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本日は青天なり!
イベント日和だぁぁ。
「ねぇねぇ、リア。私おかしくない?」
一見毛皮にしか見えないアップリケが施されたワンピースを来たメグが恥ずかしそうに聞いて来た。
裾はお約束のギザギザ仕上げ。
これでせめてワイルドさを出してみました。へへへ。
もちろんパっと見毛皮に見えるだけで、近くによってまじまじと見ればアップリケだと分かる。
頭は骨をかたどった簪で、てっぺんに小さなお団子を作っている。
軽い木で形を作り、着色をしてそれらしくしてみました。
めっちゃ可愛い。
「うわわぁぁ。可愛い原始人さんだぁぁ。頭のお団子がチャーミングだよぉ」
「本当?」
「うんうん」なんてやり取りをあややクラブの部室でしていたら、女子専用のお風呂場からアドリエンヌ様も仮装姿で出て来た。
「私がこんな仮しょうなんて、はじゅかしいですわ」と言いつつも、いつもと違う姿に満更でもない様子。
「うわぁわ。アドリエンヌ様、とっても綺麗。綺麗な原始人ですね」とメグが屈託なく褒めた。
「本当でしゅか?」
メグと二人でウンウンと頭を振ると、安心したのかとびっきりの笑顔が出た。
アドリエンヌ様って黙っていれば実に綺麗な子なんだよね。
で、お茶を淹れておやつを食べる時と、ベランダの花をいじっている時は、何時ものお澄ましの顔じゃなくって、年齢相応の表情を浮かべるのだ。
今がまさにそんな年相応な表情をしている。
「アドリエンヌ様、御髪、私が纏めてもいいですか?」
まだ骨の簪を刺していないアドリエンヌ様に簪を手に近寄った。
「お願いちゅるわ」
私と同じで髪が豊富なアドリエンヌ様は、頭の左右に小さなお団子を一つづつ作った。
チャイナ風な感じなのだが、如何せん髪量も多く長いので、お団子を作っても可成りの髪が余ってしまい、三つ編みにしてお団子の周りにぐるぐる巻きつけた。
ちょっとだけ手が込んでるのだがそれに大満足してくれた様で、「あなた、手ちゃきが器用なのね。お料理もだけど髪のチェットも上手ね」とお褒めの言葉を頂いた。
3人の身支度が無事済んだので、メグが「今日はあややクラブの挨拶が『イェーイ』に固定されているから、1階に降りたら『イェーイ』ですよ」と、注意を促して来た。
「あ、わちゅれてた」
アドリエンヌ様はテヘペロとでも言う様なちゃめっけたっぷりの顔をした。
今まで見せた事の無い表情だったので、メグも私もちょっと固まってしまったが、アドリエンヌ様はそんな顔をした事に自分でも気づいていない様で、「何でしょんな面倒くしゃい挨しゃつしなければいけないのかちら」なんていう毒舌がいつもの様に出て来た。
さっきはめっちゃ可愛かったのにぃ。う~ん。
お小言は多いし、闇王様がらみで虐められた女子生徒もいるみたいだけれど、根は面倒見の良い子だと思う。
まぁ、いじめは絶対にダメなんだけどね。
でも、アドリエンヌ様本人がしているというより、例の取り巻きたちが勝手にやってるっぽいんだよね。
後は、闇王様がウチの勇者にホの字だという事に気が付かなければいいなぁ~なんて思っているのだ。
気づいたら修羅場になりそうだもんね。
ガクブル。
「イェーイ」
1階に降りたら、ダイニングの所にセシリオ様が座って居たので、例の合言葉の様な挨拶をすると、向こうも同じ挨拶を返してくれた。
「朝早いけれど、そろそろ荷物を持って移動しないと、身動きが取れなくなるよ」
動物の毛皮に似せた服に模造品の骨のネックレスと、右手には漫画肉の模型を持っているセシリオ様は、顔や雰囲気が都会的過ぎて仮装が全然似合っていない。
似合っていないからと言って、不細工には見えず、ちゃんとイケメンに見える不思議さよ。
闇王様は既に馬車の所に居て、使用人にどの荷物を3台ある馬車のどこに乗せるのかを指示していた。
フェリーペとボブは使用人たちを手伝って、小物を馬車に乗せていた。
ヘルマン様は荷物のリストにチェックを入れながら闇王様の横に佇んでいる。
「「「イェーイ」」」
女子からの挨拶に、「「「イェーイ」」」と男子側も答えてくれた。
まぁ、これ、結構みんなノリノリでやってくれてるみたいだ。
いつもと違う挨拶は、イベント当日感を十分盛り上げてくれる。
「急ごうぜ!参加者ももう既に湖に向かってるって情報があるし、乗合馬車の始発が大聖堂前広場を出発する前くらいには現場に到着しときたいからな」
闇王様の指示で3台の馬車に分かれて乗り込み、いざ王都郊外の湖へ!