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昨日に続いて火魔法の講堂で魔法の合同授業だ。
闇王様はじめ高位貴族は観覧席だ。
「今日は魔法についての講義をする」と、昨日に続きドナルド先生が一歩前に出て授業が開始された。
「お前ら魔法ってのはどうやって発動するか知ってるか?」
ドナルド先生が講堂いっぱいに入ってる生徒たちを見回すけど、これだけ生徒がいる中で発言するのはどの生徒にとっても食指が動かなかったみたいで、誰も答えない。
「単位とイメージなんだよ、特にイメージな。それを今日の授業で理解してもらう為に、水魔法のマデレーン先生と土魔法のサーサラ先生に模範演技をしてもらう」
まずマデレーン先生が一歩前に出て「ウォーターボール」と唱え1つの水球が2メートル飛んで床に落ちた。
続いてサーサラ先生が「アースボール」と唱えると、先ほどのウォーターボールと同じくらいの土の塊が2メートルの距離で床に着地した。
「お前ら、これを見て何か思うところはなかったか?」
ドナルド先生が言いたい事をみんな分からずに頭の上には複数のクエスチョンマークが飛んでいるかの様だ。
かく言う私もみんなと同じだ。
「どちらのボールも数は1つ、2メートル程飛んで着地、ボールの大きさもほぼ同じだったはずだ。もっと言えば飛ばした方向も同じだった」
そう言われてなる程と生徒たち間でボソボソ会話がされ、一時講堂の中はヒソヒソ声なのにそれが集約されて結構な騒音となった。
「どうやって同じ様に発動したか、答えられる者はいるか?」
ドナルド先生は今回、周りを見回すなんてことをせず、まっすぐに高位貴族の子弟が座っている観覧席を見た。
闇王様がニヒルに笑い「それは条件を揃えたからです」と答えた。
「条件を揃えるとはどういう事か?」
「ボールの大きさ、数、飛ばす方向、飛距離をちゃんとイメージし、それから発動したからです」
「よぉ~し。よく出来た!そういう事だ。お前ら分かったか?」とドナルド先生は今度は演習場にいる平民や下級貴族の子弟を見て言った。
恐らくだけど、高位貴族の子は幼い時から家庭教師を用意され、魔法の極意みたいなものも既に教わっているんだろうと思う。
だから、ドナルド先生も最初からこの質問は高位貴族の子弟にしかしなかったのだ。
「今言った条件を揃えるというのを口に出して二人の先生に実証してもらおう。みんな、良く見とけよ」
「ウォータボール、1つ、直径10㎝、西に2メートル飛翔、スピードは速め」とマデレーン先生が声に出すと、前に向けて突き出された右手の先にウォーターボールが一つ徐々に形を成していき、その後、西に2メートル飛んだ。
「アースボール、1つ、直径10㎝、西に2メートル飛翔、スピードは普通」と今度はサーサラ先生が唱えると、先ほどのウォーターボールがマデレーン先生のウォーターボールと同じスピードで同じ地点まで飛んだ。
「え?速めと普通で飛ぶスピードが違わないといけなんじゃ?」なんて隣の生徒と抑えた声で話す生徒が結構いたが、「良いところに気付いたな。スピードは違うはずなのに、見た目は同じだったな」とドナルド先生は生徒たちのヒソヒソ話がちゃんと聞こえてるのか、話していた生徒たち一人ひとりに目を向けながら説明を始めた。
「速さには単位がない」
え?あるよね?時速とか分速とか、この世界ではないの?
あ、そうか。時計は高級品でまだ一般的じゃないし、平民なんかは大聖堂とかの鐘の音を基準に生活しているしね。時間の観念があまり発達していないのかもしれない。
日本だって時間厳守とか言われる様になったのは、前々世の明治から急にだったものね。
西洋の真似をしてからだった気がする。
「だから個人によってイメージしている速さが違うということだ。でも、ここで言いたいのは、単位が定められていて、お互い知っている単位であれば、効果は同じになるということだ。ボールの数、大きさ、飛ばす方向と距離、それらは二人の先生の魔法で全く同じだったろう?」
無言で肯首している生徒だらけなのに満足したのかドナルド先生は「だから魔法をちゃんと使いたい者は単位や数字等、その他にも自然現象なんかについても深く勉強する必要がある。単位がない物はイメージでそれを補う。そして!」と段々声を高めていって、一旦話を辞めた。
ぐる~っと自分の方を見つめている生徒たちの顔をゆっくりと見つめて「条件をちゃんと付ける事ができれば、新しい自分だけの魔法を作る事だってできるんだ!明日は新しい魔法の創造について教える。今日習った事をちゃんと復習して来る様に」と更に大きな声で話を締めくくった。