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4年男子チームはコート外側にいる仲間との連携がうまく、素早いボール回しで3年チームを翻弄している。
ただボール回しが私から見ると単調だ。
これはこの4年男子チームだけじゃなく、学年関係なく殆どのチームに言える事なのだが、外野に渡ったボールを内部に居るチームメイトにまず渡し、それを反対側の外野へ投げるのだ。
つまり、敵から見て右外野のボールを直接左外野へ投げる事をしないのだ。
内野を介した方がボールの飛距離が短く、早く仲間の手に渡るので、この様な戦術をとっているのかもしれないが、なんとも勿体ないなぁって思ってしまうよ。
「フォーリー、横!」
3年チームのちっちゃい女生徒が自分の右側にいた男子生徒に声を掛けたが、ちょっと遅かった。
4年男子のコート外側に居た選手が、反対側の外側に居た仲間に素早いボールを投げ、フォーリーが後ろを振り向く前にボールが投げられたので避ける事が出来ず、無情にも、ボールはフォーリーの足に当たってしまった。
「「「「ああああ!」」」」
観客から声が上がった。
これで3年のちっちゃい女子だけがコートに残ってしまうので、ほぼほぼ試合が終わってしまうと誰もが思ったのだろう。
「ピピー」
ホイッスルが鳴った。
「オーバーライン!」
実行委員会の一人、2年生の女子がボールを投げた男子生徒の片足が、ラインを踏んでいるのを指さした。
「「「フォーリー。良かったな」」」
仲間に励まされ、フォーリーは直ぐに対戦姿勢に戻った。
これまで4年男子はこの瞬間のためにワザと全部のボールをコート内部のチームメイトに一旦渡していたのかと納得がいった。
「きゃぁぁ」
3年女子生徒に容赦のない4年生男子の剛速球が襲った。
観客からはブーイングが出ている。
でも、この女子は体が柔らかいのと、常に小さくスプリットステップ、つまり足踏みの様なステップを休みなくやっているので、動き出しが早い。
テニスがこの世界にあって、スプリットステップが当たり前なら驚くに値しないかもしれないが、そんな知識を誰も持っていないのにこの女生徒はこの技術を取り入れているのだ。
当たる!と思っても紙一重で避けているのが凄い!
外側右側から背の高い4年男子が思いっきり3年女生徒にボールを投げた。
足首を狙っている。
今まではちゃんと避けていたのに、今回は女子生徒が右側に近い所に立っていたため、彼女がボールを除ける前にボールが届いてしまった。
ボールは彼女の左足に当たり、ポーンと遠くに跳ね返ってしまった。
「「「「あああ」」」」
これでコートの中にはフォーリーだけになってしまった。
対して4年男子のチームはまだ2人、コートの内側に残っている。
たった一人になったフォーリーはかなり粘った。
粘ってはいたが、素早く行き来するボールに翻弄され、見せ場を作る事もなく、普通にボールを当てられてしまった。
突き指の選手の代わりに補欠まで入れて健闘したが、結局4年男子チームが勝利した。
「よく頑張った!3年チーム。お前らも強かったぞ!」
「3年女子、可愛いだけじゃなくて、上手かった!」
「流石4年男子。素直に強い!」
「残念ー!でも、よく頑張った!」
その試合結果に狂喜乱舞している一部の生徒と、がっくりと肩を落としている生徒たちと観客全員がどちらかのアクションをしているってことは、応援しているチームは違えど、みんながこの大会を楽しんでくれている証拠だ。
企画、運営した者としてとっても嬉しい。
もう一方の準決勝では、クリサンテーモの有志チームが2年生チームを下した。
あれはスポーツというよりも、実社会での権力が微妙に作用していた様な・・・・。
流石、将来は国を背負って立つ高位貴族の御子息達です。
どんな手を使っても勝つというのは、ある意味政治力ですよね~。(棒読み
あややクラブのチームが他のチームに影響を与えた事の一つに、円陣がある。
流行に敏感なクリサンテーモのチームはすぐに円陣を取り入れた。
「クリサンテーモぉぉぉ、ファイト!オー!」
ファイトやオー!の意味が分からないながらも完パクしてるよ。
チーム名を変えただけだね。ふふふふ。
セシリオ様とヘルマン様の解説も徐々にヒートアップしていく中、決勝戦は4年男子チームが制しました。
4年男子の選手もクリサンテーモ程の高位ではないが、一般生徒の中では可成り高位の貴族子弟が入っているので、接待試合の様にはならなかったので、純粋に実力で試合結果が決まった。
「貴族4年クラス男子チームのみなさん、おめでとうございます。それでは賞状と賞品の授与です」
セシリオ様の声が拡声器から聞こえ、全生徒がスポーツエリアに整列した。
実行委員会の女子たち6人が運んだ台が、全校生徒の前に置かれ、その上に闇王が立った。
「優勝!4年男子チーム。おめでとう!」
闇王様から手渡された賞状とトロフィーを観客にも見える様に両手で掲げたチームリーダーが観客の方へ振り返ると大歓声が沸き起こった。
殆どが男子生徒の野太い声だったのは、それ程スポーツで競う機会を満喫してくれたのだと思う。
トロフィーはガラスで作ってあり、右上が極端に高く、左上が低めに作ってあるお洒落な盾タイプなのだが、右上のすぐ下のところに2㎝くらいの縦長の細い穴があいており、4年男子チーム優勝という文言と今日の日にちが描かれたリボンが結ばれている。
実はこれボブの力作なのだ。
この世界にはまだトロフィーというものがなかったので、絵に描いて渡したら、きっちり作ってくれた。
ボブん家の工房は優秀な跡取りが居て安泰だね。
「勝ったチームも、負けたチームも全員良く戦った!学園の生徒のレベルが高くてオレは嬉しい。怪我をした生徒はしっかり怪我を治してくれ。また、あややクラブでイベントを企画する事もあると思う。みんなの参加を希望する!」と闇王様が台の上で拡声器を使って宣言すると、「「「「「おおおおお!!!!」」」」」と野太い声と「「「「「きゃぁぁぁ」」」」」と言う黄色い声が上がった。
点心は、アドリエンヌ様が全校生徒の前で優勝チームの面々に手渡した。
「あちゅい内に食べた方がおいちいですよ」
ああ、確かに熱い内が美味しいんだけど、小籠包だからそのまんま口に入れちゃうと火傷するんだけど、アドリエンヌ様それを言わなくて大丈夫かしら?