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「わたちもお勉強、ごいっちょちましゅわ」
何故か仁王立ちになり、上半身を後ろに心持ち反らせたアドリエンヌ様がクリサンテーモの応接室にいた。
そして何故か彼女は舌ったらず。
まぁ、年相応と言えばそうなんだけどね・・・・。
確か彼女の取り巻きの1人も舌ったらずだった気がする。
「お前は順位、相当低かったはずだ。オレたちについて来れないだろう?」
闇王様の睥睨するかの様な視線に晒されても、平気の平左なアドリエンヌ様、ある意味尊敬に値する。
「ちぇいちぇきを上げるためにも、お勉強、ごいっちょいたちましゅわ」
アドリエンヌ様に引く気は全くない感じだ。
闇王様もセシリオ様も途端に不機嫌になったけど、アドリエンヌ様を無視して来週も木曜にここに来る様にと闇王様からの死刑宣告が私たち二人に下された。
「お前は来なくていいぞ」とアドリエンヌ様にはキツイ一言があったけど、慣れているのか「いきまちゅわ」と普通に答えていたのは凄い!
来週ここへ来たくない。来たくはないが、もちろん、下々の者が闇王様に逆らうなんて出来ず無言で肯首したけど、メグと二人で平民クラスへ戻りながら何とか断る事は出来ないかと私の頭の中はフル回転だ。
しかし、ああ無常。
身分社会では上位の人たちに逆らう事が難しい。
色々考えても闇王様の命令を避ける良い方法が浮かばない。
「大丈夫だったかい?」
教室に戻った私たちにフェリーペとボブが駆け寄って来た。
「うん・・・・なんとか・・・・」
「面白かったよ」とは、家の勇者の発言だ。
そう言えば、メグってば、応接室でもあんまり緊張していなかったよね。
クリサンテーモの会員しか食べられない超高級なお菓子とお茶を出されて、めちゃくちゃ堪能してたしね。
もちろん、私も食べたけど、もう緊張であんまり味は分からなかった。
けど、あの甘く煮られた栗は別。めちゃくちゃ美味しかったなぁ。じゅるるる。
歯ごたえのある柔らかさは職人芸だなって思った!
今度、ウチの店でもあの栗真似てモンブランとか作ってみようかな。
マロングラッセをパウンドケーキやクッキーに入れてもおいしそう!
「おい、リア、お前どうしたんだ?ボウっとして」
「あ、ごめん。考え事してたの」
「ってか、どうだったんだよ?大丈夫だったのか?」
「最初、図書室へ行ったんだけど、話が出来る様にってクリサンテーモの食堂横の応接室に連れられて行ってね、そこで勉強会になったの」
「そうなの。お菓子が美味しかったなぁ~」
メグって、本当に物怖じしないのね。闇王様との勉強会の感想がお菓子って・・・・。
まぁ、クリサンテーモで出されるお食事とかスイーツは王都の中でも有名なお店のモノが多いからね。垂涎の的だよ。
でも正直言って、ウチの店のが数段美味しいよ。
「いいなぁ、僕もクリサンテーモのお菓子食べてみたいなぁ」
「いや、俺はリアんところのレストランの菓子、ごちそうになりたい」
「ええええ。ウチのは売りモン・・・・」
おい!お金払って食べたいじゃなくって、ごちそうになる前提なのかよ?
親戚相手にまで普段から丁寧な言葉遣いを心がけていたのに、闇王様ショックなのか、つい頭の中では乱暴な言葉遣いに。
こういうのはそのまんま口に出てしまう事もあるからね。気を付けよう。
結局、来週木曜にも呼び出されている事や、アドリエンヌ様が乱入して、来週は強硬に参加を表明している事を説明したら、案の定、ボブたちに心配された。
「意見交換、面白かったよ~」とは勇者メグのお言葉。
「私は生きた心地がしなかったよ。何時、闇王様の逆鱗に触れるかと冷や冷やしてたよ」
「えええ?リアは緊張してたの?」
「いや、私でなくても、闇王様に呼び出されたら皆、もれなく、絶対、必ず緊張するって!」
「え?どして?」
「メグ、もしかして闇王様っていうあだ名知らなかったりする?」
「いや、流石に知ってるよ。この前リアが教えてくれたじゃん」
「教えてあげたのに、緊張しないの?」
「え?だって王族でもないし。一緒に勉強したいってだけでしょ?まぁ、お貴族様だから失礼な事はできないなとは思うけど・・・・」
「え?遠足の時、メグもめっちゃ緊張してなかった?」
「あれは・・・・相手はお貴族様だったし、あの女子生徒が相当怒ってたみたいだから緊張したよね」
え?相手が闇王様やアドリエンヌ様だから緊張したんじゃなくって、ただ単に貴族が激おこだったから緊張してただけ?
あの時は闇王様たちが怒っていたのではなく、アドリエンヌ様のお取り巻き2名が激おこだったんだよね。
てことは、メグは闇王様たちにビビってたんじゃなくて、あのキンキン声の取り巻きにドン引きしてたんだ。
私だけじゃなくフェリーペやボブまで彼女の顔をガン見しているのは、恐らく『こいつもしかして大物?』と思ってるんだと思うよ。
「とりあえず、来週で勉強会も最後にしてもらえる様に頑張ろう!」と私が両手を握り拳にして立ち上がると、「そうだね」と穏やかにメグが同意してくれた。
メグ、同意してくれて、ありがとう。
絶対だよ。来週で最後にしようね!