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「おーーっと!着水しました。チーム風。最後の出場者ですが、ゴールのブイに可成り近づきましたね」
「そうですね。これは長く遠くまで飛べば良いという競技ではなく、如何にゴールのブイの近くまで飛ぶかを争う競技なので、加減が難しいと思います」
ヘルマン様が美味しいリアクションをしてくれたので、すかさず会話を繋いだ。
「そうですね。あ、今、救命ボートがチーム風のパイロット、ベラドンナさんの所へ到達しました。この救命ボートはゴールブイから動いていますので、ゴールまでの距離も測ってるんですよ」
「そうだったんですか」
「あーー!記録が出たみたいですね」
「ゴールまで何グロだったんでしょうか?目測ではこのチーム風が一番ゴールに近かった様に見えますが、実の所どうなんでしょうねぇ」と二人の掛け合いは続く。
湖の上では救命ボートがベラドンナさんを引き上げ終っており、今は機体を引き上げようとしていた。
こういう後処理的な時は、MCで場を繋ぐ必要があるので、ヘルマン様がこういうノリで会話をしてくれるのは本当に助かる。
「フント先生、このチームの機体はその長い羽が特徴だと思いますが、やはりこの羽だからこそあんなに長い距離を飛べたのでしょうか?」
「そうですね。昔から風魔法を操る者の中には自由に空を飛ぶ事に憧れた人たちが多くいました。まぁ、まっだ実現には至ってないんですけどね。その人達の研究によれば、浮く力と言うのがあって、羽の大きさによって力が変わると言われています。一方、羽の形によっては前に進むための力が余計に必要になるとも言われています。風魔法で前に進めるのではなく、浮かせるとなると、この様に細長い羽が良いのではないかという仮説を唱えた者もいました。まだ誰もそれを証明した人はいないので、私も安易に解説できないんですけどね。後、このチームは水面近くを長く飛んでいたのも特徴的でしたね。一度着水しかけた時、パイロットのベラドンナ君が落ち着いて風魔法を詠唱できたのも大きな理由だと思います」
「先生、風魔法をチーム風はどの様に使ったのでしょうか?」
「最初は、機体の後ろから風を当て推進力として使っていましたが、着水の危険があった時は、機体の下側から羽とコックピットに風を当ててましたね。風を下から当てるのは、下手をすると機体そのものが傾いてしまう危険もあったわけですが、ベラドンナ君はあの長い羽の数か所とコックピットの真下の5箇所に同じ強さの風を発生させていました」
乗馬クラブが急いで運んでくれたチーム風の着水スレスレ飛行の画像がスクリーンに映し出された。
観客はスクリーンを見て歓声を上げている。
スクリーンの映像はタイムラグがあるものの、乗馬クラブのお陰で比較的素早く投影機まで届けられる。
大体次のグループが飛ぶ前までには何とか投影できているので、馬も騎手もどれほど頑張ってくれているか分かるというモノだ。
ちなみに投影機にはスイカズラ錬金術工房の見習いの子がやっすい値段でアルバイトとして操作してくれている。ありがたや~。
「フント先生、風魔法の先生には魔法で作り出した風の強さまで見えるんですか?」
私が心底驚いて質問すると、にやりと笑ったフント先生は「いえ、風そのものは皆さんと一緒で、目には見えていないのですが、機体が傾かなかったのを見ていますし、魔法の発動の数は魔力感知で感じる事ができたので先ほどの解説となりました」
「先生、私は先生こそスゴイと思いますっ!!」とガチの尊敬の眼差しを向けると、とたんに照れた様に頭を掻いている。
「このチーム風は先ほどもご紹介した通り、魔術クラブのベラドンナさん、錬金術のタチアナさん、そして美術クラブのデラミスさんでできている所謂ハーレムチームですね」
「はははは。面白い事を言いますね。男子1人に女子2人だからですか?」とすかさずヘルマン様の合いの手が入った。
