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「それでリアはその支度の為に、当日は家に帰りたいのね」
「うん。当日だけでなく準備も含めて数日前から帰宅したいんだよね。だけど、学園の方をお休みに出来たとして、私みたいな子供を城が受け入れてくれるかどうか・・・・」
そうなのだ。さっきから私の頭を悩ましているのはそろそろ7歳になる小さな子供をウチのスタッフとして城側が認めるかどうかなのだ。
「そんなの簡単じゃん」
フェリーペがきょとんとした顔をした。
「え?」
「それのどこが問題なんだ?」
「えええ?」
「だって、お前、大公様の精鋭だろう?大公様経由で申請して断られる事はないだろう?」
そうか!だからフェリーペにしてみたら、何で私がこんな事で悩むのか理解できず、きょとんとしていたのかぁ~。
こいつ、何気にすごいかも。
私では全然思い付きもしなかったよ。
ウチには大公様カードがあったんだぁ。
大公様には今学期最初に出された高級宿という宿題もあるので、直接大公様の要望を聞くためにも一度対面する必要があるかなぁ~って思ってたところなんだよね。
うん。うん。いいね。
こりゃぁ、大公様に是非お目通りしなくてはっ。
夜中にもう一度父さん宛に手紙を書いた。
城で調理する時は私も同行できる様に大公様へお願いするつもりである事を知らせるために。
恐らく私が城へ一緒に行けるとなると、父さんも少しは落ち着くかもしれないからね。
朝になったら直ぐにハウスボーイに持って行ってもらう様に頼みましょうかね。
父さんから最初の手紙が来た次の日、4人揃って学食のいつものテーブルで食べている時、ハウスボーイが父さんからの新しい手紙を持って来てくれた。
少し安心した事、メニューは一旦私に任せてくれる事、大公様へお願いする際は父さんも同行する事等が書かれていた。
私もちょっと安心した。
そして小さな声で手紙の内容を掻い摘んで話すと、「これで一安心だな。後は、メニューについて考えるくらいだろうけど、それは大人に任せておけばいいしな」と安心した顔のフェリーペがスープでなみなみのスプーンを口へ運んだ。
そうだった。
3人には私のスキルの事も前世や前々世の事も伝えてないから、ウチの店の料理を考え出しているのが私だって知らないんだよね。
あややクラブで毎日おやつを作っているので、料理が得意で大人と同じくらい役に立つとは思ってくれているだろうけどね。
普通、王宮の晩餐会なんて大人が中心に進める事だよね。
3人は友達だし信頼はしている。
はっきり言ってランディやフェリシアの様にポンタ村の親戚以外だと、初めて私から友達だと思えたのがこの3人だ。
何か相談するとしたらこの3人だし、一緒に何かしたいと思うのもこの3人。
だけど、私の特異な事情について打ち明けるのは大人だった前世の私の感覚ではまだ早いと感じるのも事実だ。
大公様も学園の人には自分からスキルを打ち明けない様にと釘を刺されているしね。
私も王宮へ料理を作りに行くという話は普通なら突飛だと感じるだろうに、3人はすんなり受け止めている。
曲がりなりにもある程度の実績があるからなんだろうなぁ。
例えば、毎日のおやつ作りで見せている私の調理の素早さや丁寧さとか、後、ウチの店を作ったのが大公様と私だとか。
だとしても皆はウチの店の殆どの部分は大公様側の人材が主になって作ったと思っているだろなぁ。
「リアは、お料理すんごく上手だから、お手伝いしてもらえたらお店も助かるよね」
ボブやフェリーペもウンウンと頷いている。
「うん。ありがとう。とりあえずこの週末に父さんといっぱい打合せして、大公様にも色々お願いしてみる」
そう言うと、この話は終わりという感じになり、4人の肩から力が抜けた。
さて、午後の授業の時間にメニューを考えてみるかぁ。
金曜の夕方まで1日半しかないし、一旦父さんたちにメニューのひな型を提示しないと、また来週私が寮に居る一週間、色々と悩ませてしまうかもだしね。
機材は王宮のモノを使うのなら、薄切り肉とかは使えないっと・・・・。
生クリームの泡立てくらいなら人力でも出来るしいいかぁ。
オーブンはあるよね?
あ、でも、温度調節が難しいかも。温度計内蔵されてないだろうし・・・・。
なら、火加減がシビアではないオーブン料理が良いかな?
肉料理を44名に一辺に出すとなると、フライパンよりもオーブンだよね。
いくら城の台所が広いと言っても、フライパンを何十枚も一辺に火に掛ける事は出来ないだろうし、もし出来たとしても火加減を見る人手が相当数必要になるだろうしね。
ん?ローストビーフなら冷めててもいいのかぁ。
良く薄切りにして薔薇の花みたいにしてるのを見るけど、あれでいいんじゃないのかな?
ローストビーフならそんなに薄切りでなくてもいいんだし・・・・。
薔薇の花ならスモークサーモンでも良く作るよね。
色の違う薔薇の花・・・・。
あ、これいいかも。
よしっ!ローストビーフの茶に近い赤、スモークサーモンのオレンジ色、そして薄焼き卵の黄色の薔薇に、さやいんげんなんかの緑の野菜を使って葉っぱにしよう。
バルサミコ酢ソースでお皿に模様を描いて出せば、超高級なお皿に見える?
いいかも!
何よりサーモン以外はすぐ手に入る食材だしね。
あ、バルサミコ酢はないけど、まずはこの世界にバルサミコに近い酢があるかどうかを調べないとね。
これでオードブルはOKでしょ?
なら、次はサラダだよね。
トマトのカプレーゼなんてどうかな?
簡単なのに見栄えは良いものね。
もちろん、味もいいよ。
その後はスープだけど、ポタージュでいいね。
そしたらメインはオーブンを使った肉だね。
ブロック肉をオーブンで焼いて、ソースを掛ければいいかな。
あっ、ただ焼いたブロック肉を切り分けるより、前世のヨーロッパで食べた事のあるメダリオンステーキにした方が見栄えもするよね。
ブロック肉を分厚く切り分け、ベーコンで巻いちゃう料理なんだけど、ベーコンなら伯父さんたちがウチの店の裏手で燻製品の一つとして定期的に作ってるから問題ないしね。
付け合わせの野菜をお洒落にすれば上等そうに見えると思うし・・・・。
デザートはケーキにしちゃうと魔道泡だて器が必要になっちゃうから城では無理かもしれないので、特別な器具を使わないで簡単にできる見栄えの良い物がいいよね。
チーズケーキなら泡立てる事も少ないし、付け合わせの生クリームくらいかな?大変そうなのは。
ゼリー系もいいかも。
あ、でも秋だから冷たいデザートはちょっとダメかな?
アップルパイみたいなパイに付け合わせのフルーツと生クリームとか?
そうだ!チーズケーキを焼いて、ハートとか花形、丸型とかの型抜きを作って、それで型抜きをして、横に生クリームと薄く切ったフルーツで飾り付けたらお洒落かな?
これは、型抜きをしても崩れないかこの週末に一度実際にやってみて確認しないとだね。




