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 今朝は『麦畑の誓』のメンバーはいないので、自分で起きなければいけなかったんだけど、1日半の馬車移動の疲れでいつもより寝過ごしてしまった。

 慌てて1階に降りると、既に客たちの朝食タイムは終了してしまっていた。


 おずおずと調理場の方に顔を出すと熊男もとい伯父のマノロと、昨夜ちょこっと顔をのぞかせた祖父のホセが朝食の後片付けをしていた。

 戸枠の陰から控えめに顔を出した私を見て、爺さんが声を掛けてくれた。

「おはよう。良く眠れたかい?」

 禿げ頭の上に、目の周りに皺が集まった様な痩せ気味の爺さんが笑顔であふれる顔を向けて挨拶をしてくれた。

「おはようございます。寝坊してしまってごめんなさい。お陰様で良く休めました。アウレリアです。どうぞよろしくお願いします」と一気に挨拶をした。

「おお!なんて賢い子なんじゃ。5歳なのに大人と同じ様な挨拶ができるとは。儂の孫じゃぞ、儂の!」と老人が喜ぶ。

 会った事はないが、両親からポンタ村の事は折に触れて聞いていたので、爺さんの名前くらいは知っていたのだ。

「ホセ爺さん」

「おお!可愛いのぉ。よく来てくれた」

 爺さんは孫愛を発揮して私の頭を優しく撫でてくれた。


 爺さんの後ろで何か料理していたマノロ伯父さんが、「ほれ」と言って、私に朝食の載ったトレイを渡してくれた。

「ありがとうございます」

「あっちの食堂の方でゆっくり食べろ。爺さんもここはいいから、孫と話したかったら一緒に座ってやってくれ」

 見た目は熊でゴツイし、言葉も幾分乱暴だが、村で育った平民ならばこれくらい乱暴な話し方が一般的なのかもしれない。

 私は貴族の屋敷の中しか知らなかったから、庶民や村での生活についてはこれからいっぱい学んでいかなければならない。


 爺さんは熊さんの言葉に嬉々として従い、私からトレイを取り上げ運んでくれ、一緒に食堂の席についてくれた。

「お前は覚えておらんじゃろうが、生まれた時、もう亡くなったウチのばあさんとお前の母さんのところのジジババと一緒に王都に行ってお前に会ったんだぞ。あの時も可愛かったぞ」

 え?そうだったの?でも、ゼロ歳じゃあ、流石に覚えてないよ。

 前世と前々世の記憶が戻ったのは3歳くらいだったしね。

 私が横に首を振ると、眩しそうな顔をしながら私の頭を撫でてくれる。

 父さんは元気か?とか、屋敷での暮らしはどんなだったかを聞かれながら、手早く朝食を食べ終えた。


 父さんや母さんと離れて暮らす事になったけど、こうやって爺さんに愛情いっぱいの眼差しを向けられると安心感が湧いてくる。

 それは、ポンタ村に来れたのは良い事かもしれないと思える程の優しい眼差しだった。


 熊男、もとい伯父さんの所へ食べ終わった食器を持って行くと、「今、クリスティーナが来るからここで待ってろ」と言われ、邪魔にならない様に調理場の端に置いてある椅子に座った。

 それ程待つ事もなく伯母さんがやって来た。


「おはよう!アウレリア。よく眠れたかい?」

「はい、伯母さん。その・・・寝坊してしまってごめんなさい」

「いいんだよ。5歳で馬車の旅はキツイからね。体はもう大丈夫かい?」

「はい」

「朝食はもう食べたかい?」

「はい。ありがとうございます」

「ここが、今日からあんたの家になるんだから、そんな遠慮がちにしなくていいんだからね。ここはマノロの家でもあるけど爺ちゃんの家でもある。孫のあんたが住むのは当たり前のことさね」とガハハと笑う伯母は男前だ!と思ってしまった。


 私の部屋を用意してくれたとのことで、まず部屋へ連れて行ってくれた。

 家族が住むのは宿屋の裏庭にあった小さな家だ。

 そこにはダイニングの他に、伯父夫婦の部屋、爺さんの部屋、従兄の部屋があり、私と従兄の部屋は子供部屋ということもあり、他の部屋より小さ目の部屋となっていた。


「あんたの父さんもこの家で育ってて、その頃は私達の部屋が男の子部屋で、爺さんの部屋が女の子部屋、あんたの部屋の隣は爺さん夫婦の部屋だったんだよ。あの頃は子供が7~10人なんて当たり前だったからねぇ。今とは部屋割りが全然違ったんだよ。まぁ、マノロたちの妹たちはみんな大人になる前に亡くなっちゃったんだけどね・・・・」と伯母さんは言葉を濁した。

 最近は夫婦と子供1~3人が普通なので、昔と今は家族構成が全然違ったのだろうし、子供がちゃんと育つ確率も今とは違うのかもしれなかった。


「ここがあんたの部屋だよ。昔は爺さんの弟が独立するまで住んでたんだ。隣のランディの部屋と全く同じ造りだから少し狭いけど、窓もあるし、お日様が燦々と入るから気持ちの良い部屋だよ」

「伯母さん、ありがとうございます」


 窓が一つ、ベッドと小さなテーブル、チェストが一つだけのこぢんまりした部屋だけど、現世で初めて持つ一人部屋だ。

「後で、客室に置いてある荷物をランディに運び込ませるから安心をおし」

「え?ランディも仕事がいっぱいあるでしょうから、自分で運びます」

「遠慮しなくていいんだよ。リュックはお前用に小さいけど、鞄は大人用だから重たいし大きいからね。そういうのは男の子に任せな」とガハハと笑う伯母さんを頼もしく思いつつ、その背中を追って中庭に出た。

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