色々あったけど。
結婚式をする日は、ほどほどの晴れだった。
まだ、準備があるから出てこないでと念押しされてルーベンス様と控室で待っている。
外からは街の喧騒が聞こえてくる。今日は特に騒がしい。
「大丈夫かな」
「先に喧嘩とかはない、と思いたい」
二人でそう言って苦笑する。
「それにしても、ルーベンス様はなんでも似合いますね」
ルーベンス様は華美ではないが仕立ての良いスーツっぽい服だ。夜会服とも思ったが、昼間だし、そこまで改まった場でもないのでこういう服装になった。
トルソーにかかっていた時にはかっこいい服だと思ったが、ルーベンス様が着るとオーラに負けてる気がする。
顔が良いだけでなく、体もいいのか。
パーフェクトでは?
「アイリスもきれいだよ」
「ありがとうございます」
私のドレスは、結婚式と言えば白だというみんなの意見を反映して白いドレスだ。細かいレースで飾られている。白いドレスというのは女王陛下の時代からメジャーになった習慣らしい。
ただ、一色では地味という認識があるらしく宝石とかつけようとされてどうしようかと思った……。断ったらその代わりと言わんばかりにネックレスには王家ゆかりのものを用意された。
女王陛下の真珠のネックレスですって! 首に国宝とか気が重い。日常使いのお気に入りの一品という付加情報もなんか……。
いやいや、そこを気にしてはきっとダメだ。もしかしなくても、時々やってきそうな気がする。この王家の品々。
平気ですって顔を……むりだ。大したものじゃないとか基準が違う。やっぱり王子様は王子様だった。
なんてことを考えている間、ずーっと視線を感じている。
「……なんですか?」
じーっとルーベンス様に見られて仕方なしに問う。ほっとくと穴が空くほどに見られそうだ。ただ、理由をきいても何一つ解決しないだろう予想はついている。
「キスしたら、怒る?」
「きれいに作ったんで、怒ります」
化粧は落ちるだろうし、結い上げた髪にほつれでもできたら、私も怒られる。
仕方ないと言いたげに手にキスされるのはなんだろうか。様になるんだけど、心臓直撃というか動悸と息切れが。
それからほどなく準備ができたと控室に呼びにきた。
ルーベンス様にエスコートしてもらいながら、会場に向かう。外はやや曇りで過ごしやすい日になりそうだ。
私たちの結婚式の会場は教会ではない。
元々お金のある人がやるようなことらしい。教会の権威とかいうより、今までの慣例でやっているというところだ。
歴代の王の戴冠と結婚式を取り仕切ることにより権威を守っていた教会ではあるが、今は大人しいものである。
それというのも先代の女王陛下が人と結婚をしなかった。さらに戴冠式を別の場所でやった。
その場所とは王家の墓。
王となり、国と結婚し、この国を守ると祖先たちに誓った。
墓は教会の管轄でもあったが、王家の墓は違う。王家のものが死しても国を守るためにいる場所とされる。安寧の場所ではないのだ。
その場所は今は、年に何度か見学が許される。女王陛下マニアの聖地巡礼コースに入ってるらしい。それはもう熾烈なチケット争いが繰り広げられるが、私はコネで他の時期に入れてもらった。
白い冷たい場所だったが……。
陛下の名誉のためにも墓に刻まれたあれやこれやについては何も言わないことにしている。生前にめっちゃ準備してたと思う。そっかー、陛下の推し、あれかーとか思ったけど。
その後聞いた生前の逸話として断頭台を徹底的に破壊しつくしていたというところから何かを察して余りあるところがある。
首落されるのは、やだよなぁ……。
そんなこんなで、王家の血を引いていてもどこで結婚式しても自由になっている。
なっているんだけど、実現させておいて今更ちょっと気が引けている部分がある。
娼館の前の通りを封鎖して簡易的な式場にしている。
出会った場所であり、大体過ごした場所で、ルーベンス様も店主であるし、この辺りの住人も昼間ならばやってきやすいだろうと思ったのだが。
やっちゃったかなぁ……。
婚姻届けを受理する役人も来てもらって、皆の前で書いて提出することにもなっている。
やっぱり、もっと質素にしてもらえばよかったかな……。
書類書くだけの式ってどうなのか。ちゃんと楽しんでもらえるだろうか。
そんな感じに控室から会場に向かう途中で多少気になってしまった。
どんよりとした雰囲気を感じたのだろ。ルーベンス様が顔を覗き込んできた。
「緊張してる?」
「それはもう。書き損じしそうです」
「何枚かは用意していると思うけどね」
恥ずかしい思いはしそうで、結婚式の話をするたびに擦られそうなネタになる。
