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「こりぇ、夏用の毛糸でしゅの。シルク100パーシェントでしゅのよ」
無事、週末の即売会が終ったばかりなので、この月曜の部活はお休みとなった。
メグと二人であやや会クラブの部室に顔を出したら、アドリエンヌ様に呼ばれて2階のソファエリアでサマーヤーンを手渡された。
「あなたたちは夏でもボンネットを被らないといけないんでちょう?これで作ったら暑い時でも蒸れないわよ」
「「まぁ、アドリエンヌ様、ありがとうございます」」
部室で一緒にいる事が多いし、何より私の作るおやつをいつも美味しそうに食べてくれているので、徐々に距離感が短くなって来たと思ってはいたけど、こうやってプレゼントまで貰えるとは思っていなかったのでびっくりだ。
「これは家の領地の名しゃん品なので、質はとっても良いものだし、色もこの色を出しゅには何回も染めをしなければならないので、あなたたち平民ではなかなか手に入らないものでしゅわ。大事に使いなしゃいね」と言い残し、いつもの席であるベランダの花に囲まれた釣り型の籐椅子の方へ行ってしまった。
「これは、すぐにでもボンネットを作ってお見せしないとね」
「うん、どんなデザインにする?リアは何かアイデアある?」
コーヒーテーブルの上にはパステルカラーのピンク、水色と白の絹毛糸が並んでる。
色もお嬢様色だなって思いながら、サマーヤーンを触っているとふと頭を過ぎったのはゴスロリなボンネット。
今、私達二人が被っているのは、赤ちゃんが被っている様な、或いはアーミッシュの女性が被っている様な髪の毛をすっぽり隠す飾りの無い頭にぴったりした物だ。
でも、ゴスロリっぽいボンネットなら造花やリボン、レースたっぷりのプリムが付いた頭からズラして被るハーフボンネットのデザインを見た事がある。
もちろん前世でだ。
1階に降りて作戦会議室の木箱に無造作に入れられている紙を1枚抜き取って、ゴスロリタイプのボンネットの絵を描いていく。
後頭部に被り、芯が入った上にピンと伸びたプリムの内側には控えめなレースが、外型にもふんだんなレースに小花の造花が無数に散らばったデザインで、飾りリボンが背中に靡く感じになった。
で、ボンネットの下の髪は巻いたり、三つ編みを更に編み込んだりして、そこにボンネットとお揃いのリボンと造花をちりばめた派手派手なデザインが出来上がった。
メグと二人で顔を見合わせて『どうする?やっちゃう?』という心の声を無言でやり取りしているところへ、フェリーペが覗き込んだ。
「何?これ。めっちゃ可愛いじゃん。作るの?」
「派手だな・・・・」とは、後から来たボブの感想。
だよね。派手だよね。
このボンネットを被れば、服もかわいくしないとダメだよね。
制服がなくて白であれば何を着ても良いこの学園、白い服にボンネットとおそろいのリボンと造花をちりばめても誰も文句は言わないはず。
相変わらずメグと私は無言で目配せをしながら『どうする?やっちゃう?』という無言の交信を続けている。
実を言うと作ってみたい。
めっちゃ可愛い。
なにより、現世の私の見た目は母さんのお陰もあり、美しく長いバターブロンドの髪と美人とも可愛いともとれるルックス。
ちなみに目は金髪の長いまつ毛に彩られ、呪術が廻る対戦についてのコミックに出てくる五〇先生の様なキラキラな透明感たっぷりのおめめなのだ。
この水色のサマーヤーンの色とピッタリ!
こういうお人形さんの様な服はドンピシャで嵌ると思う。
メグだってめっちゃ可愛い外見なので、洋服負けはしないはず!
第一、お貴族様のご令嬢たちはボンネットとか被らないし、リボンや宝石等髪にいろいろ装飾品をつけるのは当たり前、服だって金糸銀糸の派手派手な服を着ているし、もちろん宝石やリボン、レースがふんだんについているので、これくらいのボンネットでどうこう言われることはないと思いたい。
『どうする』
『やっちゃう?』
『だね!』
私たち二人の意見が合意に至った瞬間、「うん、これ作る事にした~」とメグから声が上がった。
「お前らこの前から香水だの、ボンネットだの、女の子っぽい事やってるなぁ~」
「派手」
という、男子二人の意見をちゃっちゃと切り捨て、私は水色のサマーヤーンを、メグはピンクのを握りしめ頷いた。
「「やるぞー!」」
女子二人が突然発した大声に、男子二人は若干仰け反り呆れた様だった。
レース編み用のかぎ針とボンネット本体用の生地やリボン、裁縫道具はフェリーペん家から購入しよう。
大店だから揃うよね?
リボンで済ませちゃうところは買っちゃって楽をする事にしたもんね。
私考案のビーズをボブに錬金術で作ってもらい、造花の芯にさせてもらう事にした。
もちろんアルバイト代は払うよ、お菓子で。
新しい紙に、誰に何をいつまでに頼むかを書き出した所謂タイムテーブルを手に、どんどん話を進めちゃう。
「アドリエンヌ様には何かお礼した方が良いよね」というメグの一言に、お貴族様のご令嬢が身に付けてもおかしくないヘッドコサージュをお揃いで作ってみようかとなった。
ヘッドコサージュなら鳥の羽もあった方が豪華だよねと、紙に書き込んだ。
「はい」と必要な物を書き出した紙をフェリーペに渡し、「調達よろ!」と良い笑顔を浮かべたら、「何で俺?」と言いつつも、「この週末にウチの店で揃う物は持ってくるよ」だって。
いい奴だな、おい!