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【一度しかない人生をもう一度】

作者: あまがみ

私は運が悪い。そう自分に言い聞かせてきた。友人には裏切られ家族には絶縁され、小さな家すら無くなろうとしている。


いつだったかな、最後に笑ったのは。もう、数年前になるだろうか。嗚呼、生きるのが辛い。何も成功しない。いっそのこと死んでしまおうか。もう死ぬ事が怖いとは思わない。


そういえば最近行方不明者が多いと聞いたな。どの行方不明者も自殺志願者で近くの山で自殺しているとみられているらしい。しかし捜索隊が山を捜索しても死体は無い。自殺したであろう大きな木に無数のロープやベルトが吊るされてあるだけだ。木の近くを掘り起こしても何も無い。自殺をしたのではなくこの世から消えた様にも見えた。


山に仲間がいる。孤独の辛さを感じていた自分はそのことが魅力的に思えた。あの山の、みんなが待っている木で死のう。


売れる物を全て売って空っぽだと思っていた押し入れにあったロープを持って山に入る。仲間が用意してくれたんだろう。もう何も不思議とは思えない。やるべき事が一本道のように途切れることがなく続いていた。


何分歩いただろうか、かなり歩いた先に大きな木があった。枝に沢山のロープもある。よく見ると枝が折れた様な跡が沢山あった。人間の重みに耐えられなかった枝がそこにあったことが思い浮かぶ。これだろう。死ぬのが怖い時期もあった。それなのに今は死を望んでいる。一度しかない人生、出来ればやり直したいものだ。


私は死んだ。


(聞こえますか?)


どこからか聞こえた声で目を覚ます。小さい女の子十歳くらいの声。私は死んでないのだろうか。動こうとしても何か厚いものに覆われている。


(今、私が貴方に一つの命を与えています。私の命でもあります。私は昔、貴方が死んだこの木のそばで死んでしまいました。当時、野草を摘みに父とこの山に来て、そこで自分勝手な行動をとってしまい、父とはぐれこの山に遭難してしまったのです。その後さまよって体力を使い免疫が落ちていたのか、高熱が出て、動けずそのまま...。私は大切な命を無駄にしたのです。だから私は誰にも自殺して欲しくありません。私のぶんまで生きて欲しいのです。)


凄く熱く語ってくれている。私も生きて欲しいと思われてる人がいたんだな...。それもまだこんな幼い声の子に。


(私はここで死んでいった人達に命を与え、幸せにさせています。幸せになっていると信じて。)


新しい人生になるのか。私はそれを望んでいた気もする。この世から消えたいんじゃない。幸せになりたいんだ。


(でも外には悪い人達がいて、私の命を与えた人達も殺されていっている。だけど貴方には生きて欲しい。私が持っている力で少しの間私達を見張っている機械を故障させる。その間に逃げて!山を下れば街がある。そこで家族を見つけて新しい人生を歩んで。時間はそんなにないからもう覚悟を決めて。お幸せに。一度しかない人生をもう一度。)


ドンッと音がして。視界が開ける。多少変わっているがここは私が自殺したあの山...。振り向くとそこにある大きな木から私への暖かい気持ちを感じた。せっかく貰った命だ。無駄にはしない。時間が無いと言っていたので走って山を下る。途中柵が二つあったが、問題ない。これくらいなら上れないことはないだろう。二つ目の柵を越えて少し下ると警備のような見た目をした人がいる。悪い人がいると言っていたな...。それはこの人のことだろうか。身を潜めてどこかへ行くのを待った。巡回している様で、少ししたら見えなくなった。今だと思い走り抜ける。


山を下りたら人がいる。街がある。私を待ってくれている家族すらいた。不思議だった。会ったことは無いはずだがこの家族は私を知っていて私もこの家族を知っている。


それからは幸せに過ごした。その家族は優しく私を迎え入れ私を励ました。でもあの木のことは忘れない。いつか会いにいこう。


あれから何年たっただろうか。今はとても死にたいなんて思えない。感謝を伝えたくてあの木へ向かっていた。山の近くへ来ると人がいた。巡回していて、私に気がつくとここから先は危険で、立ち入り禁止と言われた。もしかしてあの木のことを偽装する為なのだろうか。私は数年前この山の木に命を与えられたんだと言ったら驚いた様子でどこかへ連絡をした。しばらくして、「入る許可が降りた。遭難したら大変だろうから君の産まれた場所までは乗り物を手配して案内する」と言われた。用意された乗り物に乗り、案内され木に会った。


(久しぶり。そしてありがとう。)

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