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離婚してくださいませ。旦那様。【連載版】  作者: あかね
入れ替え令嬢は社畜になりたい!【藍里編】
14/27

呪いの非通知

 明日から週末。待ち望んだ、週末!

 定時に、定時に退社しますよと念押しした本日、金曜日。残業も休日出勤もお断りして、早めに退社して外に出る。

 まだ世の中のお店があいている時間。今日こそはと思う買い物があるのだ。

 歩きながら明日の遊園地の待ち合わせの確認の連絡でも入れようかなとスマホを取り出す。


「あれ?」


 スマホに着信履歴が残っていた。仕事中は基本的には鞄の中だから気がつかなかった。

 昼過ぎから非通知で10件。

 同じ相手なら不気味な数だ。

 天使様はちゃんと登録したし、非通知でもないから違う。


「んー」


 まあ、あとで考えよう。今は、天使様への連絡が最優先だ。


『仕事終わりました。

 これから帰ります。

 明日。

 駅前で八時待ち合わせですよね?』


 送信。

 そのまましばらく待ってしまったが、もちろん既読はつかない。使い方が慣れてなさそうだったから夜まで返信が来ればいいかとスマホをしまう。

 私は機嫌よく足を踏み出し、すぐに立ち止まりました。

 さっきしまったばかりのスマホが震えている。


「……うーん」


 見れば非通知。出るか迷ったものの面倒ごとの予感がするので後回しにしたい。

 しばらく執念深く震えていたけど、留守電に切り替わった。なにか入ってるかもしれないし、あとで聞いてみよう。


「どうしたんですか? 先輩」


 そうして立ち止まっていたのが気にかかったのだろう。声をかけられた。


「謎の非通知がね……。佐藤君も今日は残業なし?」


 声をかけてきた後輩君も帰るところのようだ。彼はすでに独り立ちしているので、私の残業なしが影響することはない。多少はあるかもしれないけど、週明けに確認すれば済むことしか残っていないはずだ。

 だから、彼も普通に残業をしない日にしたのだろう。


「え、ああ、そんな感じなので、ごはんでも」


「ごめんね。今日こそはセールに滑り込まなきゃいけないの」


「セール?」


「コート。欲しいのがあって。じゃあ、月曜にまたね」


 そう言って、私はショッピングモールに急いだのだった。会社近くにほどほど大きいものがあって良かった。秋冬向けのコートが欲しいのに先送りしていた結果、セールの時期までやってきてしまったのだ。インナーで調整も限界があるし、どうせなら新しいものをきてお出かけしたい。

 家にあるのは着れるけどよれよれすぎる。残されていた服を見ると姉様は服装にはあまりこだわりがないように思える。それくらいクローゼットも必要最低限しか揃っていなかった。買いに行く暇もなかったのかもしれないけれど。


 何件かお店をまわり、モッズコートとスタンドカラーコートを無事購入。これでこの冬は暖かく過ごせるとほっとしたところでお腹が空いたことを思い出した。


 いつもならコンビニの新商品を楽しんでいるが、今日はどうしようか思案する。寒くなってきたからラーメンというのもいいかも。

 時々行くお店を覗いてみれば新商品が出ていた。早速、入店からの食券購入を流れるように済ませ出来上がりを待つ。


「……うーん」


 待ち時間にスマホを見れば非通知が3件増えた。スマホは鞄の中に入れっぱなしなので気がつかなかったのだが、これはかなり不気味だ。

 天使様からは普通に返信が来ていた。ちょっと遅れたらごめんと可愛いスタンプ。にやにやしてしまうが、ここには知り合いもいないしいいだろう。

 という気分を台無しにするような非通知の電話。

 振動してテーブルの上を微妙に移動している。出るべきだろうか。


「おまちどう」


「ありがとうございます」


 悩んでいるうちにラーメンがやってきた。

 新作の野菜タンメン。ショウガ増量が優先だろう。伸びちゃうし。

 非通知電話は後回し。どうせ後でまたかかってくる。あきらめたらそれでもいいし。


 それにしても誰だろう。姉様と私が入れ替わってから付き合いのある人は変わった。快気祝いで友人たちが集まってくれたが記憶がないので昔話にも乗れず、相手も気を使うのか二度ほど集まりに呼ばれてそれっきりだ。まあ、こちらも対応に窮したところはあるので良かったところではある。

 変わらないのは道場関連の人たちくらいだろう。こぶしで語り合えというのは野蛮な気がするけど。あの人たちはわざわざ連絡するようなことはない。


 そうなるとわざわざ連絡を執拗にしてくる相手というのにも心当たりは……。


「あ」


 ブロックしたのが二人いた。

 今はもう退職した後輩と元彼。元彼のほうは他の支部に移動となったらしくいつの間にかいなかった。復縁要請はあの一度きりだったので放置していた。というより興味がなかった。

 お仕事も推し事も忙しかったから。


 タンメンの野菜をもしゃもしゃ食べても他の心当たりは出てこない。野菜に続いてずずっと麺をすすればショウガのいい香りが鼻を抜けて……。その後は何も考えずに食べることにした。ごはんに失礼だ。

