがないなぁ~。俺は字が読めないから口頭で俺が使う物を言うので、アウレリアが自分のリストをチェックしろな」
あ、そう言う事ね。
父さんは字が読めるからうっかりしてたよ。
伯父さんに恥をかかせてしまって申し訳ない。
「はい。夜の営業の前に聞きに来ますね。最近、晩餐会の事で仕事の量が増えていて、伯父さんたちも疲れてると思うけど、よろしくお願いします」
軽く頭を下げると、スティーブ伯父さんは苦笑いをしながら頷いてくれた。
 




