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「ねぇ、あの闇王様がお召し上がりになってる可愛い動物のお菓子?クッキー?あれはどこで売っているの?」
「それ、私も知りたいと思っていたところですわ」
「そうですわよね。とぉ~っても可愛いですものね」
闇王様が普段教室を移動する時にポォリポリと食べているスノーボールクッキーが話題になっているのだ。
ウチの店でも出した方がいいかなって思ってたんだけど、これは不用意に発売しちゃうと人手不足に拍車が掛かってしまうのでは?
う~ん、売ったとしても薄利多売になっちゃうだろうし・・・・。
でも、他の庭園付きレストランとの差別化をするためにも来店者のみに数量限定販売っていうのもいいかも?
クロークで働いているパンクの仕事量が少なめだから、あそこで売っちゃうのもいいかもしれない・・・・。
材料費なんかはウチの店から出して、あややクラブのキッチンを使って毎日ちょっとづつ作って、ストレージに保管しておけば、毎週可成りの数をお店で出せるかも・・・・。
クロークで販売するなら、ライト付きのガラスケースがあると見栄えがいいかも。
そんな事を考えてあややクラブの部室へ移動したら、先に来ていたフェリーペとボブが各々寛いでいた。
セシリオ様は高確率で書棚のスペースにいるし、ボブは2階の錬金術デスクが定位置だし、アドリエンヌ様は空中庭園の釣り型の籐椅子辺りに必ずいるしね。
フェリーペと闇王様って結構同じ物が好きらしく、作戦本部で角突き合わせて何かワチャワチャやってるし、メグは私と一緒にいるか、作戦本部で闇王様たちがやっている事に参加してたりしてるけど、私はやっぱりキッチンが定位置かな。
ヘルマン様は・・・・、そう言えばヘルマン様っていつもどこら辺に居たっけ?あんまり印象がないなぁ。
2階の自立式ハンモックは男子がお風呂上りにゴロリと横になっている事があるけど、どちらかと言えばゲーミングチェアの方が使用率が高い感じだ。
「私、植えてみたい花がありまちゅの」
空中庭園の植物も段々とアドリエンヌ様の好みが反映されてきて、バラが増えている。
黄色とピンクの花が多くなり、赤や白が当初よりは少なくなっている。
「塀の際は背の高い木を植え、手前に向かって徐々に背の低い植物を植えるとスペースを広く感じますよ」と、イングリッシュガーデンのアイデアを伝えると、結構素直に聞き入れてくれてベランダを整えてくれている。
何でもお家では庭いじりは庭師がやるので、自分ではさせてもらえないとのこと。
部室で好きな様に花を植える事ができるのを喜んでくれている様だ。
貴族のお嬢様も家では許してもらえる行動が少ないのかもしれない。大変だねぇ。
さて、闇王様が来たらウチの店分のスノーボールクッキーを部室で作る許可を得ないといけない。
めずらしく作戦本部に座って、常備されている紙にクロークに置くつもりのガラスケースをデザインしていたら、まずフェリーペが、続いて2階から降りて来たボブが加わってアレコレとデザインについてアイデアを交換しはじめた。
「ライトがあるといいんだけど、そのライトそのものはお客様の目に見えない様にしたいんだ。ガラスケースのどのあたりに設置したらいいと思う?」
「リア、これ後引戸なのは分かるけど、このガラス部分の客側はどうして手前のところ、どうしてカーブさせているの?作るの難しくないか?」
ボブが言っているのは、長方形のガラスショーケースを変形させてお客側はかまぼこ型になっている事を指している。
「普通の長方形にしちゃうとつなぎ目の所で視線が一旦途切れちゃうというか、カーブにしたらつなぎ目が無いのでどの身長の人でもつなぎ目無しに商品が見れるじゃない?」
「「おおおお!」」
