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「では、画像板の枚数を決めたいと思います」
もう、自分でも何か吹っ切れた気がして、昨日に続き今日もドンドン遠慮なく話を進めさせてもらった。
「まず、出場者全員の紹介の為に、事前に画像を撮ります。グループ毎に一枚。できたら、グループ名を一緒に投影できたらより良いですね。これについては後でボブに相談させてもらいたいです」
ボブは無言で頷いてくれた。
先に撮った画像板に文字を書き入れる事ができるかを確認する予定なのだ。
所謂テロップの事だね。
「後は、名場面があったら随時画像を撮って、馬で運んで、投射となります。なので、まず、参加チームの上限を決めないと、際限なく画像板が必要になります。参加チームの数を決めるというのは、イベントがどのくらいの時間で終わるかを決めることにもなります」
「はぁ~。リアさんは凄く小さいのに、本当にいろんな事を考えてるんですね」
ヘルマン様が感心っと言った表情を隠さず、また同時に変な物を見るかの様な視線を私に送って来た。
そうだよね。6歳なのにこんなにポンポンアイデアが出て来る、それもシステムに関する事が多くて小さな子では思いつかないよね。
きっと、私たちは全員子供だからまだそこまで奇異に感じていないかもだけれど、これが大人ばかりの中だと異様さが目立つかもしれない。
もっと自重した方がいいのかなぁ~。
「リア、話を続けてくれ」
闇王様からのご指名で、再び説明を開始した。
「イベント中に撮影する場合、決定的瞬間を必ずしも撮れるとは限らないので、画像板は多めに用意しておくと同時に、撮影者が困らない様にどんな場面を画像として残したいのかをちゃんと決めておきましょう。例えば、湖に変な顔をしたまま落ちた時とか、作った道具が無残に大破した時とか、その辺はみんなで話し合って決めた方が良い様に思います。瞬間的な画像は撮るタイミングが難しいですが、優勝チームがトロフィーを掲げたりとか、バラバラの機体と共に湖に浮かんでいる所なんかは、比較的タイミングが取りやすいと思います」
心の中で『ふぅ~』とため息を吐いて、自分の席に戻った。
「僕は実家に画像板が1枚いくらするのかを聞いてみるよ。それを元に入場料を決めれるし、値段が分かれば、どれくらいまでなら予算でカバーできるか計算しやすいしね」
「おう。ボブ、頼んだぞ」
「はい」
なんとなく会議が終りそうだったので、私は慌ててもう一つ議題をぶち上げた。
「あの、画像板とは別の件ですが、後3点議題があります」
「え?3点も?」と驚いたのはヘルマン様だ。
それに構わずチャッチャと話しを進めよう。
そうしないと話が進まないし、イベントまで時間がある様でないからね。
「はい。まず1点目。参加者の安全のためにヘルメットと救命胴衣を用意する必要があると思います。これは鳥人に付き従って湖を走る救助船のクルーにもです。参加者には自分たちで用意してもらう事は、ヘルマン様が最初に話し合いの場で決めて下さいました。船のクルーに関しては誰が用意するのかをクルーとの話し合いで決める必要があると思います。参加者の安全面という事では、操縦士の体の全身或いはせめて半身を直接風や水に触れない様な機体にしてもらう必要があると思っています。後で、機体のデザイン画を2~3枚紹介しますね。2点目は救助船の艘数。私は最低でも2艘必要と思っています。何故ならば着水した参加者を湖から引き上げるためと、それとは別に機体を引き上げるためです。もし、道具がバラバラになったら風魔法や箒の様な物で陸地か船に欠片を寄せるための人員も含んで下さい」
闇王様は顎に手をやり唸っている。
でも、今は無視無視。話を進めちゃうぞぉ。
「3つ目ですけど、これは発射台の作成を誰に頼むかです。しっかりした物を組み立てないと事故に繋がるのでプロに頼んだ方がいいです。その場合、当日或いはイベント前日に運び込んで組み立てるのか、それとも最初から湖で組み立てるのかによって、湖の使用申請の期間を変える必要があると思います。その使用申請期間の中には、もちろん画像を投射する布を張る台の作成期間も含んでいます。布の台も風向きに寄っては可成りの圧を受けると思うので、倒れない様、ちゃんとした物を作る必要があります。また、スクリーンの周りを風魔法で暗くする為にも、スクリーンの外枠を覆う様な物も必要です。私も最初は簡単に考えていましたが、後になってゆっくり思考を巡らすと、いろんな事が抜けているなぁって気づきました。私が気づいたのは、今の所これくらいですけど・・・・」
ヘルマン様は口をあんぐりと開けている。
闇王様は顎に当てていた手を外し、「お前は前からアイデアがすごいと思っていたけど、より凄いのは物事を進める時の手腕だな。末恐ろしいよ」
うわぁ、6歳児になのに英才教育を受けると、そいういうのまで分かっちゃうの?
でも、ここは何か当たり障りない様にしておかないと・・・・。
「え~と、『フローリストガーデン 光』を建てたのは大公様のお力と私のアイデアでした。アイデアはどんどん沸いて来るんだけど、それを全部実現できるわけではなかったんです。その時、色んな事を進める為のノウハウを大公様のところの執事に教わったのが今生きているんだと思います」
「大公様の精鋭・・・・」と闇王様が呟いた。
面倒な事は全部大公家へ押し付ける事にした。
大公様、ダンテスさん、ごめんなさい。
「そうかぁ・・・・」とあまり納得していなさそうな闇王様だったけど、最後には「じゃあ、オレは学園と王城の関係部署に再度話を通しておく。アドリエンヌとリアとメグは、どんな画像があれば良いかをリストアップしてくれ。後、可能であれば、どんな店に出店を許可したら良いかもリストアップしてくれ。店関係はフェリーペ、お前も協力してくれ」
「「「はいっ」」」
「フェリーペには悪いが救命胴衣や船の賃料の情報も頼む。まずは見積もりを集めてくれ」
「分かりました」
いつも思うけど、やっぱり闇王様って人の上に立つ様に躾けられているんだなってことに驚く。
どうやら部室付きの使用人を通して、実家から色々なアドバイスを貰っている様だしね。
ヘルマン様もセシリオ様も、貴族としては高位にカテゴライズされるけれど、人を動かしたり、物事を決める時のスピードはアドルフォ様がピカイチだし、誰かの意見を聞いて方向転換する時も躊躇がない。
どういう事かというと、それまで進めていた作業が無に帰す事になっても、方向転換した方が良いと判断したら遠慮会釈無く転換するって事だね。
「あなたたち、集まって。リシュトを作るわよ」
アドリエンヌ様に呼ばれて作戦会議室の机の並びを変えた。
3人で角突き合わせて、まずはどんな画像があったら良いかを話し合った。