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「リア、前に聞いた大公様からの宿題ってどうなってるんだ?」
フェリーペが真剣な顔をして聞くので、思わず私も真剣な顔で答えた。
「今は晩餐会の事で手いっぱいで、何も進めてないよ。中途半端に手を付けてもダメだなぁって」
「俺たちも手伝うぞ」
「え?」
「そうよ、私もお手伝いするよ」
勇者様も手伝うと言ってくれている。でもねぇ、今は本当に晩餐会の事しか考えられないんだよね。
でも、お礼はちゃんと言わないとだね。
「ありがとう」
「遠慮はするなよ。お前の友達が大きな宿題を抱えて困ってる時、お前はそれをただ見ているだけって出来るか?」
そう聞かれると、助けられるかどうか関係なく、役に立ちたいと思うし、手を差し伸べると思う。
そんな思いが顔に出ていたのだろう、「そうだろう?それは俺たちだって同じなんだぞ。宿屋だっけ?一人では思いつかない事でも、4人だったら思ってもみない案が出てくるかもしれないだろう?」って言われてしまった。
「ありがとう」
そう言うとメグが私の背中を優しくポンポンと叩いてくれた。
「リアが、例の晩餐会の事と、大公様の宿題の事、そして早い内から錬金術クラブの即売会の事を気にしていて、いっぱいいっぱいになってて、気分がなんか急かされてるなぁって気になってたの。私たちだとあまり役に立たないかもしれない。新しい案なんて出ないかもしれない。でも、相談したいなって思ったら、ここに3人も居るんだよ」
「ボブだって、錬金術とか道具のこととか、俺たちじゃまだ知らない事をいっぱい知ってるんだから使わない手はないぞ」
フェリーペにそう言われたボブも、にっこり笑って頷いている。
「ありがとう。私、本当に友達に恵まれた」と目じりに自然に浮かんでいた雫を拭ったら、「じゃあ、今日の午後にでも早速作戦会議するか?」とあややクラブでの活動をフェリーペが決めてしまった。
あややクラブでこの宿題の話しをしてしまうと、ザ・貴族様ズまで巻き込んでしまうのでちょっと・・・・と思っていたんだけど、「貴族が使う宿屋なら、貴族の発想や感想がいるんじゃないの?」というボブの一言で部室で話し合う事になった。
最初は4人で話して、ザ・お貴族様ズの誰かがそれに興味を持って話し掛けて来たら、打ち明けようと言う事になった。
つまりこちらからお願いするのではなく、彼らが興味を持ったらと言う事だ。
ただし、お城での晩餐会については部室でも一切話さない事を4人に約束してもらった。
こちらは事前に漏れてはいけない情報もあるだろうから、用心には用心を重ねないとね。
実はこれまでは授業中、例によって例の如く授業は聞かずに晩餐会の事や大公様の宿題を進めるべく作業していたのだ。
だって卒園までの授業は入園前に既にランミス先生から全部教わっているからね。
地球の小学校レベルの内容なので本当に簡単なのだ。
しっかり授業を聞くのは歴史の時間くらいかな。
後、2年生からはダンスの実習が増えるのだが、今までは貴族クラスのみだったのが、試験的に今年から平民クラスも参加する事になったらしい。
迷惑な話だ。
もちろん急遽今年から増えた教科なので、大公様の所での事前学習にはダンスの授業は入ってなかった。
お貴族様の生徒と一緒の授業なのかとか、どんな授業になるのか想像すらつかないよ。
晩餐会についてはメニューが決まっていて、今は仕入れ食材一覧と調理の手順を詰めているところだ。
それに行き詰ったら、高級ホテルの絵を描いている。まぁ、新しいホテルの絵ではなく、地球で知っていた高級ホテルを思い出して描いているのだけどね。
ガスペール先生には何度か絵を描いているのを見られているのだが、「はぁ~」という大きな溜息一つだけで後は何も言われない。
恐らくだけど、叱るのも面倒くさいんだろうね。
ましてや私常に学年一位をキープしているしね。
授業を聞いていなくても一位なら文句も言い辛いよね。
後は魔法の授業。
私の属性の授業が無いので、この時間はあややクラブの部室で作業する様になった。
あそこの作戦本部には紙や文房具が豊富にあるし、ちょっとお茶を飲みたいと思ったら自分のキッチンがあるしね、作業するには持って来いなんだよね。
そして今、冒頭の様に4人でワイワイ話しながらあややクラブの部室に着いた。
作戦会議室の机4つを迎え合わせに並べて小さな島を作る。
「さて、リア、さっき話した件だけど、大公様の宿題、実際にはどんな内容なの?みんなに説明してくれ」
フェリーペに促され、私はダンテスさんを通して得た候補地とその特徴などを皆に話した。
「で、この紙に書いてあるのが、既にリアがダンテスさんと話し合った内容なのね」
勇者様は箇条書きにされている内容を指で辿っていて、それに合わせて残りの2人も一緒に内容を確認している。
「これは、この前の土曜、大公様へ試食を持って行った時にサラっと話した内容なので、私自身もちゃんと練った内容ではないのよ。だから、大きく変える事もあると思ってる」
「いやぁお前、相変わらず発想がスゴイな。これ全部お前1人で考えたのか?」
驚いた顔のフェリーペに頷き返していたら、「でも、これ・・・・馬車置き場がないよ」とボブがポツンと感想を漏らした。
「「「あっ!」」」
そうだよね。旅となると移動だし、移動となるとその手段が問われるわけだ。
お貴族様なら当然自前の馬車だよね。
そうしたら馬車や馬を置いておく場所を作ったり、御者の寝泊まりする場所も必要だよね。
御者さんは馬の傍で寝泊まりしてもらった方が良いかもしれない。
馬の世話もあるしね。
「ねぇ、この前のゴンスンデの旅、馬車はどうしたんだっけ?」
4人でワイワイ言いながら、ああでもない、こうでもないと厩舎の話しで盛り上がっていると、闇王様が「さっきからお前ら何を相談してるの?」といつの間にか私たちの横に立っていた。