「ねぇ、リア。それなら後引戸の横に、この作戦本部の照明みたいなピンスポット型のライトを付けてみたらどう?」
とうとうメグまで巻き込んでどんどん設計に変更を施して行く。
「ん?上面全部をガラスにする必要があるの?」
「え?フェリーペ、どういう事?」
「このお前が言うかまぼこ型が始まる所あたりまで木でいいんじゃないか?で、その木の所にお客から見えない様に横に細長いライトを仕込んでおけば楽じゃん。ショーケース全体を満遍なく照らす事ができるし、家具としてその方が上等に見えないか?」
「「「!!!」」」
珍しくフェリーペのアイデアに3人共が納得してしまった。
こう言っては何だが、こと錬金術に関してはフェリーペより小さい時から親に叩き込まれているボブの意見の方がすんなり受け入れられるんだけど、今回に限ってはフェリーペの意見が一番良い様に思えた。
早速、デッサンを書きかえたら、これしかない!ってなっちゃった。
「で、思うんだけど、お持ち帰り用に売るんなら、何に入れてお客様に渡すの?」
メグの一言に「!」ってなっちゃった。
「そうかぁ。パッケージも考えないとだね。う~ん、紙の箱?」
私の頭の中にはケーキ屋さんで渡される箱を小さくした物が浮かんだ。
しかし、紙も結構高いんだよね。
う~~ん、と唸りながらも、勝手に手がイラストを描いていたら、「その箱、紙で作るの?」とボブ。
「うん」
「それさぁ、箱も売ったらどう?」
「え?どういうこと?」
「店のロゴ入りの箱を大と小の2サイズで作ってさ、それにクッキーを入れて売ることにして、その箱には『フローリストガーデン 光』のマークが入れるだろうから、お洒落アイテムとなるんじゃないかな?」
ボブの中でウチの店は高級店として映っているみたいで、評価がものすごく高い。
加えて流行の発信地として認識してくれているというのもあり、ウチの店というだけで価値があると思ってくれているみたいだ。
「ウチの店のマークが入っただけでプレミアムが付くってこと?」
「うん」
「それならいっそブリキ缶にしてみたらどうだ?クッキーが湿気無くていいし、綺麗な缶なら食べた後もいろんな事に使えるだろう?」
ん?何?今日のフェリーペはめっちゃ冴えてる!
「そのアイデア貰った!」と思わず席を立っちゃったよ。
「じゃあ、5個入りの細長い缶と、10個入りの四角い缶にして、デザインはやっぱりフローリストガーデンということで花?」
「まぁ、お前ん所ならそうなるな」
「よぉ~し、じゃあ、ボタニカル柄にしちゃおう。10個入りの方は店の紋章を真ん中に、5個入りの方は端っこに入れて、写実的な植物の絵にしちゃおう!」
そう言いながら手を動かす私の手元を3人がじっと見ている。
横で3人がボタニカル柄って何?なんて会話しているけど、無視して絵を描く。
「なんか大人っぽいな」とはフェリーペ。
「ううん。なんだろう、こういう風にある程度間隔あけて描かれちゃうと綺麗だし可愛く見えるよ。カラーだしね」
写実的な草花が3つ、白地の蓋の上に適当な間隔を空けて並べてある。
草花は左からスミレ、椿の花、ネギなどの野菜を纏めた物で、右下に小さ目のウチの店のエンブレム。
メグの意見に気を良くした私はもう一つ10個入りの方を緑のインクで墨絵の様に色の濃淡だけでボタニカル柄を描いてみた。
ユリの花とカスミソウだが、ユリの花は1輪で蓋の1/4を占めるくらいの大きさで、自分で言うのも何だけど迫力がある。
「おおお!僕はこっちのが好きだな。落ち着くし、男でも使うのに抵抗がない」とボブが推すので、10個入りは緑の墨絵風ボタニカル、5個入りの方はメグが気に入ってくれたカラーのボタニカル柄にする事にした。
明日の錬金術クラブではショーケースを作るのを手伝ってくれると3人が言ってくれたので、今から作るのが待ち遠しい。