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料理魔法なんて魔法あったんだぁ  作者: 花明かり
天色の章 <前半>
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 実は、この出店の中にはナスカを通して話を進めた孤児院の子たちに任せた店も1軒ある。

 出している料理はこの世界初のホットドックだけど、目を引いているのは料理だけでなく、子供たちの仮装だ。

 王都の近衛兵の制服に似せた衣装を着ているのだ。

 

 大人が近衛の制服を着ると問題だろうが、小さな子が着ている分には仮装だと分かるので大丈夫だろう。

 最初はこちらの世界の御伽噺をテーマにした仮装を考えたんだけど、火を使う屋台なので、いらないモノがヒラヒラ付いていると事故の元だ。

 だから、体にピッタリしつつ、王都に住む人には一目で仮装だと分かる衣装ということで近衛の制服なのだ。


 大きな飾りのついた帽子は客寄せの本当に小さな子だけで、ソーセージを温めるなど調理をする少し年上の子は帽子は無く制服のみだ。

 他の出店の主人たちは自分たちも仮装するという考えに及ばなかったみたいで、ウチの店だけ目立っている。


「あ、お嬢しゃま!」

 私を見て孤児院の子たちが集まって来た。

「「「「イェーイ!」」」」

 事前に教えていた今日だけの挨拶をみんなですると、周りの人たちが微笑まし気にこちらを見ていた。


「どんな感じ?」

「面ちろい程売れてるよ~」と一番小さなモンチャが嬉しそうに報告してくれる。

「そっかぁ。良かったね。じゃあ、私たちも8個くれる?」

「は~い」と小さなモンチャが料理を作ってるモナミに7個と言っている。

 慌てて8個だよと伝え、事なきを得た。

 小さい子のすることなので、もしかして他のお客の時もこんな単純なミスをしているのだろうか?


 モナミやハミラは私が孤児院での奉仕活動の時によく一緒に料理をする子たちだ。

 モナミが火を使う所を担当し、彼女より少し年下のハミラがパンに具材を挟んでいる。

「お嬢様、頑張ってますよ~」とにっこり笑って挨拶してくれる。

「忙しいと思うけど、頑張って下さいね。ただ、疲れて来たらちゃんと休んで下さいね」

「「「はいっ」」」

 モンチャの手に8個分の料金を乗せると、彼女の顔が更にニッコリになって、モナミの方に「売れたよ~」と駆けて行った。

 材料費と出店料などの経費を差し引いた今回の儲けは全部孤児院へ寄付する事になっているので、みんなもやる気がマックスだ。


 私とモンチャたちとのやり取りを見ていたフェリーペが、「お前、孤児院の子たちと知り合いなのか?」と聞いて来た。

「うん。時々、週末に奉仕活動に行っているの」

「お前が?」

「うん。私と伯父さんや従兄たちと、ウチで働いている孤児院出身のスタッフとかで行っているの」

「すごいなぁ。フローリストガーデン 光。ちゃんと奉仕もやっているのかぁ・・・・」

「僕ん家も今まで奉仕活動とかした事ないけど、今度やってみようかな」

 無口なボブがポツリと言ったので、「うんうん。喜ぶと思うよ。掃除だけでも手伝うと喜んでくれるし、ボブん家なら、ちょっと壊れているモノの修理とかでも喜んでくれると思うよ~」と言うと、「そうか・・・・」と何か考えている様だ。


「俺ん所も何かしてみるよ」

「うんうん。できらたら一回きりじゃなくて半年に一回でいいから、継続して奉仕するととても喜ばれるよ~」

「私も今度リアが行く時、一緒に行っていい?」とメグも奉仕してくれるみたいだ。

「うんうん」と返事しながらも、他の出店で串焼きや、フレッシュジュースなどを買い込んで、あややクラブの面々が座って居るイベント本部に戻ると残りのメンバーが既に座って居た。


「「「「イェーイ!」」」」

 みんなで今日だけの挨拶をすると、横の方に固まって昼ご飯を食べていた午後からの参加者の目が集まった。


 イベント本部のテーブルの上には、これでもかと闇王様の使用人たちが買い込んで来た出店の料理が並んでいたので、私たちが買って来たものがちゃんとテーブルに乗るかなと心配になったが、なんとか全部乗せることができた。

 この昼食会は出店で何を売っているのか肌感覚で掴んで、今後の参考にするためもあり大事な仕事なのだ。

 と言うことにしておこう。

 みんな好き勝手に手を伸ばして、もりもりと食べて行った。 


「お前、アナウンスも結構やるな」なんて闇王様が真顔で言うから、食べ物を喉に詰まらせるところだったよ。照れるジャマイカ。

 全員が原始人の仮装をしている一団を、昼からの参加者たちがじぃっと見ているのだが、闇王様たちセレブリティは気にならない様だ。

 普段から人の耳目を集めているって証拠だね。

 食べ終わると再び「「「「イェーイ!」」」」と掛け声をして、それぞれの担当の場所へ移動していった。


「「「ギャー――!!!」」」

「嘘ぉ。なんで・・・・」

「「「「いやぁぁぁぁ」」」」

 観客席の方から女生徒の大きな声が届くが、いつものキャアキャアと言ったハートが飛び交っている声ではなく、会場全体を暗く落ち込んだ雰囲気にする様な叫びだ。


 昼一のグループはオスカル先輩のグループで、オスカル先輩は汚れた木の柄杓を右手に持ち、頭には汚い布で頬かむりし、何で着色したのか分からないけど顔も染みだらけ、髪もドロドロにしているのだ。

 服も茶色いシミがたくさん付いている。

 そう、汲み取り業者の仮装をしているのだ。

 恐らく柄杓は普通の柄杓に色を付けただけだと思うけど、見るからに臭って来そうな仮装なのだ。


 普段、何を着ていても王子様然としているオスカル先輩が、見るも無残な仮装をしている。

 観客席や午後飛ぶ予定の他のグループの女子たちがこの世の終わりと言ったリアクションをしていて、そんな女生徒たちを冷ややかに横目で見ている男子生徒たちは黙ったままだ。つまり、カオス。


 オスカル先輩はそんな外野の有り様を無視し、スミス先輩が離陸するための準備を淡々と進めている。

 グループ紹介の画像も、オスカル先輩の要望でかなりはっきり汚した顔が映る様に撮ったので、それを見て更に女生徒たちが嘆いている。


 飛行の記録はこれまでの記録で1番なのだが、何とも盛り上がりに欠けたまま、オスカル先輩はスタート台を離れ、アナウンス席まで来てくれた。

 うん、ひしゃくは本物ではなかった。

 臭い問題は発生せず。


 でも、インタビューもオスカル先輩の意思で、如何に汲取り業者になりきるかに話題が固定しているため、他の話題に逃れる事が出来ず、会場から女生徒の嘆きの叫びが止まる事はなかった。

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