24
「あなたたち、来たのね。じゅうじゅうちい」
黒い波動を飛ばしている闇王様の真横で、何食わぬ顔をしてその波動を一身に受けながらアドリエンヌ様が鎮座され、同時に彼女は私たちに向けて黒い波動を飛ばしていらっしゃる。
「こいつらはオレが呼んだの。誰にも呼ばれていないお前と違って」と、闇王様が普通の女の子なら心を抉られる様なキツーイ一言をアドリエンヌ様に投げ付けた。
でも、アドリエンヌ様は慣れていらっしゃるのか、それとも闇王様の発言を別の意味に取ったのか、「もう!イケジュなんだから」と自分では可愛らしいと思っていらっしゃるのか両頬を膨らませた。
もう、十分怖いよぉ~。帰りたいよぉ~。
「勉強を始める前に、お前らもここで茶をして行け」
闇王様の命令に歯向かえる事も出来ず、私は出来るだけお三方から遠い席に座ったのだけれど、家の勇者はそんな事気にせず闇王様の隣が空いていたので、そこに座ってしまった。
闇王様の反対側の席にはアドリエンヌ様が・・・・。
「あにゃたっ、何しれっとアドルフォしゃまの隣にしゅわってるの!」とメグにお怒りの様子。
「えっ?お隣、だめでしたか?」とメグが慌てると、問題ないの一言で場を納めた闇王様、流石です。
それにしても両手に花ですね、闇王様。
必然的に私の席はセシリオ様の近くになるんだけど、出来るだけスペースを取って、メグに引っ付く様に、しかも闇王様からは私の顔が見えないちょっと椅子を引いた位置に座った。
小心者なんですよ。悪い?
「今日のお菓ちはクッキーとケーキでしゅわよ」
アドリエンヌ様がもてなす側という事で、如才なくホストを務めてくれる。
これは意外だった。
痩せても枯れても高位のお貴族様ってことなのかな?
ちゃんと最低限の礼儀は守ってくれるらしい。
口は悪いけど。
ケーキと言ってもウチの店程多彩なケーキではなく、所謂パウンドケーキ一択なのだが・・・・。
「美味しい!」と家の勇者様は満足そうだ。
クッキーを頼んだ私は何を食べているのか分からない状態なのに、やっぱり大物やでぇ。ウチの勇者様。
「リアの店のデザートも美味しかったけど、ここのも美味しいよ」とあまりクッキーに手が伸びてない私を心配したのか、メグがウチのレストランに言及してしまった。
だめだよぉ。変に彼らの気を引きたくないよぉ~。
「お前ん所は大公様のフローリストガーデンだったな」
およ!?やっぱり知られていたかぁ。この前、私が大公様の援助を受けているのを知ってるっぽかったからねぇ・・・・。あう~。
「・・・・はい」と何とか声を絞り出した。
「で、どんなデザートだったんだい?」
「えっとですね、夕方はカービングされた綺麗なカットフルーツと、夜はチョコレートのスイーツですね」
メグとしてはウチのお店でメニューに載ってないと説明してたから、チョコレートフォンデュという名前はダメだけど、チョコレートだけであれば話しても良いと思ったのだろう。
違うのよ、メグたん。
「「「チョコレート?」」」
あちゃ~。
ほら、お三方の興味を引いてしまった。
だってこの世界ではまだチョコレートって見た事がないから、まるっきり新しい素材になると思うよ。
「あ、いえ、ウチの新しいメニューにしようかと試作品を作ったので、友達に試食してもらったんですけど・・・・やっぱりメニューに載せない事になったので、お蔵入りのデザートです」
「えええ?あんなに美味しかったのに?何で?」
ちょ、ちょっとメグさん、そんなに力説しないで!!!
あ、ほら、アドリエンヌ様の目が異様に輝いて来た!
「チョコレート?って今まで聞いた事がないでしゅわ!どんな物でしゅの?」
「黒くて、甘くて、とろーりとした物です」ってメグうぅぅぅぁぁぁ。お口にちゃぁぁぁっく!
「黒いの?なんか美味しくなしゃそうね」
メグとしてはもっと反論したかったんだろうけど、咄嗟にテーブルの陰に隠れてたメグの袖を強く引っ張って止めたので、セーフ。
あ、いや、セシリオ様がメグの袖を引っ張っている私の手に思惑ありげな視線を寄こし、ニヤリと笑ったのが見えた。
一瞬だけど、ニヤリって笑ったよね?ね?怖いわぁ~。
「しかし、流石にクリサンテーモのダイニングで出されるお紅茶ですね。とっても美味しいです。どちらのお紅茶かしら」
こういう時には話題を変えるに限る!
私の唐突な質問にも、ホストを気取るアドリエンヌ様は「バラモンド地方のでしゅわ」と鼻高々~。
「じゃあ、そろそろ勉強するか。前のと同じ部屋を予約してある。30分くらいしたら別のスイーツを運んで来てくれ」と行きがけに給仕に命令して、闇王様がスタスタと応接室の方へ移動する。
やっぱりクリサンテーモの中でも闇王様は特別なのか、漏れなく全ての女子会員の目が闇王様の動きを追っていた。
今はまだ、直接私たちに何かを言いに来る会員はいないけど、このお三方がいない席だとどんな目に合わされるかと戦々恐々なのは私だけみたい。
勇者はどこまで行っても勇者なのね。
彼女たちの視線に気付いているのか気付いていないのか分からないけど、普段と同じ雰囲気で闇王様の後をついて行ってる。
私は少し遅れ気味だけど、あんまり彼らからはぐれると会員のお姉様方に囲まれそうなので、微妙に離れて微妙に近い位置を必死で探りつつ応接室まで移動した。