4
「教室の入口で呼ばれてるぞ」
挨拶しかしたことのないクラスメートが入口を指さした。
「ありがとう」
そこへ行ってみるとボブがいた。
「ボブ、どうしたの?」
「あ、僕が呼んだんじゃないんだ。こちらの人に呼び止められて、君を呼び出す様に言われたんだけど、どういう知り合いか分からなくて・・・・。そんな時にパリスが横を通ったからリアを呼んでもらったんだ」
さっきの男子はパリスって名前なんだね。顔は知ってても名前までは憶えてなかった。
そしてボブが警戒しているのは、あややクラブに入りたいだけの全然知らない人に呼び出される事なんだと思う。
パリスを呼びにやる事で自分はその場に残り、私がその人と話す時に傍に居てくれようとしたんだよね?
気を遣ってくれてありがとう~。
無口でちょっとオタクが入ってるけど、要所要所ですごく守ってくれるんだよね。
ボブの背後から背の低い、長い赤毛の女の子が飛び出した。
「あなたがアウレリアね。私はファティマ・モンテベルデよ」
緑の勝気なアーモンド型の目がじっとこちらを見つめて来る。
モンテベルデ伯爵家に住んでた時は、使用人の幼い子供が主人家族と面と向かって言葉を交わす事なんてなかったからね、遠目でしか見掛けた事はなかったけど見覚えがあった子だと思い出した。
「はい。アウレリアです」
「あややクラブに入部するので、あなた手続きなさい」
うっわぁ~。超上から目線だね。
正直言って関り合いたくない・・・・。
「申し訳ございません。あややクラブへの入部は部長の許可がないと無理でして・・・・、現在の所、部長の意向で女子部員希望者は一律お断りさせて頂いております」
軽く頭を下げ、申し訳なさを装って話を切り上げようとしたのだけれど、ファティマ様は結構我を張るタイプみたいで、その顔つきを見るにとても引き下がる事はなさそう。
一度も話した事なかったから、同じ館に住んでいた事があっても、どんな性格かまでは知らなかったよ。
「あなた、家で世話になってたわよね。それに対して恩義は感じていないの?」
「え?恩義を感じているのでヘルマン様の入部を橋渡しさせて頂いたのですが・・・・」
「それはそれ、これはこれよ」
ん?それで既に十分に恩を返したと思うけど?
「ヘルマンが入部できたのはモンテベルデ家としては良い事でしょう。でも、なら何故私が入部できないとおっしゃるの?」
「あの~。先程もご説明した通り、部長が新入部員を受け入れるかどうか決められます。そして既に、女子生徒は今後入部させないと公言されていらっしゃいますので、女性であるファティマ様の入部の手続きは出来かねるという訳です」
「まぁ。私はモンテベルデ家の娘なのよ。そんじょそこらの貴族ではないのよ。モ・ン・テ・べ・ル・デ家なのよ。あなた分かっているのっ」
ファティマ様の怒りは収まらない様で同じ要求を繰り返すから、こちらも同じ説明を何度も繰り返すしかない。不毛だ。
早く授業が始まってくれ~と祈りつつ、引きつった笑顔を顔に貼り付ける。
授業が始まれば、ファティマ様もご自分の教室に戻らないといけないからね。
心の中でだけだが、はっきり言おう。
モンテベルデ家は伯爵家で確かに上位貴族の中には入るが、クリサンテーモに所属する程の家ではない。
それに加えて、ファティマ様は所謂妾腹。
しかも魔法スキルをお持ちでない。
こんな大きな瑕疵を二つも抱えているのに、それでどうしてこんなに居丈高なんだろう?
お願い事のために、態々上級生の教室まで押しかけて来てるんだよね?
なのに、ノッケからこの居丈高さ。ある意味スゴイわぁ~。
「あなたの両親は、家に雇ってもらっていたから生活が出来ていたのよ。元主家である私をいい加減に扱って良い訳はないわ」
確かに伝手も無いのにモンテベルデ家が父さんを雇ってくれたので、母さんも王都に出て来る事ができたし、私も生まれて来る事が出来た。
感謝はしている。
でも闇王様がこんな押しかけ女子をあややクラブに入れるとは考えられない。
それにこんなキツイ性格の子が入って来たら、今より発言や行動に気を付けなくてはいけなくなるし、良い事は無くて悪い事尽くめなんだよね。
「大体、クラッツオ家のご長男様が言うなら分かるけど、あなたの様な下々の者が、上位貴族の意見を聞くことも無く、独断で判断して返事をして良いと思っているの?」
うわぁ、めっちゃ面倒臭い、この子。
「分かりました。今一度、アドルフォ様にお伺いを立てます。が、入部を許可されなかった場合は、これ以上、私を通しての入部申請はご遠慮下さいね」
「・・・・」
「よろしいでしょうか?」
「・・・・分かったわ。早く聞いて来てちょうだい」
いやぁ、今から3時限目で、私も授業に出ないといけないけど、闇王様だって授業があるんだからね。
自分だってこれから3時限目があるんじゃないの?
「今はすぐに授業が始まりますので、本日の午後、クラブの時間に聞いておきます」
この答えに満足していない様だったが、さっさと頭を軽く下げ挨拶をし、教室の中へ引っ込んだ。
ヘルマン様は気遣いのできる人だった。
魔法スキルを持っていないし、貴族としては大きな瑕疵を抱えているという事も、彼が周りに合わせる柔軟な性格を形成した一つの要因なのかもしれない。
このままだと貴族位を保てないっていうのも本人が一番良く理解しているはずだしね。
世間の荒波に既に揉まれちゃってたのかも?
それなのにファティマ様は頑なな性格みたい。
自分の瑕疵をコンプレックスとして強く持っているみたいだ。
何かっちゃぁ、貴族である事を大上段に掲げていたしね。
「リアも大変だね。あんな子はクラブに入って欲しくないな」と、ボブも彼女の入部には反対の様で、ファティマ様が帰った後、ポツリと言ってた。
まずは、闇王様に確認しないとだね。
 




