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最初の3名は順調だったんだけど、その後、何人もの生徒が錬金術クラブの部室を訪ねて来たが、私たちの香水は買ってもらえなかった。
そんな所在なげな私たちのテーブルとは対角の位置に、女子生徒の山が築かれていた。
何を隠そう、天使の微笑みを持つオスカル先輩目当ての女の子たちだ。
「うわぁ、オスカル先輩、嫌そうな顔して接客してるね」
メグから見ても先輩の顔、苦虫を潰した様な表情に見えるのね。
ということはオスカル先輩、嫌悪感をこれっぽっちも隠そうとしていないってことだけど、周りにいる女子生徒たちはそんな事お構いなしに見えるよ。
「ドライヤー作るの間に合わなかったから、今回の商品は女の子向けじゃないのにね」
その証拠に商品は全くと言って売れてない。
「残念だったね。リアもドライヤー楽しみにしてたのに」
「ううん。今回の即売会に間に合わなかっただけで、先輩、次回までには仕上げる気満々だったよ」
「そうかぁ」
毎朝寝ぐせと格闘しているらしいオスカル先輩は、何よりも自分のためにドライヤーが欲しかったらしいのだけれど、開発に着手したのが遅かったので即売会には間に合わなかったのだ。
で、今回売っているのはドライヤーを思いつく前に考えていたオペラグラスに落ち着いたのだ。
「でも、あれ、男子生徒が顧客ターゲットなのに、あれだけ女子生徒がいたら、男子生徒が近寄れないよね」
いやいやメグたん、オペラグラスは劇場などで遠くから歌手や役者の顔を見るための道具なので、別に男子生徒とは決まってないんだけど、学生は元々劇場へ行かないからねぇ。寮生活だし。
売れるとすれば、明日の保護者の来園を待つ必要があるかも?
そうこうしている内に、廊下から女子生徒たちの「キャイキャイ」という悲鳴に近い声が近づいて来た。
♪ジャジャーン
闇王様降臨!
錬金術クラブ部室の入口に闇王様とセシリオ様がドーンと立っている。
うん、絵になるね。
闇王様はまず入口近くにいたボブのスペースを見学し、そのままフェリーペの所へ。
ミニ冷蔵庫の扉を開け閉めするのを楽しんだ後、こちらに真直ぐに歩いて来た。
さっきまでオスカル先輩を囲んでいた女子生徒の殆どが、廊下から二人について来たミーハー女子生徒に混ざって、ウチの香水瓶売り場を取り囲んだ。
「なぁ、これ自分で調合するの?」
闇王様からのご質問には、勇者から答えてもらいましょう。
私はメグたんの脇腹を軽く突いて、対応を促した。
「はい。まずは香水瓶を選んでもらって、その中にこちらの無水エタノールと6種類のエッセンスオイルの中から好きなモノを選んで適量を入れて下さい。エッセンスオイルは20滴くらいが適量です。オイルは何種類選んでもらっても同じ料金です」
長い説明をしおわったメグたんはちょっぴりドヤ顔で、そこがかわゆい。
闇王様も勇者様からの丁寧な説明に一々「うんうん」と頷き、調合を始めた。
もちろん、セシリオ様もその横で調合のお付き合い。どちらも色違いの馬の瓶をチョイス。
やっぱ、男子生徒には馬の瓶が人気だねぇ。
セシリオ様の横には空席スペースがあるのだけれど、誰も座らない。
こんなに十重二十重と二人を囲っているのに、やはり女子生徒の中に暗黙のルールとかあるのか、二人の隣に座ったり、体に触ったり、直接話し掛けたりする女子はいなかった。
「香水って、結構簡単につくれるんだな」と、闇王様たち二人は新たに蝶や花の瓶を選んで女性用の香水を調合しはじめた。
そんな二人を見て、周りを取り囲んでいる女子生徒から「「「キャーキャー」」」と黄色い声が。
あれは来週にでもあややクラブで勇者様に手渡されるんだろうなぁ。
だって、セシリオ様が闇王様の隣で、「女の子用の香水ってどんな香りがお薦めなの?メグさんが貰うとしたらどんなエッセンスオイルが好み?」なんて、闇王様のためにせっせとプレゼント対象ご本人に問いただしているよ。
5歳とは思えん頭のまわり様だな。いや、既に今年の誕生日が来ていたら6歳か。
それでも、こりゃ、神童だな、神童。
二人は調合し終ると、左右のポッケに1本づつ香水瓶を突っ込んで、お金を払って部室を出た。
あれ程いた女子生徒も潮が引く様にいなくなった。
数人だけ私たちのテーブルの近くに残り、闇王様が作ってた女の子用香水と同じ物を目指して調合を始めた。
客寄せパンダと言うけれど、あの二人は私たちにとっては正にソレだったな。
その後も、闇王様が購入したという噂が流れ流れて、多くの女生徒が香水を求めた。
錬金術クラブの中でも今日一日で、私達のテーブルは可成りの売り上げを誇った。
明日も1日、今度は保護者も含めての即売会なので、たくさん売れるといいなぁ。