大丈夫と気休めの慰めを受けている間に会場の前に立った。花嫁が暗い顔をしているわけにもいかないので顔をあげてあたりを見回す。
孤児院の子が花を入れた篭をもって左右に列を作っている。
その後ろをシスターたちがそわそわして見守っていた。少し年かさの子もぴしっと整列して、楽器を持っている。
「……聞いてませんが」
「秘密にしてくれと言われた」
くっ。しょっぱなから涙腺を崩壊させに来ている。
子供たちが降らす花弁とぎこちないが一生懸命な演奏とともに会場入り。歓声とともに迎えられた。
会場の真ん中に用意されている大きなテーブルに向かう。そこにはラント夫人や妹様たちと……。
「陛下がいるのは?」
「俺も知らなかった」
そこらへんのおっさんのようで、おっさんではない王様がいらっしゃいます。一般国民を装うのがうまいというか、ほんとに普通のおっさんな感じだ。
驚いた我々を見て得意げである。隣にいるラント夫人がやれやれと態度でしめしていた。ラント夫人、意外と陛下に甘いんだよね。
ただ、これ、貸しにしとくわとか言いそうな感じなので愛情的ななんかとは違う気もしている。
私たちがテーブルの前につくと役場からやってきた役人が声を張り上げて静かにするように告げる。それを合図にしたように静まった。
「これより、婚姻届けに記載し、提出することにより夫婦として認めることになる。
皆が証人である」
静まったので彼はこれから何をするか遠くにいる者にも伝わるように頑張って声を張り上げて説明する。
それが終わってから私はほぼ記載済みの書類に名前を書く。ルーベンス様も続き。それから、証人としてラント夫人と陛下が記載した。
ふぁっと役人が二度見したのは、陛下のせいだろう。知らなかったし、気がつかなかったらしい。
そこは根回ししといたほうが良いのでは……。
何か言いたげに陛下を見た後に、役人はどうにか気を持ち直したようだ。すごい胆力だ。
「これで婚姻が成立したことを認める」
その宣言をして、役人は婚姻届けを箱に納めた。これから役場に保管されるのである。移動中に盗難にあわないか不安ではあるが、その時はもう一度こっそり書けばいいのだ。
私たちは顔を見合わせて、皆に向き直った。
そのまま一礼する。
何か言おうかとも思ったが、すごく長くなりそうなので簡単にすませることにしたのだ。あとは個別に話をするつもりである。
歓声が聞こえてきて、なんだかほっとした。
そう思って油断してたら、ルーベンス様に抱きしめられていた。
盛り上がる周囲と無責任なキスコールが!
「しませ、ちょ、まって」
「期待されてるんだから仕方ない」
……なぜ、雄な感じの色気溢れてるの。恥ずかしいと無駄な抵抗をしてみたが、敗北した。過剰、過剰な色気がダメだ。捕食される絶対と感じさせるなんかがあった。
そのわりにキスは優しく軽いもので疑問に思えば、あんな蕩けた顔、人に見せたくないとか囁かれた。
……そんなまずい顔してるんか。
している気もしないでもない。
まあ、いいか……。いいことにしないとおうち帰りたくなる。恥ずかしい。
そこからは料理や飲み物が振舞われ、宴会のような流れになっていった。立席パーティーのようなものだからね。
それを眺めていると色んな事があったなと思い返す。
「ほんと、ようやく、この日がきたね」
「そうですね」
ルーベンス様がしみじみとそう言うのがおかしくて笑ってしまった。呆れたような視線が向けられた。
おまえのせいだと言いたげで、ちょっと心外である。
「始まりは、身売りで出会った」
「ですね」
「そこからアイリスは離婚して、母に使われて、倒れて」
「そんなこともありましたね」
「借金減らそうとか言うと私の価値を低く見積もらないでくださいって怒るし、意味わからない」
「そうでしたかね?」
「好かれてるのか全くわからないままに二年も過ぎて」
「好きとか言えば、押し切られそうでしたからね。
返済終わったら返答しますっていうのに、結局、途中で婚約しましたし。なんだか、もやっとするところはありますよ」
「ごめん」
「いいですよ。どこのがいいのかわかんないですけど、私のことすごく好きなんだろうなって感じたので」
「今は愛してるかな」
「私も愛してますよ」
「実感ない」
「これから思い知ってもらいましょう」
もらったぶんの好きと優しさとその他いろいろ。ちゃんと返していきたい。割増しで。
ルーベンス様は、驚いたように目を見開いてから、優しく笑って。
「楽しみにしてる」
そっとキスをしてくれた。
ひとまずはこれで終了です。
読んでいただきありがとうございました。




