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金縁の綺麗な白い封筒。
一口に白と言ってもこの封筒の白は輝くばかりの白で、こちらで貴族が使っている様な少し黄ばんだ様な白ではない。
紙の手触りも日本のPPC用紙の様につるっつるだ。
そして既に開封されているのだが、ウチの店に届いた時には封をしていただろう赤い蝋が残っている。
そのシーリングワックスのど真ん中にはグリフォンと王冠の図柄が入っている。
何を隠そう王家からの手紙だ。
今日の夕方、いつもの4人で寮での夕食を摂っていたら、ハウスボーイが急ぎだと言って私に手紙を持って来た。
後2日間で週末なのに、待てない用事の様だ。
「どうしたんだ?週末まで待てないって、相当な事だと思うぞ。開けてみたら?」
フェリーペにそう促されなくても、直ぐに中身を読むつもりだ。
問題はここで読むか、それとも私室で読むかだ。
「リア、お部屋で読んだ方が落ち着くと思うよ。お食事は、後で私が部屋へ持って行ってあげるから、先にお部屋へ行ったら?」
流石、メグたん、心遣いがありがたいっす。
「うん、メグ、ありがとう。そうする。よろしくね」
メグはすぐさま頷いた。
「何があっても俺たちに相談しろよ。1人で悩むなよ」
フェリーペは手紙の中身を知りたくて、好奇心からここで読めと言っていたのだと思ってたけど、どうやら私を心配して、みんながいるここで読めと言ったんだと分かった。
「うん、分かった。そうする。ありがとう」
みんなの返事を待たず、取り敢えず部屋へ駆け上がった。
父さんからの手紙を開けると、もう一つ手紙が入っていた。
冒頭の金縁の手紙だ。
恐る恐る中を開けるとフローリストガーデン光の支配人として父さんの名前が書いてあった。
来る11月半ばにマンモ大陸で一番大きな国、隣国のサマリー帝国宰相一行がオルダル国を訪問され、11月27日夜18:00よりの歓迎夕食会を開催する。それに際し、王城で食事の用意する様に申し付けてあった。
詳細は以下の通りだ。
・晩餐会に出席するのは王族一家を含む総勢44名
・会食の形式は着席式
・メニューについては食材リスト提出前に宮廷料理長に要相談
※宮廷料理長がフローリストガーデン 光から提出されたメニューに異論を唱える場合は、その理由を明示のこと。
※宮廷料理長からの変更要請は一つの皿に付き3回まで。それでも両者同意に至らなかった場合は、我が国の宰相の指示に従うこと。
・食材は城側が用意する。少なくとも晩餐会の1週間前には食材リストを提出
・食材に関する支払いも全て城側が担当
・フローリストガーデン 光のスタッフは最大10名まで登城可
※事前にスタッフリスト提出のこと。
・フローリストガーデン 光への対価は金貨15枚
これは相当高い金額だ。
・給仕は城の人員で行うが、サーブのタイミング・方法についてはフローリストガーデン 光が指示出し可
・市販されていない調味料や食前酒の材料は例外的にフローリストガーデン 光からの持ち込み可
※但し、前日に全て城に持ち込み、城側担当者が毒見等を行った後、城の一室に城側が保管
※これに係る料金は両者の話し合いの元、市場を参考に適正と思われる価格とする
・その他、必要があれば都度関係者内にて話し合いで決定
・城側各担当者は事前打合せにて紹介。事前打合せは11月1日予定。
なんて事がツラツラ書いてあったのだ。
ははははぁぁぁぁぁぁ~。
これ、どうするよ?
私も準備とか料理、手伝わないとだめだよね?
父さんたちだけだと無理だよね?
手紙を読んですぐ私は父さんに返事を書いて、寮の食堂のある1階へ降り、ハウスボーイに普通よりも少し多めのお金と手紙を渡して今夜中に父さんに届けてもらう手続きをした。
夜遅いので気を付けて行って来てねと送り出し、その足で未だ食堂に残っていた3人の所へ戻った。
「リア、どうだった?」
メグが心配そうに聞いてくれた。
私の途中までだった夕食はトレイに乗せられ布の覆いがされたまま、みんなのテーブルの上に乗せてあった。
メグが上に持って来てくれる前に、私が食堂に戻った形だ。
「うん。人の生き死に関る事ではなかったよ。ウチの店の事だった」
そう言うと、ボブがものすごく気にし出した。
「お店って、どうしたの?」
心配してくれるのはありがたいが、例の手紙の中身についてはこんな誰でも聞けてしまう場所で言う事は出来ない。
とりあえず夕食を急いで口にしながら、「うん、ここで話すのはちょっと・・・・。急いで食べるから、談話室の方へ行こう」と言うと、3人共心配そうな顔のまま同意してくれた。
夜20:00以降に寮から出るには事前に寮長への申請が必要になる。
そして、寮の食堂脇にある数少ない談話室の使用も同じで申請が必要だ。
一瞬外出許可を取り、あややクラブの部室へ行く事も考えたけれど、4人一緒に申請しても全員に許可が出るかどうか不安だった事もあり、談話室の方にしたのだ。
寮長は私に急ぎの手紙があったことを耳にしていたらしく、談話室の使用許可はすんなり下りた。
私達4人はスパイ映画か何かの様に小さな声で話すため、小さな談話室の真ん真ん中に身を寄せて小声で話した。
「「「ええええ!!すごい!」」」
「流石、フローリストガーデンだ」
「しぃ―!!」
「「「あっ」」」
そんなやり取りをしながら、手紙の内容を説明した。