「ふふふふ。そうです。デラミスさんからは是非、ハーレムチームと紹介してくれと言われておりましたので、この機会にお伝えしました」
私がそう言うと、観客席の男子生徒の多くからブーイングが起きた。
「記録は1.2グロです。今回、ゴールまで一番近くまで飛べた鳥人はチーム風です。おめでとうございます」
こうアナウンスするとデラミス先輩のインタビューとなり、ハーレム、ハーレムと同じ言葉を連呼するデラミス先輩に会場から盛大なブーイングが巻き起こった。
インタビュー後は、事前の手配通りに音楽クラブが曲を奏で始めた。
選曲は音楽クラブに任せているが、曲を流して欲しい長さはウチのクラブで指定させてもらっている。
15分間。この間に表彰式の準備を進めつつ、選手たちにスタート台に上がってもらうのだが、台への負荷が怖いので、各チーム最大2人までにしてもらっている。
闇王様がスタート台の上に置かれた台の上に立った。
彼の後ろには参加12チームの代表が並んでいる。
実は1人で参加したチームは一つもないので、12チーム全部が最大2名の代表を送って来た。
「今一度、参加チームを振り返りたいと思います」これは私の声だ。
そのままチーム名と仮装のテーマと飛行の合否を簡単に述べて行く。
それに従って、スクリーンに再度チーム紹介画像が映し出された。
「さぁ、以上が参加15チームです。それでは優勝チームの発表をあややクラブ部長のアドルフォ・クラッツオさんから発表頂きます」
「第一回鳥人コンテスト 飛行部門の優勝チームはチーム風、ゴールとの差異、1.2グロぉぉ。おめでとう!」
闇王様の横に立っていたアドリエンヌ様がまずは賞状を闇王に渡し、闇王からデラミス先輩へ、その後またアドリエンヌ様からガラスの優勝トロフィーが闇王に渡され、更にはベラドンナ先輩に渡された。
ベラドンナ先輩が観客席に向かって高くトロフィーを掲げると、大きな拍手と歓声が起こった。
「続いて第一回鳥人コンテスト 仮装部門の優勝はっ」と闇王様がそこで止めると、観客までもが固唾を飲んで次の言葉を待った。
「チームエンジェルス!」
闇王様が優勝チームを発表すると観客席からドッと歓声が上がった。
このチームエンジェルスは女子生徒3人に男子生徒1名で構成されたチームで、最初っから飛ぶ事は視野に入れず仮装を狙ってエントリーしたチームだった。
女子生徒は可愛い天使の仮装を、チームの中で一番背が低い可成り太めの男子生徒は1人悪魔の様相で、片手にはこの世界でこれを食べると太りやすいと言われている油でテカテカしている肉料理の模型を持っている。
スタート台の上では、彼が手にした三つ叉と肉料理の模型でコミカルな仕草をしつつ天使3人を追いかけまわし、大きな蝙蝠の羽の様なグライダーに括り付けられた悪魔が飛ぶ事が出来ずにすぐ下の湖に落っこちるという寸劇を見せてくれたのだ。
このチームの仮装は観客席に最もウケたのだ。
実は採点数ではオスカル先輩のチーム羽も良いところまで行ったのだが、オスカル先輩の仮装がトイレの汲取り屋さんだったので男子生徒や一般の観客にはウケたのだけれど、オスカル様を仮装の優勝者にしてしまうと、女生徒たちが暴徒と化す恐れがあったのだ。
チームエンジェルスにも闇王様から賞状とトロフィーが渡された。
大スクリーンに、飛行部門のチーム風のトロフィーを掲げている画像と、チームエンジェルスのスタート台での追いかけっこの場面や、他のチームの決定的な場面等、どんどん映し出されている。
「みなさま。本日はご来場いただきありがとうございます。これをもって第一回鳥人コンテストを終了致します。お出口が混雑致しますので、ごゆるりとご退場下さい。尚、出店は今暫く開店しておりますので、お買い物もお楽しみください。本日はありがとうございました」という私のアナウンスを待って、音楽クラブが『帳の曲』を奏でイベントは終了した。
会場の設営をほどいたり、掃除したりは明日する事になっているので、関係者に挨拶した後は、私たちあややクラブも闇王さまの馬車に乗って一旦学園へ戻った。