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「ここがあややクラブの部室かぁ~」
大きな口をあんぐりと開けたまま、首を忙しくあっちこっちに向けているのはイベントのサクラであるデラミスだ。
美術部の男子で、背が低く、ちょっぴりマシュマロ君。
暗めの茶髪はあっちこっちへ好きな様に跳ねていて、なんか妙にキモ可愛い。
「これ、内装した人、王国でも指折りのプロだな。凄すぎる。綺麗とかだけじゃなくって居心地がすごく良い。なんでだろう?」
嬉しい事言ってくれますね、デラミス先輩。
ふふふふ、内装をデザインしたのは何を隠そう私奴でございます。
でも、バラさないよ~。
だってインテリアデザイナーで食べて行く気がないので、不用意にバラさない事にしたもん。
あややクラブのみんなもそれを分かってくれてるので、「ふふふ」って感じに笑っているだけだ。
「サクラをしてくれるみんな、今日は我々の部室に来てくれて、どうもありがとう」
サクラを纏めているヘルマン様が彼らに簡単な挨拶をして、最初からロの字にデスクが並べられている作戦会議室に連れて行った。
「「「うぉ~、かっけぇぇ!」」」
サクラの男子3人から同時に声が上がった。
オスカル先輩なんて2段飛ばしで階段を駆け上がっていたよ。
メグと私はキッチンから事前に用意していたクッキーを、アドリエンヌ様は紅茶を淹れてくれ、それをみんなに配った。
「え?何?これとっても美味しい」
タチアナ先輩が手で口を押さえながら思わずと言った感じで感想を零した。
「お代わりがありまちゅので、ほちい人は後で言ってくだちゃい」
やっぱりこういう場でのホストはアドリエンヌ様が様になるねぇ。
「忙しい中集まってくれてありがとう。あややクラブではドッジボール大会に続いて鳥人コンテストというイベントを夏休み前に企画している。詳細はここにいるヘルマンから説明してもらうが、君たちには是非イベントの成功に向けてオレたちに協力をして欲しい」
おおおお!闇王様ってこういう仕事をさせると本当にオーラを発しているよね。
後光じゃないけど、何か眩しいよ。
闇王様ってアドリエンヌ様を避けてるっぽいけど、この二人結構相性いいんじゃないかなぁ?
片や人の上に立ち差配するのが上手で、片やその人たちを個別に招いた時のホスト。
うん、めっちゃいいんじゃない?貴族らしい組み合わせだと思うよ。
私が一人でそんな事を考えていると、メインの黒板の前にはボブが書記として控え、ヘルマン様がその前に立った。
「まず、自己紹介から」とヘルマン様の要請で、あややクラブの面々が、続いてサクラのみなさんが自己紹介をした。
あややクラブは殆どが1年生だけれど、サクラはみんな2年生だった。
「スミスです。2年です。魔術クラブに所属していて、属性は風です。よろしくお願いします」
男子にしたら長いくすんだ茶髪を靡かせた痩せ気味の背高のっぽさんだ。
「デラミスだ。美術クラブの次期部長に内定している。2年生だ。」
「オスカルです。錬金術クラブの2年生です。よろしく」
その場にいた女子全員がニコっと笑ったオスカル先輩に見ほれてしまっていた。
コホンというセシリオ様の咳で、みんな我に返った。
続いて大きくウェーブのある長い黒髪の女子生徒が立った。
「ベラドンナです。スミス君と同じ魔術クラブです。学年は2年生です、よろしくお願いします」
属性はスミス先輩と同じく風とのこと。
今度はタチアナ先輩だ。ベラドンナさんと同じく黒髪だけど、こちらはストレートな髪型だ。
「タチアナです。錬金術クラブの2年です。よろしくお願いします」
タチアナ先輩は貴族だけど家名は名乗らなかった。
ベラドンナさんもボンネットを被っていないので貴族かもしれない。
スミス先輩とデラミス先輩ももしかしたら家名を名乗ってないだけで、貴族かもしれないので、平民に対する様な気さくな感じで話し掛けるはやめておいた方が無難かも・・・・。
そこからはヘルマン様が鳥人コンテストについての説明と、サクラになにをやって欲しいのかの説明に入った。
私は機体のデザインを2~3枚紹介し、操縦者の全身または半身を覆う機体にして欲しい事を伝えた。
着水して機体がバラバラになるのは構わないが、操縦者や舟のクルーに突き刺ささらない様、軽くて細かなパーツ、あるいは折れても怪我をしない素材を使って欲しい事を説明した。
「この翼が妙に長いのは何故?」
道具についてはやはり錬金術クラブが気になるみたいでタチアナ先輩が聞いてきた。
「翼は長くしなやかな方が長距離を飛びやすいと思うからです。ご自分のチームで短い翼が良いと思ったらそういうデザインでも良いですよ」
私は前世のTVであの長くしなやかな翼が滑走部門の特徴だと記憶に染みついていたから、何にも考えずに長い翼にしたけど、風魔法がどの様に作用するのかも分からないし、理系ではなかったので理屈も分からない。
怪我だけはしないように、好きな様に作ってもらって問題はない。
「と言う事は、俺たちは2つのチームに分かれて機体を製作し、魔法を使っても使わなくてもその機体をゴールに出来るだけ近いところまで飛ばすと言うことだな」
「そうです。みなさん理解が早くて助かります」
なんて嫣然とした笑みをヘルマン様がデラミスさんに向けた。
「ここの4人がそれぞれ魔術クラブと錬金術クラブって言うのは分かった。で、俺は仮装の方で力になるってことでいいかぁ?」
「はい。ただ一度に2つ以上のチームに所属することは出来ないルールなので、デラミス様にはどちらかのチームを選んで所属して頂く事になります」
ヘルマン様が様付けでデラミスさんを呼んでいたので、デラミス様はお貴族様で決定だね!
「あの、俺は仮装するのが一つの目的でこのイベントへの参加を決めたんですが、その仮装というのが女生徒から見て嫌がられる様な仮装にしたいのです。もし、デラミス様がそんな仮装をデザインするのは嫌だということなら、俺とは別のチームにされた方が良いと思います」
「モテる男ならではの悩みかぁ。おい、羨ましいなぁ」
キモ可愛いデラミス様が女生徒にモテるとは誰も思っていない。
うん、これはデラミス先輩の僻みだね。
「話が脱線気味なので元に戻しますね。あややクラブとしてはデラミス様にはみんながアッと言う様な素敵な仮装をデザインして頂きたいので、オスカル君ではなくタチアナ様が所属する方のチームに入って頂きたいのですが、どうでしょうか?」
ヘルマン様がちゃっちゃとデラミス様をタチアナ様の方に押し付けちゃったので、丸く?解決しました。