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あややクラブの部室の入口には常にクラッツオ家から派遣された使用人が番人よろしく立っている。
そうしないと今も塀の外からつま先立ちで中を覗こうとしている女子生徒たちが中へなだれ込んで来そうだしね。
普通、各家の使用人は学園の中には入れず、クリサンテーモ地区のみ学園が用意した使用人が多数働いている。
実はこれらの使用人を雇うお金はクリサンテーモの生徒の親やOBやOGが出しているのだ。
あややクラブの為に、クラッツオ家だけ例外を認めると後々問題になるかもと学園は使用人を園の中に入れるのに難色を示した。
まぁ、当然そうなるよね。
でも、放っておけば、女子生徒が中になだれ込まないまでも、玄関前に待機するのは火を見るよりも明らか。
そこで、クリサンテーモからの派遣ということでクラッツオ家の使用人2人を雇い、あややクラブに派遣ということになった。
その給料は一旦はクリサンテーモOB会を通してはいるが、クラッツオ家が払っているのだ。
部室も100%闇王様の家のお金で建てており、彼が卒業したら学園が自由に使って良いという密約が成立しているらしい。
落第しなければ全員が同じ学年なので、卒業まではこの部室を使える算段だ。
女子生徒がキャアキャア言ってる横を通って部室に入るのが疲れるんだよね。
中には恨みがましい目つきで睨み付けてくる人も可成りの割合で居るしね。
その中にはもちろん、ウチのクラスのマリベルとナナがいる。
はぁ~。面倒なんだよね、あの二人。
教室でも昨日闇王様は何をされたの?とか。
もう、それは根掘り葉掘り聞いてくる。
面倒だから、「昨日は飲茶を召し上がってましたよ」とおやつ情報のみを伝える事にしている。
だって、飲茶って言ってもウチの部員以外誰も作らないので、それがどんな物か分からないもんね。
口で説明はするけど、どんな形なのか、どんな味なのかは想像するしかないよね。
しかも、誰が作ってるか説明していないから、クリサンテーモからの出前くらいに思ってくれてるしね。
うっしっしっし。
頭脳の勝利!
そんなこんなであややクラブの部室を堪能する毎日を送っているなか、ウチの父さまから手紙が届いた。
週末まで待てなかったのかな?
カサカサ
手紙を開いたら父さんのタドタドしい文字で、モンテベルデ伯爵様から長男ヘルマン様をあややクラブへ入部させて欲しいとわざわざ店にまで来られて頼まれたらしい事が綴られていた。
あう!
モンテベルデ家はウチには鬼門なんだよね。
折角雇ってもらったのに辞めちゃったというのが、どうしてもウチの父さんの中にある様で、断る事が難しいらしい。
「アウレリア、お客様よ」と、目がハートになってるナナが廊下から声を掛けて来た。
何と言うタイミング。
ヘルマン様ではないか!
顔を良く知っているわけじゃないけど、髪の色や伯爵に似た顔つきで、ほぼ確実にヘルマン様だと思う。
流石、最高学年、ものすごくお兄さんに見えるよ。
服装は高位貴族のソレなので、ナナの目はハートが飛んでるけど、その方、もしかしたら爵位を継ぐ事ができないかもよ。
そんな事を思いながら廊下へ出ると「モンテベルデ家のヘルマンです。アウレリアさんだよね。ギジェルモのところの」とにこやかに話し掛けられた。
「ギジェルモからの手紙が届いたと思うんだけど、あややクラブに入部したいんだよね。女子の増員は無いって聞いてるけど、別に男子については何も言われてなかったと思うからどうかな?」
どうか?じゃないよ。
ダメに決まっとるじゃろう!
でも、父さんの事を考えると無下に断ることもできない。
「すみません、ヘルマン様。入部できるかどうかはアドルフォ様の一存で決まりますので、まずはアドルフォ様に尋ねてみますね。すぐに答えが出ないかもしれませんが、よろしいでしょうか」
「うん。彼に聞いてくれるだけでいいよ。ありがとう。答えは直に僕に教えてもらえるかな?」
「はい。ヘルマン様は4年生でしたっけ?」
「そうだよ。教室の方へ来るのが難しければ、寮の食堂や学食ででもいいよ」
助かった!誰も知らないのに4階の貴族クラスへは行きたくないよぉ。
「分かりました」
困った!どうやって闇王様に伝えよう。
これってウチの父さん的には絶対入部させてあげてってことだよね。あう~。
でも案ずるより産むが易し!
闇王様は「男子だし、お前の家が前に世話になった貴族家だよな。いいぞ」と簡単にOKをくれた。
「え?ウチがモンテベルデ家にお世話になっていたって知っていたんですか?」
「うむ。お前だけじゃなくってこのクラブのメンバー全員の調査はしたぞ。まぁ、フェリーペとボブに関しては入部後だけどな。貴族として誰と一緒にいるのかちゃんと調べない奴なんていないぞ」
まぁ、そう言われればそうだろうけど・・・・。
「モンテベルデ家のヘルマンは、あの魔法スキルの多産家の娘と結婚しているからな。子供さえ生まれれば、爵位は継げるだろう」
「え?ヘルマン様ってもう結婚されたんですか?」
「先日、お前の店でお見合いをした後、すぐに結婚したぞ」
「え?学生結婚?」
「そうだ。あそこの家は直ぐにでも魔法スキル持ちの後継ぎが必要だからな。まぁ、学園の寮に入っている間は実体としては結婚と言うより婚約って感じだろうがな。必ず魔法スキル持ちの子供が生まれる家の娘と結婚しておけば、卒園後何年かしたら子供が生まれるだろうし、モンテベルデ家も安泰だからな」
ふふぇぇぇぇ。貴族家怖い!ヘルマン様って何歳なの?
入学って5歳の時?それとも8歳?ウチの学園って最高でも8歳くらいまでに入園だよね?
貴族の嫡男なのに5歳で入園してないって事あるかしら?
あ、でも、モンテベルデ家を継げるかどうか分からなかったから、ぎりぎりまで入園させてもらってなかったとして今12歳?
地球に比べて平均寿命が40代後半だから、全てにおいて早熟なんだろうか・・・・?