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フローリストパークの店長

「売上はまぁまぁだが・・・・フローリストガーデン 光に比べたら全然低いと言わざるを得んな」

「はい」


 私はトーマス。

 下級貴族の6男だったが長兄が家を継いだ後、冷や飯食いはとっとと出ていけとばかり、実家の居心地が悪くなった。

 後継ぎが出来るまでは次男はまだ長男の控えとして実家に住めるが、3男から5男の兄貴たちも俺と同じ様にして家から追い出されかけた。

 ただ、追い出されるとしてもどこへ行けば良いのか行先のない兄弟たちは実家にしがみついているけど・・・・。

 そんな中、私はとある侯爵家の話に乗って、新設のレストランの雇われ店長となった。


「料理人はこちらで手配したし、箱もこちらで作ったので全て揃った状態だ。今人気のウエイトレスの制服も真似てみた。後は貴族然とした店長が欲しかったので家の寄子であるお前の家に声を掛けたんだ」

「ありがとうございます」

「だと言うに、あちらより売り上げが下とは・・・・。何とかしろっ」

 侯爵様のするどい眼光が私をねめつける。

「す・すみません。はいっ」と答えてみたものの、別に案があるわけではない・・・・。


 侯爵様のお陰で私は漸く実家を出て独り立ちすることができた。

 全ての用意が整っており、貴族然として振舞える男を頭に据えたいだけという話は如何にもおいしい話に見えた。


 美味しい話には裏がある。

 この侯爵様は大公様に何かと対抗意識を持っていて、大公様お声掛かりの店の営業を邪魔したいらしい。

 つまり、その店との競争に勝つために私を雇ったとのこと。

 貴族然としておけば良いんじゃないのか?

 いつから営業成績の責任を取らされるって話になったんだ?

 店長とは名ばかりのお飾りで良いと思っていたのに・・・・。


 ただの貴族の子息に店の経営云々が分かる訳がない。

 しかも結構な売上げが出ているのに、侯爵様はご立腹なのである。

 箱ものやスタッフは侯爵様の方で揃えてもらっているから金に糸目を付けず一流のモノばかりだ。


 しかし、しかしである。

 先方の料理は珍しいモノばかりで、庭については馬車駐めはないものの、温室なるモノまである。

 庭園はウチの方が広いが、温室がないので雨の日や寒い日の客足は落ちる。

 しかも二番煎じなので向こうの方が格上という目に見えないハンディがある。

 だって、あっちが格上なんてどこにも書いてないし、誰かが正式にその様に決めた訳ではないので、一度そういう格付けがなんとなくされてしまうと、それを覆すのは至難の業だ。


 私は考えた。

 まず料理を何とかしなくてはと。

 しかし、あそこの店で働いているのはみんな同じ一族の者らしく、誰もウチのオファーには興味を示さなかった。

 そこで()()()を雇い、その店で出される料理について調べてもらった。

 といってもどんなメニューがあるのかと、その味について知る事が出来ただけだ。

 なんの事はない。普通にお客として行ったら分かる事だけが判明したに過ぎなかった。


 でも、塩釜焼きというのは塩に卵白を混ぜて焼くとウェイトレスが説明してくれたので、ウチでも見よう見真似で作ってみた。

 結構おいしいモノが出来たが、その他のメニューは真似する事が出来なかった。

 特にデザートはお手上げの状態だ。

 カービングされたフルーツくらいならなんとかなるが、あんな洗練された焼き菓子はウチの料理人では無理だ。


 しょうがないので、カクテルと呼ばれるお酒をウチでも作る事にした。

 真似る事ができないので、ウチのバーテンダーに研究させて独自のカクテルを2種類作る事に成功した。

 これはまぁまぁ人気がある。


 でも、やっぱり料理全般があっちに比べれば落ちる。

 ウチでは以前貴族家で料理を作っていた料理人を引き抜いて来たのに、比べると落ちるのだ。

 まずアイデアが違う。あっちのソースなる汁をいろんなものに掛けている皿は、全く新しい料理だ。だって今まで見た事がない。

 (きん)と同じ値段で取引される胡椒もふんだんに使われているみたいだし、その他の調味料も食べた事がない物ばかり・・・・。

 どこから仕入れてくるのか調べても全然分からなかった。


 料理もだが、あっちの食事の〆に出される焼き菓子は大人気だ。

 お茶の時間もその菓子目当てにたくさんのご婦人方があの店を訪れる。

 侯爵様はお茶の時間の売り上げを下げさせようと、あの店の卵を運ぶ馬車を襲わせたらしい。

 でもどういう訳か卵を奪い取っても焼き菓子は滞る事なくサーブされていたらしい。

 

 結局ウチは二番煎じであっても、それなりの売り上げは出ているのだから、侯爵様は良しとしてくれないかなぁ・・・・。

 元々侯爵様は大公様の精鋭集団の医師の一言で、自領で栽培していた薬草が売れなくなったのを逆恨みしているらしく、どうあっても大公様に一泡吹かせたいらしい。

 しかし、薬効があると言われていた薬草が実はただの雑草だったとしたら、そんな雑草のエキスを飲まされないで済む患者にとっては万々歳なんだけどね。

 なんでも雑草だと見破ったのは魔法で薬品を作る医者で、平民だったのを大公様が援助されたとのこと。


 私が侯爵ならとっとと別の収入源を探して領地を盛り上げると思うんだが・・・・。

 こんな状態なので、ちゃんと売上げがある店を経営しているのに、いつもお叱りを受けてしまうという不思議な職に就いてしまったのは己の不運として諦めるしかないのか・・・・。

 ふぅ~。

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― 新着の感想 ―
勝ち負けを考えなければ、それなりの売上をあげていれば良いと思うけどな。 味で勝てないなら (2色のスープを言い出したおばさんみたいに)色彩センスや発想力がある人を雇って、ひたすら映えにこだわってみる…
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