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結局私達4人は全員錬金術クラブに入部する事にした。
錬金術クラブにも少人数の貴族はいるけれど、上位貴族ではないし、職人と同義である『錬金術師』を目指す様な貴族はそもそも身分に拘らない人が殆どだから付き合い辛いということもない。
つまり貴族としては変わり者しか入部していないと言う事だ。
ちらっと自分たちで料理クラブっていうのを立ち上げても良いかもと思ったけど、魔石を使った調理器具の作り方を学べるこの機会を棒に振る事はできないじゃん。
今だっていろんな物の製作を外部に頼むととんでもない金額になっちゃって、大公様へお返ししなければいけない額がうなぎ登りなんだから、全部自分で作れる様になったら素材の代金だけで済むから安上りなんだよね。
何よりこの世界の技術者に頼んでも現代地球の技術程の物は出来ないが、スキルを使えばその技術を再現できるので、色々便利!
それに技術の流出を恐れながら魔石結合部分だけ外部に頼むよりは、全部自分でやった方が自重せずにいろんな器具を作れる様になるしね。
学ばないなんてお馬鹿さんのすることよね。
まぁ、ここで学べれば、今まで依頼してた錬金術工房からの、あの機械部分を誰が作ったのかの追求の手を気にしなくて良くなるしね。良い事尽くめだ。
「うわぁ。先輩、これ何って言う粉なんですか?」
「ん?これは硫黄って言うのよ。すごい匂いでしょ」
人懐っこいメグは入部早々部長のサラサ先輩にだだっ広い部室の壁際に設けられている資材置き場の前に立って色々質問している。
本当に好奇心旺盛で、入試の成績が良いのも分かる感じ。
こういう色んな事に興味を持って、人に聞いて、それでも分からなかったらちゃんと自分で調べる人って当然知識が豊富になるよね。
流石メグだよ。
また、メグは可愛いのだ。
ニッコリ笑った顔は写真にとっておきたいぐらいだよ。
写真の技術はまだこの世界には無いんだけどね。
錬金術クラブに入部した事をフェリーペやボブもめちゃくちゃ喜んでくれて、授業もクラブも、食事もいつも4人で行動する様になったのは自然の成り行きだと思う。
「お!お前ら早いな。感心感心」と、天使の様な美貌のオスカル先輩が部室に入って来た。
オスカル先輩は王都の材木商の次男らしい。
そして既に婚約者がいるらしいが、その婚約者は学園には通っていない。
だからお相手がおらず狙い目として女生徒に認識されているらしく、時々部室にいると、先輩を呼び出したい部外の女子に呼び止められる事がある。
面倒臭い・・・・。
フェリーペもイケメンだけれど、オスカル先輩の場合は美術的にイケメンと言いますか、目や口のパーツの大きさや配置がもうドンピシャリって感じで、男性女性関係なく美しいと思うであろうご尊顔でございます・・・・。
目が、目がぁぁぁ。眩しすぎて目を開けていられない。
私は前々世では両想いの相手とは身分違いで結婚を許されず、結局恋の相手は華族のお嬢様と政略結婚し私とは結ばれなかったし、前世では恋愛結婚をしたけれど、一度だけだが夫に浮気をされた。
こんな経験があるので、現世ではあまり恋愛をしたいという気持ちは無い。
薄らと男性への嫌悪があるんだろうねぇ。ん、嫌悪感よりは不信感かな~。
でも、オスカル先輩のお顔を見るとドキドキはしてしまうんだよねぇ。
あ、でも、これは絶対恋愛じゃない。
美しい異性が側にいると感じる類のドキドキなだけだよ。
逆に言えば神々しいまでの美しさで、かえって恋愛感情を持ちづらいとも言えると思う。
だからメグも「綺麗な人だね~」と言いつつも、ときめいている感じではない。
「さあ、新入生のみんな、錬金術の手ほどきをするのでこっちのテーブルに集まって~」とサラサ部長が声を張り上げている。
今年新入生で錬金術クラブに入部したのは、私たち4人の他には魔石を使わない道具を作るのが好きなランビットという平民と、上級貴族と下級貴族の男子生徒がそれぞれ1名づつ。
ちなみにランビットは同じクラスの魔法スキルを持っていない2人の内の1人だ。
部長のサラサ先輩は商家の娘でしっかり者。3年生だ。
その他にもタチアナさんという2年生の貴族女子がサラサ先輩と一緒にテーブルに着いており、1年生の教育係よろしく色々教えてくれる。
まっすぐな黒髪で灰色の目をしたちょっと見、日本人形に通じる楚々とした美人である。
タチアナ先輩の父親は趣味が錬金術らしく、彼女自身も幼い時から錬金術に馴染んでいたのと、水と土という2つの魔術スキルを持っているのでそれを活かしたいとのこと。
「私、卒園後は結婚が待っているので、学生時代しか錬金術ができないんですの。だから、在学中は学問よりも錬金術に力を入れたいと思っておりますの」と、小さな子供の声なのにしっかり貴族的な言い回しができているところは貴族家の教育の賜物なのかな。
1学年上なだけなので、モノの感じ方とかそんなに私たちと違いはないと思うんだけどね。
政略結婚に忌避感が無いのって貴族が自分たちの娘へ施すある種の洗脳なのかもしれない。
いやいや、前々世の大正日本でも親が結婚相手を決めたり、相手と会うのは結婚式でっていうのは良くあったから特別な事ではないのかもしれない。