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神父様が持って来てくれたのは聖典とランベルトという作家が書いた叙事詩だ。
正直、聖典は既に読んだ事があるので、叙事詩の方が気になる。
神父様は私の机の前に屈み、「この2冊を持って来たけど、読んだ事はあるかい?」と聞いて来た。
「聖典はありますが、こちらの叙事詩はまだです」
「じゃあ、これを読んでみるかい?」
「はい。お願いします」と、分厚い本を受け取った。
この本、第一巻と書いてあるので、もっと長い話の様だ。
地球のマハーバーラタくらい長かったらどうしようと思ったが、それはそれで読み応えがあるというものだ。
さっそくページを開いて読み始めた。
小さな教室に3つのグループがそれぞれの勉強をしていると、結構な騒音が発生する。
でも、私はそんな騒音が気にならないくらいこの叙事詩に没頭して行った。
既に全滅したと言われるピクル族の英雄の話の様で、英雄の前の代から話が始まっており、漸く英雄が生まれた所まで読み進めた時、「カンカンカン」と鐘が鳴った。
「今日はこれで終わりだよ。これから給食を配るから、今日の勉強でまだ質問がある人は、食べながら質問すること」と神父様が教壇に立って言うと、「「「ありがとうございました」」」と全ての生徒が挨拶した。
もちろん私も一緒にだ。
神父様は、年長組の子供二人を引き連れ、一旦教室を出た後、スープの入ってる大きめの鍋を持って戻って来た。
年長組の子供二人が、みんなの木製食器やパンなどを一緒に運んで来た。
別の年長の子が教壇に置かれた鍋からスープを器によそいだしたら、子供たちが教壇の前に一列に並んだ。
神父様は配膳には関わらない様で、黒板の横にある椅子に座ってみんなをニコニコと見つめていた。
借りた本を返すのに丁度よいと、私は一旦子供たちが作ってる列を離れて神父様の所まで行った。
「先生、こちらの本、ありがとうございました。まだ、ここまでしか読めていないので、次回、ここの続きからはじめても良いですか?」と本を渡すと、そこに栞を挟んでくれ、「もちろんだよ。で、ここまで読んでどんな感想を持ちましたか?」と聞かれた。
「英雄が漸く生まれた所までしか読めていませんが、英雄の1代前までの社会状況や当時の生活風景を知る事が出来て面白いと思いました。当時から生水は危ないとされ、既に湯冷ましやお酒しか飲めない様な衛生状態だと分かり、その原因を知りたいと思いました」なんて感想を述べると、神父様に心底驚かれた。
「社会状況とか生活風景と言った難しい単語もちゃんと理解し、使っている事にも驚きですが、衛生状態を悪くしていた原因を知りたいというのは読み書きだけでなく、世界の原理を知りたいという欲求です。あなたは探求者に向いているかもしれません。もう、鑑定の儀は済まされましたか?」
「はい。王都の大聖堂で見て頂きました。調理スキルでした」
「これ程学問の徒にふさわしいのに、スキルは調理ですか・・・・。でも、まぁ、スキルは持っていればその道で大成しやすくなるだけで、スキルとは違う道を選ぶ事もままありますから、頑張って勉強して下さい」と励まされたので頷いておいた。
「先生、今回は難しい単語がなかったのですが、次回、もし理解できない単語があったら書き出して、授業の最後に纏めて聞いてもいいですか?」と伯母が持たせてくれた木枠で囲まれた小さな石板を持ち上げて見せた。
「ああ、それは効率的なやり方だね。もちろんいいよ。だが、疑問がある都度、質問しても良いんだよ」と言われ、お礼を言って、給食の列についた。
パンとスープを貰うとランディが友達たちと一緒にいる所へ向かった。
「リア、みんなを紹介するから、ここに座って」とすかさずランディが顔つなぎをしてくれた。
ランディの友達だからといって、みんながランディと同じ年ではなく、私と同い年の女の子もいた。
男の子二人はランディと同い年で、パウロとアンディ、女の子の方は1人が私より1つ上のラーラ、もう一人は私と同い年のパメラという事だ。
馬車や徒歩で旅する人たちがたくさん来る村ではあるが、新たな住人が来るというのはそうそうないので、みんな私に質問したくて仕方がなかったみたいで、自己紹介が終ると同時に怒涛の質問タイムとなってしまった。
「ねぇねぇ、王都ってどんな感じなの?」
「先生に言ってた本って有名なの?」
「どうしてポンタ村に来たの?お父さんとお母さんは?」
わーって感じで私を取り巻いて、初対面から質問の嵐になった。
「おいおい、アウレリアが困ってるから一度に質問するなよ」とランディが予防線を張ってくれた。
それでもこれからの付き合いというものがあるじゃん。
だから、私は一つ一つの質問に答えていった。




