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「さて、それじゃあ、今後の話をしよう。今、マノロを呼んで来るから居間でお待ち」と言われ、暖炉の前に置いてあるテーブルを囲む椅子の一つに座った。


 結局、マノロ伯父さんだけでなく、爺さんも来て一緒に座り、詳しい事情を説明することになった。

 店は従兄のランディがお留守番しているらしい。

 大人3人は私が何故突然ここへ来たのか知りたくて、私が口を開くのを待っている。

 ただ、魔法スキル持ちである事や、サブスキルも持っている事は伯父さんたちも内緒にした方が良いという父の助言に従い、調理スキルを持っているという嘘を伝えた。


 そうなると、どうして私が王都から離れなくてはいけなくなったのかを説明できなくなるのだが、お貴族様の家庭事情に関わるから外部に詳しい事情は話せないと言えば問題無いと父さんが言った通りに、大人3人はお貴族様という単語に何の質問もせず受け入れてくれた。

 そこに、授かったスキルが調理で将来は食堂を開く事を夢見ているので、その為の修行も兼ねているという説明も加えておいた。まぁ、これは嘘じゃないしね。だってこれだけ料理に特化したスキルのオンパレードなんだよ、もう将来は料理屋をやるっきゃないでしょう。


 爺さんは「息子たちは大丈夫なのか」と心配していたが、トラブルに巻き込まれそうなのは私だけだと言うと、幾分安心してくれた様だ。だって、問題に巻き込まれそうな孫はここにいるのだから、王都に残った方はもう問題はないということになるからね。


「調理スキル持ちなのね!」と伯母は(すこぶ)る喜んでくれた。

「この子はレティシアにそっくりだから、客と直接接触する仕事は避けた方がいいかもしれん」

 爺ちゃんがそう言うと、伯父さんも伯母さんも頷いた。

 恐らくだけど、私の見た目は美女と言われる母さんに良く似ているらしいので、幼子と言えど、客の前に不用意に出さない方が良いという意味に私は取った。

 例の食堂の給女は夜の相手も・・・って奴だね。今はまだ幼いけれど、それでもって言う変態はどこにでもいるからね。


 熊男は「じゃあ、昼飯を作る時に一緒に調理してみよう。スキルを持っていても使った事がなければ素人と同じだからな。宿の中をザッと見たら調理室に来い」と言い残して、自分は爺さんと一緒に調理場に戻って行った。


 伯母さんは私の手を引いて、まずは宿の正面に連れて行ってくれた。

 『熊のまどろみ亭』はドイツの木組みで切妻屋根の家。それの背を低くした様な外観だ。

 結構かわいい。色は柿色で、黒い木組みが良いコントラストになっている。

 街道側の全ての窓に鉢植えを飾ってあり、ドイツのロマンチック街道かって感じだ。

「この花は全部爺さんが育ててるけど、『裁縫』スキル持ちなので園芸の才能はなくってね。火の手らしく、植える物植える物全部枯らしちゃうんだよ。でも、爺さんの唯一の趣味が花を育てる事だから、『園芸』スキル持ちの私がこっそり手伝って何とか咲かせてるんだよ」と誇らしい顔で内緒を打ち明けてくれた。


 次に宿屋の二階に移動した。

 既に従兄のランディが掃除を始めていた。

 私より2歳年上のランディは両親と同じく黒髪で年にしたらがっしりした体つきの子だった。

「俺はランディ。よろしくな。今は掃除で忙しいけど、飯の時にでもゆっくり話そうぜ」と恥ずかしそうに自己紹介してくれ、すぐに掃除に戻った。

 伯母と私はランディの横を通って、上の階に続く階段の下まで移動し、「この上には屋根裏部屋があって、お祭りの時とか部屋が足りなくなった時だけ使うんだ。だから今は閉めているんだよ」と説明だけで屋根裏部屋は見せてもらえなかった。


 さっさと1階まで降りて、今度は調理場付近を案内してくれた。

「あんたは調理スキルがあるから、調理場の掃除とか洗い物が仕事になるけど、どこに何があるのかを知っておいた方がいいので、中を案内するわね」


「ここはあんたも知っての通り、食堂だよ。宿泊客でなくても食事は出来るシステムだ。で、あっちが調理場だね。トイレなんかは裏庭だよ」と裏庭に出て井戸の場所や洗濯ものを干す場所なんかも教えてくれた。


「あっちは馬車や騎馬で旅する人のための厩舎だよ」

 裏庭には厩があり、その横には小さな畑があった。


「さて、そろそろお昼ご飯を作る時間になるから調理場へ行こうかね」と伯母は私を調理場まで連れて行き、前に誰が使ったのか分からないエプロンを掛けてくれた。

 子供用のエプロンなのでサイズ的には申し分ないのだが、シワシワのエプロンにちょっと引いてしまった。


「料理した事はあるか?」伯父さんに聞かれ、前世、前々世ならあるのだが、現世では一度もないので「ない」と答えた。

「なら、下拵えをしてもらおうか。で、客が来はじめたら洗いもんを頼む」と言って、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、にんにくが入った木箱を指した。

 その量に驚いた。いったい何人の客が来るんだろうか?

 そう思ってたのが分かったのか伯父さんが「これは夕食分も入ってるから、まずは昼食用に半分の量だけ急いで下拵えだな。で、あっちの空の桶には()()し終った野菜を入れてくれ。皮なんかのゴミは一か所に集めておいてくれよ。後でランディに処理させておく。作業は場所を取るので晴れの日は裏庭でやってくれ。井戸の近くの方が水が使えて便利だぞ」そう言って私にナイフを握らせた。

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