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「ぼちぼち看板を出すよ~」と伯母さんが大きな木の床置き看板を持って入口から声を掛けて来た。
「おう。頼む」との伯父さんの返事で伯母さんが看板を店の外に設置した途端、早速2人組の客が来た。
伯父さんの良く知ってる客なのか、店に入って来るなり親し気に会話を交わしている。
「お!カミーロたちか。もうゴンスンデから戻って来たのか」
「おうよ!俺たちがいなかったらポンタ村の治安が心配だからなぁ」
「言ってろ!」と伯父さんは、カミーロとか言う伯父さんと同じくらいの熊男とじゃれ合いながらステーキ肉を鉄板に乗せた。
「今日のスープは絶品だから楽しみにしてろよ」
「言ってろ!」
カミーロは伯父さんがさっき言った言葉をそのまんま返してニヤリと笑った。
彼はただの常連客ではなく、おそらく伯父さんの友人なのではないかな?
そう思っていたら爺さんが、「カミーロはマノロの幼馴染でな、今は冒険者をしながらあっちこっちで働いてるんじゃ。ポンタ村に帰って来る度、律儀にここで夕食を食べてくれる良い子じゃよ」と熊男二人の友情について教えてくれた。
熊男の友情!なんか映画のタイトルになりそうだと思いながら伯父さんが肉を焼いているのを見ていると、次の客が入って来た。
ここ、ポンタ村では、駅馬車は日に2度集中して到着するんだよね。
ポンタ村に宿泊するルートの場合は夜に、別の村へ泊る場合は昼飯の時間に到着して、宿屋や食堂のゴールデンタイムとなるらしい。
ポンタ村では王都と各都市間ルートが複数通っているから、それぞれ行きと帰りの2方向の馬車の流れがあって、かなりの数に上る馬車客が行き来するのでそれが収入源になるんだよね。
複数の馬車がかち合っても、ポンタ村の様な複数の食堂や宿がある村であれば問題がないので馬車駅が設けられているらしい。
いや、どっちかって言うと、馬車駅があるから宿や食堂が林立したって言った方が正しいのかな?
まぁ、どっちにしてもポンタ村は結構大きい村と言っていいと思う。
今は馬車がまだ到着する時間ではないので、今入って来た客は徒歩旅行者か村住みの馴染みの客の1人なのかもしれない。
2番目に入って来たお客さんは、カミーロ程ではないけど、やっぱり伯父さんと気安いやり取りをしてから席に着いた。
2番目の客が座ったと同時に焼きあがった肉とパンとスープを載せたトレイが給仕用のカウンターに載せられ、カミーロ達の定食をランディが運んで行った。
「おお!何だ!今日のスープはうめぇなぁ」
「俺にもお代わりくれー」とカミーロの連れが大きな声で言った。
え?もうスープ飲み終わったの?
カミーロたちのリアクションを前に、伯父さんはしてやったりといった風情でニヤリと笑った。
そうこうしていたら徐々に客が増え、大葉を入れたトマトスープは客の舌を楽しませた様で、伯父さんもホクホクだ。
スープだけお代わりする客が後を絶たなかったのだ。
途中で2鍋用意してある内1鍋分のスープの残りが心もとなくなり、もう一鍋分追加で用意した。
もちろん野菜の下拵えは私の仕事だ。
パパッと済ませたよ。
そろそろ駅馬車が到着する時間らしいが、そうなったらもっと忙しくなるらしい。
「今日は客が多いな。新しいスープのお陰かもしれんのぅ。アウレリアのお陰じゃな」と言って爺さんが私の頭をナデナデしてくれた。
いやいや、爺さん。ついさっき売り出したスープで客が増えるとも思えないよ。
爺さんは私の事が可愛くて仕方がないらしく、機会があれば何でも褒めてくれる。
やっぱりここに来て正解だった。これだけ可愛がってもらえれば、とっても安心だ。
これからも可愛がられる様、お手伝いをいっぱいしなくっちゃ。
そして、爺さんは私の頭からつま先を見て「マノロ、アウレリアも初日で疲れているじゃろうから、もう調理の手伝いも必要ないし、休ませてやっておくれ」と伯父さんに言ってくれ、私は自分の夕食を調理場の隅で食べてから自室に戻った。
爺さん、優しい心遣いをありがとう!本当はもうフラフラだったんだよ~。
5歳の体はまだまだ弱いね。
従兄のランディは昼間、宿の掃除などのお手伝いが済んだ後は昼寝をたんまりして、夜は給仕をするらしいので、調理場の隅で昼食や夕食を食べる時以外は私と入れ違いになる。
2歳違うだけで体力的にも違うしね。
ここからのお手伝いはランディが主だ。
「妹か弟が欲しかった」というランディは嫌な顔一つせず、私が自室で体を拭ける様に調理場からお湯の入った盥をパパッと運んでくれた。
ありがたい。
仲良くできそうだ。よろしくね従兄君と心の中で思いながら感謝して体を拭いてベッドに入り込んだ。
翌朝、朝食の席でクリスティーナが「アウレリア、これからも調理スキルで何か改善した方がいいと思った時は、遠慮なく言ってね。あんたがここに来てくれて良かったよ」と改めて歓迎してくれた。
これって大葉入りスープの効果かな?