91
「ああああ!チーム青空、スタート台から飛び立ち、すぐに落ちてしまいました。今、救命艇が機体を操作をしていたガルトさんとバラバラになった機体の回収に動いています。ちなみに、全てのグループには、この様に湖に着水した際、パイロットに怪我が無い様分解しやすい機体にしてもらっています。それと同時に救命胴衣やヘルメットの着用を義務付けて、パイロットの安全を高めています。救命ボートや救命胴衣はこの湖で普段から貸ボートをしていらっしゃるスプリットボート様から借り受けて使わせて頂いております。さて、フント先生、先生は学園の風魔法の教諭でいらっしゃいますが、本日の解説をお願いしております。よろしくお願いします」
スプリットボートへはちゃんと料金を払っているんだけど、今回のコンテストに協力してくれた所はできるだけ名前を挙げて宣伝する様に心掛けているのだ。
ボブんところのスイカズラ錬金術工房の様に、大スクリーンの下に店名が入ってると言葉に出して言わなくても良いと思うんだけど、ボートとか救命胴衣はどこにも店名が入ってないから口頭で伝える様になった。
どんな形でも宣伝すれば、今後、いろんなイベントをする時に協力してくれる団体が増えると思うんだぁ。
「よろしくお願いします」
「フント先生、大半のチームが風魔法を使って飛ぶ予定の様です。チーム青空の風魔法についてご解説頂けますか?」
「分かりました。チーム青空は風魔法が得意なガルト君が機体を操作をしていました。スタート台を飛び立ってすぐに風魔法を発動しようとしていた様ですが、スタート台を蹴った後、自然の風に煽られて機体が可成り斜めになってしまいました。それに焦ってしまったのでしょうかね。魔法を唱える事より体勢を立て直したいという自然の欲求が優先され、そちらに気が行ってしまった為、最後まで風魔法を唱える事が出来なかった様です」
「なるほど~。風と言えば、風魔法だけではなく自然の風もあるという事ですね。スタート台が高い所にあるのも、自然の風の影響を受けやすいのでしょうか?」
「それはあるでしょうね」
「解説をありがとうございます。さて、今度は仮装についてですが、ドッジボール大会の解説でも活躍したヘルマンさん。チーム青空の仮装はどうでしたか?」
「そうですね。とても綺麗な仮装ですね。蝶の羽の様に大きな袖があるというのは、飛べていたら更に綺麗に見えたのではないかと思います。袖を綺麗に見せたいという意図だとは思うのですが、袖が広がったまま固定されたデザインでしたね。生地にもよるかも知れませんが、袖が受ける風の抵抗で体勢が崩れてしまったという可能性もあるんじゃないかと思っています。まぁ、その場合、とても目の詰まった布でなければ、そんな事は起きないでしょうけれどね」
「フント先生、その辺はどうですか?」
「その可能性はゼロではないと思います。可成りの大きさの生地が広げたまま固定されていて、目が詰まっていると、そこへ当たる風の逃げ場がなくなってしまい、それが抵抗という現象を起こしてしまうんですよ」
「ということは、仮装の形状や素材によっては飛ぶ事に影響が出る可能性があるかもしれないと言う事ですね。後、仮装ですが、こちらのスタート台下に5名の審査員がおりまして、予め定められた4つの採点基準で採点しております」と説明すると、大ビジョン板に審査員の顔写真と共に、名前と役職が映し出され、最後に採点表が映し出された。
「採点基準は大ビジョン板に映し出されている様に、綺麗さ、面白さ、テーマの統一性、作成の熟練度です。綺麗さ、面白さは各審査員の好みによって採点されます。テーマとは、その仮装にテーマがあるかどうかです。例えばチームで仮装している場合に、全体にテーマが統一されているか等も審査の対象となります。作成の熟練度は縫製などの技術面を評価します。毎回1チームが飛ぶ度に採点の集計を行います。集計は、みなさんのお席の後ろの板に張り出されますので、競技の合間等お好きな時にご覧ください。最終的にポイントの高い1チームが仮装部門の優勝となります。なので、飛ぶ事に失敗しても、仮装部門での優勝の望みがあります」
そこまで言うと、ガルトと機体の回収が終わった様だ。
2番目のチームはスタート台に機体を運び込んでいる最中なので、観客が飽きる事がない様スタンバイの間はインタビューで繋ぐ事になっている。
予め全てのチームにお願いして、飛ぶのが成功しても失敗しても1名はチームを代表して、飛んだ直後に解説席に来てインタビューを受けてもらう様にしている。
なので、そんなに待つ事なくチーム青空のサルサが解説席に来た。
「サルサさん。残念でしたね」
「そうですね。でもガルトに怪我が無い様なので安心しました。練習した時はかなり良いところまで飛べたので、今日も成功すると思ったのですが、自然の風が昨日よりも強かった様です」
「事前の練習はこの湖でされたのですか?」
「いいえ、学園のスポーツエリアの空き地でやったんです」
「事前の練習って大切ですよね」と相槌を打つと、サルサさんも頷いている。
解説席で頷いても観客には見えないので、ちゃっちゃと話題を変えた。
「ところで、どれくらいの時間を掛けて機体を作られたんですか?」
「機体そのものは3日間で作ったんですけど、形や色なんかを決める等の作る前段階に可成り時間を掛けました。実は今回の機体は2代目なんです。1代目の機体は練習している時に壊れたので、より丈夫な物をと思い作ったのが今回の機体でした」
「そんな製作秘話があったんですね。チーム青空のみなさんは2年生ですが、もし来年もこの鳥人コンテストがあれば参加されますか?」
「もちろんです!来年は優勝しますっ!なので来年も是非このコンテストを開催して下さいっ」
「ありがとうございます。もし、来年も開催される様でしたら、是非頑張って優勝を狙って下さい」
「はいっ!」
サルサさんがノリの良い人で良かった。
ノッケからイベントを盛り上げてくれるコメントをしてくれた。
2番目のチームが飛ぶ段になり、同じく画像と私のアナウンスでチームの紹介をしていく。
フェリーペが旗を振ると、音楽クラブがファンファーレを演奏し、その後で飛ぶというルーティーンを観客に植え付けていく。
観客はこのルーティンに合わせて、タイミング良く飲み物や食べ物を買いあさっている様だ。
それに、これまでファンファーレの無い国だったのが、2チーム目にして既にファンファーレが鳴ると飛ぶという事を観客が覚えてしまい、息を飲んでスタートを見守っている。
丁度よい緊張感と緩和を産むので、やはり音の効果は絶大よね!
ファンファーレを導入した私、グッジョブ!
観客が固唾を飲んで見守る中、2チーム目の飛行は成功した。
しかし、ゴールとしているブイには遠く及ばない距離だった。