14
「オレ、図書室って初めて来た」
え?意外。闇王様専用の図書室スペースとか持ってそうなのにね。
学園の図書室は教室棟の食堂の2階で、古めかしい感じの木の内装と夥しい数の本棚、本の匂いがむわっとする程漂う何とも落ち着いた空間だった。
等間隔に設けられた窓の前にはいずれも6人掛けのデスクが並んでいるんだけれど、ちらほらしか生徒はいない。
まだ入園してそれ程時間が経ってないから、恐らく今ここにいるのは上級生のみなんじゃないかな。
「アディ、こっちの机なんて静かでいいんじゃないか?」
「ああ、オレはそっちでいいぞ」と、私たちの意見等聞かれる事もなく、一番奥まったところにあるデスクに座らされて、「よし。じゃあ始めるか」と闇王様が鼻歌交じりにノートと教科書を鞄から取り出した。
闇王様、ここ図書室です。
ご利用はお静かに、何て思うけど、小心者の私にそれを口に出して言う勇気はない。
「図書室は声を出してはいけないので、歌はちょっと・・・・」
うおぉぉ、勇者メグ!ああ、言っちゃったよ。
そんな勇者からの諫言をスッと受け止めた闇王様。
「おっ、そうなのか。オレん家の図書室しか使った事がなかったから、そんなルールがあるとは知らなかった。セシリオ、お前ルールがあるって知ってたか?」
「いやぁ、家の図書室も家族しか使わないから・・・・。一般の人が使う図書室ってみんなこんなルールなの?」と麗しくも艶やかな笑顔を勇者に向けた。
「そうですよ」とメグもニコニコ。
私のお友達って勇者だったんだぁ・・・・。
しかし、セシリオ様、今更ながらだけど、闇王様を愛称で呼べるのね。アディだって。何かえらく可愛い呼び方じゃん?
学園ひろしと言えど、闇王様を愛称で呼べるのはあなたしかいないよ。
でも、セシリオ様には愛称がないんだね。
って、そんな益体も無い事を考えていたら、闇王の奴、爆弾発言をしてくれやがりました!
「そうか、じゃあ、クリサンテーモの方にするか。あっちなら声を出しても誰も何も言わん」だって。
誰も何も言わん?そりゃそうでしょう。学園内であなたに意見できるのはウチの勇者くらいのものだと思うよ。
図書室だけじゃなくってクリサンテーモ内でもそんな事が出来る人はいないと思う。
図書室で声を出したり、鼻歌を歌ったり、部外者を入室が厳しく管理されているクリサンテーモに、それも平民を連れて入れるのはあなただけでしょう・・・・。
ってか、ちょっと待って!
そのクリサンテーモにドナドナされるのって、ウチの勇者と私なのーーーー!?
勘弁しちくれぇぇ。
私の心の叫びを知る由もない闇王様たちは、ちゃっちゃと私たちをクリサンテーモの食堂に併設されている応接室へ引っ張っていった・・・・。
この前の呼び出しの時に使われた部屋だ。
元々部屋の中央にあったのはコーヒーテーブルとソファーだったのに、「勉強するにはデスクがいいな」との闇王様の一言によって、常に待機しているクリサンテーモ区域の使用人たちがちゃっちゃと模様替えしてくれた。
本当にあっと言う間だったよ・・・・。
「よし!じゃあ、勉強しようぜ。お前らいつも使ってる問題集とかってあるの?」と真面目に勉強する気の闇王様は自分のノートと教科書を取り出した。
「いえ、私は学園の教科書しか使ってないです」と勇者が普通に答えている。
「私も・・・・」
「僕も教科書だけかな。ってか、授業以外で勉強はしないからね」なんて、セシリオ様は爽やかにおっしゃいました。
実は私もそうなんだよね。
あ、メグも無言で頷いているから予習復習はしない派なのね。
「まぁ、オレもそうだな」なんて闇王様がおっしゃる。
「んじゃ、今から何を勉強するんだい?」とセシリオ様が言ってくれて、我が意を得たりと思ったけど、それを己の口から出して言う勇気はない。
もう勉強するモノが無いなら解散で良いのでは?
結局、4人共授業以外では勉強しないということで、勉強会が急遽意見交換に変わってしまった。
「お前たちは商人の出だな。なら、商業について話そうぜ」と宣った闇王様の一言に合わせて商取引の慣習や、今どんな商品が狙い目かとか、商業を発展させるために貴族として何に腐心しなければならないかという話題になり、思いの外話が弾んでいたところ、突然「バターン」と派手な音を立ててドアが開けられた。
「アドルフォしゃま、こんな所でこの様なちもぢもの方たちと何をなしゃっていらっちゃいますの?」
アドリエンヌ様が獅子の鬣の如く豊かな髪をバサっと手で後ろに払って仁王立ちされています・・・・。
「第一、クリシャンテーモは一般しぇいとの入室は禁止のはじゅでしゅわ」
何かをしている時、アドリエンヌ様が突然現れる事に慣れている感じの闇王様とセシリオ様は無言だが、メグと私はビビりまくった。
ノックすらなかったよね?
「別に一般生徒をクリサンテーモの会員にしたわけでもないし、応接室に招いただけだから規定に違反はしていませんよ」とセシリオ様が木で鼻を括った様な感じで言い返していたけど、アドリエンヌ様の怒りは二人ではなく、私達の方に向いちゃったみたいで、メグと私をこれでもかと睨みつけて来た。
闇王様に片思いしているアドリエンヌ様の前で、女子生徒(この場合、私達二人のことだけど・・・・)と密室(応接室とも言う)にしけこんでる(意見交換をしていただけ)現場を見られたという・・・・。
これからアドリエンヌ様より死刑宣告が発せられそう!
うわ~ん、絶体絶命だぁ。