 スープは飲み干さないようにと妹様から言われているので、半分だけ。いや、でももうちょっとと未練がましく見ているそばで、下げられしまった。


「プリンお出ししてもいいですか?」


「すみません。お願いします」


 古式ゆかしき硬いプリン。という商品名の一品を五口で食べきって私は立ち上がった。大事なお出かけの前なのだから次に電話が来たら受けて立ってやろうと思ったのだけど。

なぜか、そういう時にはかかってこなかった。


 翌日。出かける前に最終チェックと思って鏡の前に立つ。

 首元まであるグレイのセーター、スキニージーンズ、モッズコートでカジュアルなお出かけコーデのつもりだけど、良いかどうかは全くわからない。

 緊張してきた。もっとかわいいほうがいいような気がするがいやしかし……。しばしどころではなく、悩んだ末にそのまま行くことにした。

 肩掛けの鞄を持ってスニーカーを履いて外に出る。


 遅れるかもと言っていた天使様は先に待ち合わせの場所についていた。落ち着かなさそうにしているところはとても微笑ましい。


「おはようございます」


「おはよう。じゃあ、行こうか」


 並んで駅に向かう。こぶし二つ分の距離が限界だ。手を握る? ありえない。

 推しは推しでありですねと誰かに訴えたくなってくる。天使様はそういうのは全く気にしていないようで、ふつうなのだけど。

 天使様は今日は黒いシャツにデニムと私のものによく似たコートを着ている。


「て、ええと、零もそのモッズコートなんですね」


「欲しかったのはサイズが合わなくてこれも前閉められない」


「天使様は大きいですものね」


 胸筋が。腕回りも言われてみればちょっときつそうではある。

 胸元に視線を向ければ最近仕入れた仁王様についての豆知識が脳裏をよぎる。私は笑顔を維持した。そんなことを言いだしたらまごうことなき変態である。


「もう少し小さくして来ればよかった思っているよ。選べる服とか色々影響が出るとは思っていなかった」


「サイズ変更できるんですか?」


「休暇用の体を別に用意してそこに意識を載せている感じかな。

 元々の姿では影響は大きすぎるし、次元を落とすのは元の体に影響が大きすぎる」


「そうなんですね」


 そんな話をしながら駅の改札をくぐり、ちょうどきた電車に乗る。三つ先に途中乗り換えがあるので、立っておく。


「そういえば、休みの日のこの時間の電車って混んでないよね?」


「場所によりますが、遊園地に近づくと満員になるでしょう」


 有名な遊園地の開園時間に合わせていけばそうなる。

 天使様は渋い顔をしていますが、こればかりは仕方ないことだ。誰だって朝からいっぱい遊びたい。

 今日の場合は乗り換えしたあとから混みそうだなと思う。


「藍里は小さいから潰されないか心配」


 ……。

 くらっとしたけれど、頑張って持ち直した。手すりがあるのが、いい感じだ。


「天使様に比べたらだれでも小さいですよ」


「……そうだね。

 そういえば、練習するって言ってしてなかった」


「はい?」


「乗り換えまで暇だから」


 優しげに見えてなにか危機感を覚える笑顔だけどどうしたのだろうか?


「天使様じゃない。

 零だ」


 ぎこちなくも言えるようになるまで、言わされた。名前とはそう強要されるものではないのではないかと訴えたが却下された。

 ……まあ、確かに私も天使様なんて呼ばれるのはちょっとと思うところはあるのでがんばった。

 でも、メンタルを削られた。

 ごりごりに削れた。


 たいそう満足そうな天使様を恨めしく見上げるのだけど。


「……ん? なんか電波。着信してない?」


「電波って……。あ、ほんとだ」


 例の非通知。そろそろ次の駅について乗り換えだが、電車の中で出るものではない。と言い訳して黙殺した。

 天使様が降りたらかけなおしたら? と配慮してくれるけど。


「非通知なので、次の機会があったら」


「気が進まないならブロックしたら? 着信あるだけでも気になるし」


「ですかね」


 言われてみれば真っ当な対応ではある。非通知は着信しない設定もあることだし、この件が対応終わったら変更しよう。

 それからしばらくして留守電にメッセージが残っていると通知もやってくる。一応、これも聞いたほうがいいかも?


「良ければ確認するよ」


「いえ、自分で聞いてみます」


 気が進まないのがダダ漏れしていたようで天使様も心配顔になってしまった。これではいけないと自分で確認することにする。

 そう言えば昨日も聞いてみようと思って忘れてた。クローゼットをひっくり返して明日のつまり今日の服を選ぶことに忙しかったのだ。元々決めていた服装もなんか気に入らず……。

 電車を降りてスマホを操作して留守電の内容を聞く。


「……なんでもありませんでした」


 にこりと笑顔で報告することにした。


 なぜいまになって元彼におまえのせいで人生台無しになったから責任をとれ、慰謝料払えと喚く留守電を聞かねばならないのかわかりかねます。

 妹様の言う通り、死ねば? という気持ちだ。

 あの言い分ではストーカーとかになりそうだから警察にも連絡したほうが良さそうだ。帰る前に最寄りの交番にも相談しておこう。道場の関係者も勤めているから顔見知りだ。


「ほんとに?」


「ええ、問題ありません」


 疑わし気に言われたので、胸を張って主張した。


「それならいいけど」


 腑に落ちないような表情で見返された。うっ。天使様に嘘でもないけど、ほんとのことも言わないのは気が咎める。

 だけど、心配させるので黙っておく。


「次は乗り換えですよ」


 わざと明るい声を出して天使様の腕をとった。思ったより重い。


「ちょ、ちょっと」


「遊園地は待ってくれますが、行列は知らぬ間に伸びているものです」


「そうだけど」


 慌てた天使様と一緒に乗り換えの電車に急いで乗ろうとして、乗り損ねた。危ないからと天使様に制止されたのだ。

 駆け込み乗車はおやめくださいというアナウンスも流れて、反省した。


 その後、無事に遊園地にたどり着くことは出来たのだが。


「……運が悪いな」


「ですね」


 なんと元彼が待ち受けていたのだった。

これまでの話をちょこちょこ手直ししています。天界基準の日数換算をなしにして、下界換算のみに統一したり補足的に書き足したりなどです。内容的には大体変わりません。

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