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綺麗な造花をサマーヤーンやもっと細い刺繍糸で作るのはとっても楽しいけれど、目がぁ、目がぁぁぁぁ。
魔道具のランプの下で作業するとすぐ目が痛くなるし、昼間も太陽直射の元での作業は目が痛くなる。
あややクラブの部室で丁度よい陽が入る2階のソファーコーナーで短時間の間だけ作業するのもあって、なかなか作業が進まない。
けれど、これにも良い点はある。
アドリエンヌ様に、頂いたサマーヤーンを私たちが喜んで使ってボンネットを作っている所を見てもらえるからだ。
「しぇいじぇい、励みなちゃい」と横を通る時に声を掛けてもらえる様になった。
前は悪態しか吐かなかったのに、料理が気に入るとおやつの時だけは和やかになり、最近では普通の時でも友好的なのだ。
あのキンキン声で他者を罵っていたのは、アドリエンヌ様というよりも例の取り巻きの2人だったなぁなんて思い出した。
友達は選ばないとね。
自分がしていなくても、或いはちょっとしかしてなくても、尾ひれが付いて自分の評判が落ちてしまうという典型的な例と言ってもいいかもしれない。
「ねぇ、リア。タチアナ先輩が教えてくれたんだけど、手芸部ってのがあるの知ってる?」
「え?手芸部?入園の時、あっちこっちのクラブを見たけど、そんなのなかったよね?」
「うん。でもね、2年と3年の平民だけでやってるんだって。で、部室とかは無いらしい」
「うわぁ、貴族のいないクラブだと、そんな扱いになるの?露骨ぅ。で、実際には何をやってるの?」
「請け負っていろんな物を縫ったり、編んだりしてくれるらしいよ」
「えええええ!本当?」
「うん。しかもね、結構安く請け負ってくれるらしいよ。何でも実家があまり裕福でない平民ばっかりが集まって、お小遣い稼ぎにしてるんだって」
「じゃあ、私たちの造花とかレース編みも頼めるんじゃ?」
「ふふふふ♪そう言うと思って、実は料金とか聞いてきたの」
「おおおお!流石、メグだぁ」
私たちのお小遣いでも十分に頼める金額で、レース編みをしてもらえるらしい。
そうなると、自分たちで作るのはボンネットの土台部分と最後に色んなパーツをそれに取り付けるだけで済んじゃう。
これはもう頼むしかないっしょ。
「タチアナ先輩も良くいろんな物を作ってもらってるって言ってたから、品質には問題ないみたいだし、さっそく頼みに行ってみる?」
私たち2人は早速2階の平民クラスへ移動した。
部室を持っていないクラブらしく、平民教室で作業をしていた数人の女子生徒に遠慮がちに近づくと、「あら、あなた昨日の子ね」と一番年が上そうな生徒がメグの姿を見咎めた。
「はい。昨日はどうも。実はお願いしたい事があって来ました」
「なぁに?発注?」
「はい。このサマーヤーンを使ってレースを編んで欲しいんです」
メグが差し出した3色の夏用毛糸を受け取った件の上級生が残りのメンバーに手渡した。
「うわぁ、このサマーヤーン、絹だよ」
「あら、本当」
「手触りがすべすべぇ」
「えっと、レースの編み図はないんですけど、こういう風に仕上げて欲しいという絵はあります。できますか?」
「ちょっと誰に聞いているのよ。もちろん出来るわよ」
上級生の名前はマリアンで、実は4年生らしい。
でも入園が8歳の時だったから、既に12歳。
6歳の私たちから見たらとってもおねいさんなのだ。
ドーンと来いオーラがいっぱいなマリアンさんに値段交渉をした上で頼んだら、「そうね、納期は1週間で良いかしら?」と言われ、思ったよりも早く納品してもらえる事に喜んだ私達は二つ返事でお願いした。
翌朝、ホームルームが始まる前にいつもの朝の挨拶のやり取りをしていたら、マリベルが近寄って来た。
「「おはよう」」
明るく挨拶をしても全く挨拶は返って来ないのに、メグと私の傍から離れない。
「「???」」
しばらくたってマリベルが低い声で「家のお姉ちゃんに仕事を頼んだんですってね」と詰め寄って来た。
「マリベルさんのお姉さん?」
メグも私も何のことか分からず、何に対してもあまり躊躇いのないメグが聞いたところ、手芸部の部長さんがマリベルのお姉さんだということらしい。
「あの人と私は姉妹じゃないわ。あの子の母親はお妾さんなのよ」と上から目線でマリアンさんを扱き下ろした。
はぁ、平民の家でも裕福な所はお妾さんとかいるのね。
マリベルは自分でお姉さんって言ったのに全否定するし・・・・。複雑なのね。
しかも、そのお姉さんはお小遣い稼ぎに手芸をしなくちゃいけないなんて、それはどうなんだろう?
そう思っているのを察したのかどうか、マリベルは「あんな貧乏くさい部活をして、家の店に稼ぎがない様に思われるじゃない。家からしっかりお金をせしめてるくせに、厭味ったらしい」と内情を暴露した。
プリプリ怒ったまま、ナナの方へ戻って行くのを見て「お金持ちはお金持ちで大変なのねぇ」という勇者様の一言に深く頷いてしまった。