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この週末はなるべく時間を取って、晩餐会のメニューの試作を繰り返した。
伯父さんたちに練習で作ってもらう事も考えたけれど、大公様や城の料理長の同意を得てからでないとメニュー変更の可能性がある。
つまり、一旦覚えた調理法を忘れ、新しい調理手順を覚えるという二度手間三度手間になるのを避けたいのだ。
今出来る事は、大公様や料理長に直ぐにでもOKを出してもらえる様、今回考え出したメニューをより洗練させる事なので私は練習を重ねた。
もちろん、店の調理場でやるので、自然と作り方は伯父さん達の目に入るけどね。
それも計算の内だ。
何となくでも作り方が目に入っていれば、いざ作るとなるととっかかり易いからだ。
土曜の昼過ぎには大公様にも手紙を出し、来週の週末に父さんと一緒に試作品を持って行く事になった。
大公様からの返事を持参してくれたダンテスさんが、我が事の様に『フローリストガーデン 光』の栄達を喜んでくれたのが印象的だった。
「大公様のお見立てに間違いはございませんでしたね。このお店が国に認められるということは大公様の精鋭が活躍している事の証になり、ひいては大公様の名声が高まると言う事です。よくやりましたね、アウレリア様。後は、晩餐会の料理を成功させる事が大事です。この機会はお店の栄誉にもなりますが、失敗すれば取返しのつかない打撃にもなります。努々努力を怠らない様にして下さいね」と大公様からの手紙を父さんに渡し、大公様の屋敷に戻られた。
あ~あ、横でこの会話を聞いていた父さんが固まっちゃったよ。
それでなくても王城での晩餐会をウチの店でってのを身の程知らずの所業と思っているのに、失敗したら取返しが付かないなんて言われちゃったもんだから、今からもうカチカチになってるよ。
「父さん、失敗はしない。私のスキルは知ってるでしょ?食材がなくてもちゃんと料理は作れるから、何があってもお客様に美味しい料理が提供されるから、心配しないで」
「ああ、アウレリア。ありがとうな。この店にしてもお前のお陰で営業できているのだし、家族で心配なく暮らせているのもお前と大公様のお陰だ」
「そんなこと・・・・」
「だからこそ、この店を守るのは大人の私たちだと思っている。大丈夫だよ。慣れていないから緊張したり色々とあるけど、皆で協力してこの晩餐会を成功させような。お前1人で何もかもやらないといけない様な事にはしない。父さんや伯父さんたちもしっかり晩餐会に備える心算だから、皆で頑張ろうな」
「うん!」
週末は本当に何度も晩餐会の試作品作りを繰り返した。
そして普通だったら日曜の夜に寮に戻るところ、ぎりぎりまで試作を続けるため月曜の朝早くに寮に戻った。
「リア!!!」
勇者様が走ってくる。
ここは朝食で賑わう寮の食堂のいつもの席だ。
「もう、昨日の夜、戻って来なかったから心配したんだからっ」
「ごめんごめん。試作に夢中でメグに連絡を入れるのをうっかりしてた。心配を掛けてごめんね」
「本当だよ、もう」
今までもたまぁに日曜の夜に寮に戻らず、月曜の早朝って事もあったので、本来ならメグが心配する事はないんだけれど、ここの所私が大公様の宿題や晩餐会などで目に見えて落ち着きがない様子だったので心配だったらしい。
メグがどうしてこんなに心配しているのかが分からなかったんだけど、フェリーペが横から「最近のリアは何か焦っている様で、余裕がないので心配しているんだぞ」と説明してくれた。
自分でも焦燥感にさいなまされていて、それは3人が言う様に、やらなくちゃいけない事が多くて、それに押しつぶされそうになっているのだという自覚はあった。
中身が大人だけに、簡単にアイデアを出してくれればいいよと言われても、その案を実現するために、後からどんな手順を踏まないといけないとか、その手順を踏むにはどれくらい時間の猶予が必要なのかなんて色々考え頭でっかちになっているのも自覚している。
それを横で見ていた3人に心配を掛けてしまっていたのね。
これはちゃんと3人に謝らないとと思い、朝食の席で謝ると、「うん。珍しくお前に余裕が無いのは見て取れてたし、どうして余裕が無いのかも説明してくれてたから、皆心配はしてたけど、ある意味ホっとしてもいるんだ」なんて思ってみなかった事をツルンと発言するフェリーペにびっくりしてしまった。
「え?ホッとする?」
「うん。何でも卒なく熟すからな、お前。後、色んなことをポンポン思い付くし、イベントなんかもどうやって準備を進めればいいかなんていう大人でないと分からなさそうな事も涼しい顔をして着々と進めるヤツがさぁ、こんなにテンパっているんだぞ。俺たちとそんなに変わらないんだなっていう意味でホッとしたんだよ」とニパっと悪い笑いをそのイケメンな顔に浮かべた。
「うんうん、リアがテンパってるのって初めてみたから心配なんだけど、それはね、リアがちゃんとできるかどうかっていう心配じゃないの。ちゃんとやるだろうなぁっていうのは私たち全員疑ってないんだけど、リアの気持ちが大変だろうなぁって心配なの。だから、私たちちゃんとリアの役に立つつもりだから、助けが必要なら何時でも言ってね」と勇者様が私の手を握ってくれた。
すごく暖かい気持ちになってメグと手を繋ぎながら寮から教室に向かうというスタートを切ったこの週は、晩餐会を如何に成功させるかばかりを考える一週間となった。




