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「お前がギジェルモの娘なのか?」
私の前にデーンと立っているのはむくつけき熊男。
先ほど漸くポンタ村に到着したのだ。
父さんは末っ子で、男ばっかりの4人兄弟。この宿は長兄が継いだとのこと。
他二人の伯父さんたちは、この村には住んでいないそうだ。
だからこの熊男は父さんの一番上の兄さんになる。
いやぁ~、それにしても威圧感がすごい!
縦にも横にも大きい熊だ。
私と『麦畑の誓』の面々は、馬車がとまる広場から3軒目の宿に併設されている食堂の中にいた。
父さんが渡せと言っていた手紙と、預かっていたナイフを宿の亭主である黒髪の熊男に渡した。
あっ、手紙の方は爺さんの方に渡すんだったっけ?
まぁ、いいや。もう、渡しちゃったしね。
「これは俺がギジェルモの独り立ちの時に餞別として渡したナイフだな。本当にギジェルモの娘なのか?」
「はい。アウレリアです。どうぞよろしくお願いします。マノロ伯父さん」
「ふむ。ちゃんと自己紹介が出来るんだな。客商売に向いているかもしれん」
熊男が両腕を組んでじっと私を見てる横で、給仕の隙間を縫って熊男の奥さん、私の伯母のクリスティーナがにっこり笑ってこっちへ来た。
「ここに住んでお手伝いしてくれるの?」
「はい。お世話になります。お手伝い、頑張ります」
クリスティーナ伯母さんも伯父さんと同じく黒髪だ。
なんとなく雰囲気も夫婦して似ている。
それもそのはずで、従弟同士で結婚しているらしい。
伯父さんと伯母さん、二人ともがこっちへ来ていたら食堂が回らないのか、息子のランディが忙しいから給仕に戻ってくれと伯母を呼びに来た。
「あんたぁ。とにかく今夜は空いてる客室で休んでもらって、明日からちゃんと部屋を用意するから、お店のお手伝いはそれからにしてもらいましょう」
クリスティーナ伯母さんは伯父さんに言うと、返事も聞かずに仕事に戻って行った。
「ふん。ギジェルモも突然に・・・・。まぁ、来てしまったものはしょうがない」と言いつつ客室用の鍵を一本渡してくれ、「2階の一番奥の部屋だ。後で食事は持って行ってやるから、今日はゆっくり寝ろ」とぶっきら棒ながらもちゃんと私を受け入れてくれた。
「ミルコたちもありがとうなぁ」と麦畑の誓の面々が伯父から依頼達成のサインをもらった所で、私も彼らの方に向き直り「本当にありがとうございました。助かりました」とにっこり笑ってお礼を言った。
「本当に礼儀正しくて、大人びた子だねぇ。私らもしばらくは村に滞在するから、何かあったら言ってちょうだい。2~3日中に持って来るなら無料でギジェルモたちへの手紙くらいなら運んであげるから。出発が急だったんでしょ?いろいろと親に話したい事もあるでしょう。あんたならここでも大丈夫だと思うけど、頑張るんだよ。じゃあ、またね!」といつもの様にミルコが代表して私に話しかけた後、ニヤッと笑いながら手を振って宿から出て行った。
二階に上がる前に、ランディや顔をチラっとしか見てない爺さんに挨拶しようかとも思ったが、夕食客でごった返す食堂で忙しくしている皆の手を止めるのも憚られたので、そのまま客室へ行く事にした。
食堂は蝋燭の灯で明るいのだが、階段下から見上げる二階は真っ暗だ。
伯父さんから蝋燭を貰って、ゆっくりと二階に上がった。
暗い廊下を一番奥の部屋に向かって歩き出す。
木造建築なのであちこちギシギシと軋んだ音がするが、とうとう部屋に到着した。
鍵で扉を開けると中も暗かったが、窓から入って来る月明りで部屋の中がうっすらと見える。
蝋燭を翳し、部屋の中を見回し、テーブルの上に蝋燭を置いた。
ベッドと机と椅子1脚と壁に備え付けてある棚のみの簡素な部屋だった。
昨日宿場町に泊まった時は大部屋だったので、個室だと少し印象が違うが、客室に置いてある家具は似たり寄ったりの質素な物だ。
荷物を棚に置きたかったが背が届かなかったので、椅子の上に置いた。
お腹は空いていたが、それよりも疲労の方が問題で、ベッドを見た途端にバタンキューと寝っ転がってしまった。
そして夕食が届く前に朝までぐっすり寝てしまった。