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その後も同じ手順で3組のチームが飛行した。
殆どのチームがあまり飛べない中、午前中最後の順番であった4年生男子だけで組んだ1チームがかなり飛んだ。
このチームはドッジボール大会でも活躍していた男子チームで組んでいる様だ。
何となく顔に見覚えがある。
貴族の扮装をした4名と道化の恰好をした1名での参加だ。
しかも、貴族に扮している内の2名は、コミカルな感じの女装までしている。
胸元が大きく開いて、袖がスケスケレースのセクシー系のビクトリア朝のドレスなのに、体の線がゴツすぎて、どう見ても男にしか見えない。
観客席も沸きに沸いている。
「いいぞーー!美人だぁぁ。俺と付き合ってくれーー」
誰かのヤジに会場が笑う。
ドッジボールではゼッケン5番を付けていた生徒が、道化の恰好のままスタート台を蹴った。
「飛んでます!飛んでます!今までで一番飛行時間、そして飛行距離も稼いでいます。あ、段々と高度が下がって来ましたね。フント先生、そろそろ着水でしょうか?」
「いえいえ、パイロットのヘント君は優秀な風魔法の使い手なので、ここから更に魔法を使って飛距離を稼いでくれるのではないかと期待しているんですよ」
「おおお!風魔法の先生から優秀な風魔法の使い手と言われ、ヘント君はとても嬉しいのではないでしょうか。あ、こちらのアナウンスがヘント君の耳にも届いているんでしょうか。片手を挙げて振っていますね」
「あはははは。あれは聞こえていますね」
と、ヘルマン様がオペラグラス片手に解説してくれた。
「ああああ!機体が大きく傾いてしまいましたっ。ああああああ!着水しちゃいましたね。これは、片手を挙げてしまった事が原因でしょうか?」
「そうですね。僕がいらない事を言ってしまった為に、ヘント君が片手を挙げてしまったのなら申し訳ない」
「いやいや先生。それも含めての機体の操作力なので、気にしないで良いと思います」とヘルマン様がナイスフォローしてくれる。
彼は大人な部分があるので、こういう卒のないやり取りをタイミング良くしてくれるので、解説席にいてくれるのがありがたい。
解説席にチームリーダーが駆けつけてくれた。
「お疲れ様です。おめでとうございます。可成り飛びましたね」
「ありがとうございます。あそこまで飛べるとは思ってもみませんでした」
「最後、片手を挙げてしまったために、微妙に姿勢が崩れてしまったんでしょうかね」
「いやぁ、ヘントの奴はお調子者なんで、こんなことになるのではないかと危惧していました。あはははは」
「このチームはドッジボール大会でもチームを組んでいらっしゃいましたよね?」
「そうなんです。あの大会では優勝したので、この鳥人コンテストでも優勝を狙って行きますっ」
「頼もしいですね~」
「僕等はこのイベントの後すぐに卒園なんですが、学園最後の今年、こんなに楽しいイベントを開催してくれたあややクラブには感謝です。良い思い出が出来ましたっ!来年以降もドッジボール大会も鳥人コンテストも続けてもらって、後輩たちも学園で良い思い出を作ってもらいたいです」
「ありがとうございますっ」
学園外部の人には何の事か分からなかっただろうが、何か別のイベントが鳥人コンテストの前にもあった事くらいは今の会話で分かっただろう。
さて、これで午前の部が終ったので、ランチタイムへ向けて一旦〆なくっちゃ。
「みなさんこれで午前の部が終了致しました。ランチ直前に見ごたえのある飛行でしたねぇ~」
「そうですね」と、ヘルマン様のナイス合いの手!
「さて、午後の部は1時間半後に開始致します。イベント敷地内にたくさんの出店がございます。勿論持ち込みもOKですが、温かい出店の料理もご堪能下さい。1点、注意事項がございます。昼食の為でも一旦敷地から出ると、再度中に入る場合には入場料が必要になります。それでは美しい湖の景色をご覧頂きながら、ランチを楽しんで下さい。イエーイ!」
MCが終ったので、拡声器のスイッチを切り、スタッフの控えエリアへ向かった。
「リア、俺たちで昼食を買って来ようぜ。アドルフォ様、みなさんの分も買ってきますね」
「うん、よろしく。家の使用人も少し買って来るって言ってたから、量は少しでいいぞ」
「「イエーイ!」」
4人であっちこっちの出店を様子見がてら覗いている。
串焼きあり~の、スープあり~の、サンドイッチあり~ので目移りがしてしまう。
一般の客も、学園の生徒も漏れなく出店でお昼ご飯を買ってくれているみたいだ。
中には行列の出来ている店もある。
私達スタッフは特徴のある原始人スタイルなので、ちょっと顔を覗かせるだけでも出店のオヤジたちがちゃんと挨拶してくれる。
仮装はちょっと悪目立ちしている感じだけど、イベントは楽しまなくちゃ損!!
気にせずどんどんお店を見て回る。
午後の部もアナウンスしなくちゃいけないので、しっかり食べないとね。
ボブはスタート地点で、メグはスタートとゴールの中間地点にある画像保存機の操作をしてくれているので、かなり神経を使ったはず。
「乗馬クラブの人たちが、ものすごいスピードで画像板を運んでくれるので、ちゃんと撮らなくっちゃって、少し緊張した~」とは、ウチの勇者様。
それでもスタート地点で撮影しているボブに比べれば、シャッターチャンスは少ないらしく、ボブよりは余力がある様に見える。
「私もい~っぱい色んな物食べるぅ~。さぁ、どれを買おう!」とメグが目を輝かせて出店を見ている。
勇者様が買った物はフェリーペたちが運んでくれているので、手ぶらなのが嬉しい。
さて、私もたくさん買うぞぉぉ~。